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『ひとりでいる時の淋しさより二人でいる時の孤独の方が哀しい』

2種類の孤独がある、という考え方がある。

機能的孤独 と 構造的孤独。

機能的孤独:自らの状況を孤独であると認識しているかどうか。主観の話。

構造的孤独:友人はいるか結婚しているかなど、社会から見た判断。客観的な話。


この話をしていくために、少し寄り道が必要。

以下はどれも、日本でではなくアメリカで行われた研究だが。

① 50歳以上 約7,500人 の孤独を調査

孤独でない人の死亡率と比べて
・慢性的に孤独な人の死亡率  1.83倍
・一時的に孤独な人の死亡率  1.56倍

② 7年間にわたり 約31万人 の孤独を調査

孤独でない人は慢性的/一時的孤独な人と比べ
・生存率  1.5倍
・肥満や運動不足によるものよりも高い影響
(日本の比ではない肥満度あいの国で)

孤独は心身に影響を与える。


③ 女性大学生 23人 の孤独と脳の活動を研究

楽しい写真を見せた時(例:遊園地で遊ぶ人、犬と一緒に走る人)

・孤独な人は腹側線条体の活性が弱い
・孤独でない人は腹側線条体の活性が強い

腹側線条体は、脳の報酬系に関わる領域。ドーパミンと関係のある部分。

つまり。人や動物との関わりあいで、脳の報酬系が活性化されにくい人が、孤独な人になる可能性がある。

楽しくない写真を見せた時(例:戦闘する兵士、暴力をふるう人)

・孤独な人は視覚野がやや活性
・孤独でない人は側頭頭頂接合部が強く活性

側頭頭頂接合部は、他者の心の状態を推しはかる「心の理論」に関わるとされる、脳の領域。

つまり。孤独でない人は、苦悩する他者に対して、強い思いやりをもつと推測される。

孤独と脳の機能には関連があり、そこには個体差がある。


次に、孤独を進化の観点から見てみる。

ヒトは、カメのように “鎧” で自衛することはできないし、トリのように飛んで逃げることもできない。

ヒトが特徴的にできることとは、さまざまな道具をつくり出したり・仲間と深い意思疎通をはかったり・臨機応変に協力して働いたりすることである。

また、ヒトは、幼少期に長期にわたり、親や大人たちから世話を受けることを必要とする生物だ。

「孤独を感じる」というのは、他者とのつながりをもつことや、それを保つことを自身にうながすためにある、人間の能力なのである。

実は、お腹が空くこと(エネルギーを補給せよというサイン)や、眠くなること(休息をとるべしというサイン)と、さほど変わらないのだ。


前段で書いたように。その能力には、生まれつきの得意不得意 (?) がある。

進化(変化)とは、個体差を含有するものだ。

孤独から苦しみを感じにくい人、他者との関わりに喜びを感じにくい人は、存在する。


ここで、ある人物を紹介したい。

精神科医・脳外科医であり心理学者でもあった、ヴィクトール・エミール・フランクル氏(1905~1997年)。

Prof. Dr. Viktor Frankl

ホロコースト生還者としてのフランクル氏

ウィーンの精神病院にて、心を病んだ人々のために働いていたフランクル氏。

ある日、ナチスによって、強制収容所に収容された。

一緒に連れていかれた父・母・妻は、収容所にて、全員死亡。氏はその場を生き延び、後に、アメリカ軍によって解放された。

もう一度、精神科医として働く。

ある女性と再婚。彼女は、氏の学問的な協力者ともなり、仲むつまじく暮らしたという。

(著書それでも人生にイエスと言うに詳しく書かれている)

フランクル氏と日本の縁、日本人との絆

収容所での日々をつづった『一心理学者の強制収容所体験』は、売れゆきが悪く絶版に。

しかし、ドイツの大学院に留学中だった霜山徳爾氏は、その本に大きな感銘を受ける。霜山氏はフランクル氏に会いに行き、2人は初対面にもかかわらず、意気投合。夜通し語りあった。

霜山氏は、体験記を翻訳して、日本に広めることを約束。帰国後、約束どおり出版。邦題は『夜と霧』。

記録的ベストセラーとなり、その後17カ国語に翻訳された。


たとえ、どんなに辛いことがあっても。他者に向かって心を開き続け、他者との関わりを希う(こいねがう)ことはできる。

十万単位の数の調査、先端技術をもちいた検証、大変長い時間(ヒトの進化)にかかわる考察……そのどれでもない。たった1人の人間を例にあげた話だが。

Holocaust Survivor(ホロコースト・サバイバー)。人間が “本当の孤独” を論じるのに、ここに、何か足りないものがあるだろうか。

フランクル氏は、苦しい運命に耐え抜くことそのものに、価値があるという。状況を変えられないとしても、変えられない状況に対して、どのような態度をとるのか。そこに価値があるという。苦悩は、人々に、ものごとを見抜く力を与えてくれると。


ロゴセラピー

心理療法のひとつ。ロゴとはギリシャ語で「意味」。心を病んだ人々が、自らの生きる意味を見出せるように、援助するという療法だ。

これの創始者は、フランクル氏である。


身体の反応的に・ヒトという生物の特徴的に。孤独であるか孤独でないかとは、友人がいるかいないか・結婚しているかしていないかの違いに、等しい。これは間違いない。

しかし。孤独とは、孤独ではないとは、それだけの話ではないことも、また真実なのではないか。

「君が独りの時、本当に独りの時、誰もができなかったことをなしとげるんだ。だから、しっかりしろ」ジョン・レノン

「あなたを想うだけで心は強くなれる。ひとりでいる時の淋しさより二人でいる時の孤独の方が哀しい」ZARD


参考文献