僕は『絶対倒産する』と言われたOWNDAYSの社長になった。

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記事

第1話 1.4tの砂利を積んだ2tトラックのハンドルを握る。

2008年1月

東京では新幹線のぞみの喫煙車両廃止に続いて、タクシーでも全国で全面禁煙が実施され、世の愛煙家達には一段と肩身の狭い時代に入りつつあった。
僕は自慢じゃ無いが、超が付く程のヘビースモーカー。
そんな世間の風潮など、どこ吹く風とばかりに、ポケットの数だけタバコを洋服に詰め込んで、禁煙ブームなど「我関せず」といった態度で、途切れることなくあちこちで狼煙のような煙をあげながら、この日も毎

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第2話 初出社

2008年3月1日

東京都内では、一ヶ月前の大雪が嘘のように晴れ渡り、気温はすでに20℃を突破し、季節外れの陽気に公園の陽だまりには、朝から猫の親子が昼寝をし、その鼻先を身軽な雀がピョンピョンと飛び跳ねて行く。そんな穏やかな雰囲気とは対照的に、オンデーズの本社オフィスは、朝からかなり白けた、なんとも言えない、どんよりとした重たい空気感が全てを飲み込むかのように支配していた。
池袋の南口を出て明治

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第3話 荒れる海で眼鏡を回せ。

2008年3月

初出社から三週間後。

本社のほど近くにある回転すし店で、僕は、長尾貴之と、近藤大介の三人で、少し遅い昼食をとりながら話していた。

長尾と近藤は、僕が二十歳の時に埼玉県の片田舎で、小さな喫茶店を始めた時から一緒に仕事をしてきた創業メンバーで、買収以前に経営していたデザイン会社の残務を整理してから、オンデーズに合流してきていた。

この二人の他にも、十名程のメンバーを一緒にオンデ

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第4話  最初の月末「社長、1,000万円足りません」

2008年3月末日

奥野さんは、ウォーミングアップする間もなく、いきなり月末の資金繰りとの格闘の場に放り込まれていた。

「どうすんだよこれ・・いきなり一千万円以上足りないじゃないか。今からこの金を用意するのなんか、どう考えても無理だろ・・」

社員の帰った薄暗いオフィス。引き継いだ稚拙な資金繰り表をシュレッダーに投げ込みながら、奥野さんは自分のデスクでため息まじりに呟いた。

話を少し前に戻そ

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第5話 改革開始

2008年6月 下旬

「社長、社長、起きました?」

長尾が、ハンドルを握りながら僕に声を掛けた。

「おう、いまどの辺?」

僕は寝起きの目をこすりながら、タバコに火をつけて一服ふかすと、飲みかけの缶コーヒーをグッと乾いた喉元へと流し込んだ。

「さっき蔵王を過ぎたので、もうすぐ仙台に着きますよ。もう一眠りしますか?」

僕と長尾は、朝から茨城と福島で3店舗のお店を視察した後、更に北上して、次

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第6話 目立ったもん勝ち

社長就任から数ヶ月、池袋にある本部では、一触即発のような、ひりついた空気が漂っていた。
事の発端は、僕が就任早々に打ち出した1つの改革のスローガンにあった。

【目立ったもん勝ち】

社長に就任してすぐに、僕は一人でオフィスの壁の1番目立つところに、A4のコピー用紙に1文字づつ「改革のスローガン・目立ったもん勝ち!」と書いてデカデカと貼り紙をした。
しかし、このスローガンに、当時の幹部であった部長

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第7話 いざっ最初の勝負!

2008年6⽉ 

池袋東口を出て、明治通り沿いにあるジュンク堂書店の4階にあるカフェ。
ここの喫茶店は、書棚を抜けた隙間から、控えめな入り口を申し訳なさそうに覗かせており、まるで秘密基地のようにひっそりと佇んでいる。その為、一見すると外からこの喫茶店の存在は解りづらく、ジュンク堂書店の常連客しか入ってこない。

この当時、内密の話がある時や、一人きりで静かに考え事をしたい時に、僕は社員や関係者と

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第8話 新店舗

2008年7月

新店舗のオープンが遂に決まった。

ここから新生OWNDAYSの華々しいスタートがいよいよ切られるんだ。このお店がオープンすれば全てが上手くいく。社内のスタッフも一つにまとまり、全国の店舗の売上げも上がる。フランチャイズ展開だって順調に始動するし、財務は一気に健全化され、瞬く間に高収益企業へとV字回復だ。

僕は、ちょっとでも気を抜けばすぐにでも頭を覆いかぶさり奈落の底へと引きず

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第9話 新たな企業の買収と銀行リスケ。

新店舗のオープン準備や社内の制度改革、既存店の売上向上の為に東奔西走しながら、僕たちは同時に2つの大きな作戦も進行させていた。

1つはフランチャイズ加盟店の再編・拡大だ。
当時、オンデーズの店舗は直営7対FC3の⽐率だった。この直営店を、運営力の高いフランチャイズ加盟企業へと売却し、多くの店舗をフランチャイズ化させる事で、資産をオフバランスし、財務を建て直しながら直営3対FC7と、逆の比率に持っ

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第10話 裏切りの予感

「奥野さん、顔色悪いな…」

僕は、奥野さんの顔色がすぐれないのを気づかい、少し申し訳なさそうに声を掛けた。

「奥野さん、大丈夫?」

「さすがにきついですね…毎日会社の帰りにホームに立つと電車に飛び込みたくなる…」

この頃の資金繰りは、日々数万円単位でコントローしていて、なんとかやりくりしつつも、出口は一向に見えてこず、奥野さんの心理的な疲労はピークに達しつつあった。
銀行に対し一斉に借入の

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