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詩/SS/掌編

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詩やSS、掌編小説のまとめ。 サクッと読みたい時に好きなのをどうぞ。
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記事一覧

「夏に喰われる」Chapter2

「夏に喰われる」Chapter2

大した遠出でもないが、
大きなリュックにやれ懐中電灯だの、水筒だの、
ついには頑張って貯めた小遣いなんかをつめる。
それはまるで、ちょっとした冒険のつもりでいて
詰め込んだガラクタは、何かの期待や、
夢だったんだと今では思う。

昔懐かしい、なんてことないビー玉や
おもちゃの双眼鏡、お菓子のおまけなんかは、
部屋の隅で埃をかぶりながらも
まるで宝物のように部屋の隅で埃を被っている。
いつのまにか埃

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隠り世

隠り世

「おやいや、何だか肌寒いですね」
「なんだい。みない顔だ……ここにくるのは初めてかい」
「ええ、まあ」
「そうか。そうか。あ、女将。熱燗くれ」

 そこは古くからある旅館でしたが、あまり名の知れたところではなかったと思います。
 私がここへ辿り着いたのは、越後までの旅路、脚を休めるための休憩にすぎませんでした。
 表は小さな古民家のようでしたが、内へ入ってみるとそれはそれは、中庭を囲む見事な回廊と

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「夏に喰われる」Chapter1

「夏に喰われる」Chapter1

何故か夜が特別になって
温い気温が恋しくて
用もないのに出歩いて
人ではないものと出会う事に少し夢を見る

カンより綺麗なビン
クーラーじゃなくて廃れた扇風機
都会じゃなくてしょっぱい田舎
賑わいを遠くに聞く静寂の駅
花火もいいけど朧げな月明かり
海外? いやいや、古い古い日本

いつもはなんとも思わないはずの黄昏時の電車に
どこか遠くに連れて行かそうな雰囲気を感じる

ちょっと冒険をして
無敵な

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「日々」【詩】

「日々」【詩】

夜は嫌いだ。
夜が明けるから。

ひとりになりたくて、海に出かけた。
寂しくなんてないのに、寂しくなる。
知らない温もりを求めて、誰かに会いたくなるのは
星が私を見下ろしているから。

空を見上げると
暗闇の中にいくつか星が瞬いているというのに
そっちは遠く、遠くの世界に見える。
何も映さない夜の暗闇を
見渡す限りどこまでも広げた海には
なんだか吸い込まれそうになるというのに。

この矛盾が嫌いだ

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「   」【詩】

「   」【詩】

「君は、誰」

あるとき見つけたバーゲンセール
「人間性」の大安売り。
同じペルソナを被ったマネキンが
我が物顔で買って行った。
人間性?
僕は首を傾げたんだ。

いくら吹き払ってもどこにでもいる君に
見慣れてしまった。
「ああ、また君か」
もう強く吹かなくても飛んでいくほど薄っぺらい。
おかしいな、さっきも吹いたのに。
そうか、またニセモノか。

当たり障りないマジョリティ
無難であんぱい
「ま

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