謎の会社「出前やかた」の呪い④
遺恨
高山社長から聞いた以前のトラブルとはざっとこんな感じだ。
出前やかたとの取引関係は前記した通りだ。
仕事を受注して納品業者に渡す。納品業者が発注元に納品する。
売上金は仲介業者である出前やかたに入金され、手数料が引かれ残金が入金される。
手数料は売上の40%に設定されているので入金されることはあっても請求されることは基本的にありえない。
ところが一年ほど前に請求書がきた。金額1000円。
出前やかたに問い合わせてみた。
どうも出前やかたの設定ミスで月2回払いとなっていたそうだ。これも複雑かつ意味不明な設定だ。
かいつまんで説明すると、月2回払いは15日と末日に入金される。
15日の入金では前月半月分の売上が入金される。この時になぜか手数料は引かない。末日の入金時に一か月分の手数料を引いて入金する。
例えば前半月の売上が4000円とする。残りの半月の売上が0円だとする。
本来は15日入金時点で1000円の手数料を相殺して3000円入金すれば良いものをわざわざ15日入金は4000円で月末入金時にわざわざ1000円請求する仕組みらしい。
説明を聞き請求額の1000円は支払うべき金額だとわかり支払ったそうだ。
そして売上から手数料を相殺して入金してもらうのが原則なので請求がくることがないようにして欲しいと頼んだ。
出前やかた側から月一回払いに変更すればよいとの回答。それを承諾。
そして月一回払いは5日後払いと翌末払いがあると。5日後払いを選択。
すると5日後払いだと手数料が41%になると。1%ならいいかと承諾。
なるほど以前にも同様のトラブルがあったわけだ。
その1%が翌月請求になっており今回の請求書となったと高山社長に告げるとそんな説明は受けていないらしい。
1%かかるとは聞いていたが請求は当然その月の売上から相殺される認識だったと。俺を睨むように言った。
たしかに説明がなければ当然その月の売上から相殺されるという認識になる。ただ俺を睨まれても困る。
高山社長は奥歯を食いしばった表情で続けた。
「20円は5日後払い手数料と理解した。それは払う。」
「ただし振込手数料は出前やかた持ちだ。こちらが負担するべきものではない。」
高山社長の気持ちも理解できる。
来るはずのない請求が来てトラブルになりその解決策として一回払いに変更した。1%だけが翌月請求の説明もない上にそもそも前回のトラブルが解決されていなかったのだ。
でも20円の支払いで振込手数料は440円ほどだろうか?
事務的にはどうやりとりするのだろうか?と素朴な疑問を抱いてしまった。
俺がポカンとしているのを見破られ
「わかったのか!」とドスの利いた声で念を押されてしまった。
レスポンス
俺はビックリしてテーブルのコーヒーをこぼしかけた。
あわてているところに電話が鳴った。
沢村からだ。進展があったのか?
沢村の回答を要約すると。
調査の結果以前のトラブルの時に対応した人物がわかった。
その人物が言うには5日後払いに設定する時に高山社長に1%は翌月請求になると説明したと。したがって出前やかた側に落ち度はなく規定通り支払って欲しいと。
申し訳なさそうに喋る沢村がやるせない。
こちらも高山社長の要望を伝える。
電話の向こうで困っているだろう沢村を想像すると心が痛む。
俺はこれまでの経緯を再度確認した。
一年程前に本来あるはずのない請求が発生した。
それは出前やかた側の設定ミスだった。
その改善を求めて月一回払いにした。
一年後またしても請求があった。
請求内容に関しては理解する。ただしこちらの認識としては売上から相殺されるべきものである。
5日後払い手数料分だけが翌月請求との説明は受けていない。
そもそも一年前の件での問題点が改善されていない。
したがって請求が発生する想定もなく発生したとしてもその支払いに対する費用負担をする義務はない。また費用負担に合意もしていない。
さらにサポートセンターの対応が悪い。
何度も約束を破る。
上記の理由から
高山社長の要望「20円は払う。ただし支払いに生じる経費は出前やかた側の負担」を本体に伝えてもらうことにした。
経緯の確認において沢村が反論できたのは当時の担当者が5日後払い手数料が翌月請求だと説明したという一点だけだった。
これとて文書で契約したわけではなく電話でのやりとりだったのでお互いに証拠もなく水掛け論だ。
沢村の恐縮そうな声を聞いていると心が痛む。
ダメ元で本来の担当者と俺が直接やりとり出来ないかと尋ねると
「それは無理です」と弱々しい声で答えた。
そして明日までに再度問い合わせ返事をすると言った。
お互い仕事だが後味が悪いので少し世間話を振ってみた。
すると衝撃の事実が発覚した。なんと沢村は子会社の所属らしい。
子会社の人間に責任をなすりつけてたのか!
エグイことをしやがるぜ。
だがこれで沢村が呪われていない理由がわかった。
やはり呪われている本体は別にいる。
沢村に責任をなすりつけている奴が本体だ。
こいつが全ての元凶だろう。
※この物語はフィクションです。固有名詞は架空のものです。