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#歴史

【短編小説】大日本帝国憲法公布、とあるその日その後

【短編小説】大日本帝国憲法公布、とあるその日その後

「明治22年2月11日の憲法公布日。私が尋常小学校の五年生のときでした。忘れもしませんよ。あの日は前夜から大雪で、朝目を覚ますと一面の銀世界だったのを覚えています。父は下界を洗う清めの雪だなんて喜んでいました。いや、忘れないというのは雪のことじゃありません。目の前で見た悲惨な死亡事故のことです。国民総出で千古不磨の大典を祝す中、尊い命が犠牲になる痛ましい事故が起きました。場所は丸の内通りから和田倉

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【短編小説】落ちて流れて(明治時代:スリ師に落ちぶれた元武士の話)

【短編小説】落ちて流れて(明治時代:スリ師に落ちぶれた元武士の話)

与五郎の細い目は、周囲の客と同様、舞台上の洋装に身を固めた男の手先に向いている。

ただひとつ違うのは、客たちがその手先から繰り出される華麗な手妻に感嘆の声をもらしているのに対し、与五郎の表情はいかにも無感動で、声ひとつ上げず、腕を組んだまま石のように動かないことだった。

与五郎の左横には、丹後縮緬の小袖に身を包んだ若い娘が座っている。着物には桔梗の花をかたどった小竹藩の家紋が入っている。その身

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短編小説『神の石』

短編小説『神の石』

灰島次郎にとって昭和20年8月15日は、職務に追われる慌ただしい日となった。

玉音放送を署内で聞いてから二時間後、東京都町田市××町の民家で長男が首を刺され殺害されたという一報が飛び込んできたのである。先ほどの放送は果たして戦争終結を告げたものなのか、それとも本土決戦に備えて陛下御自ら叱咤激励されたのか、判然としないまま灰島は部下の池沢直吉とともに現場へ急行した。

現場に着いてみると、庭で男性

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【短編小説】徳川のお面

【短編小説】徳川のお面

小汚いお面を手に帰宅した道夫を、俊子は叱りつけた。そんなガラクタを拾ってどうする、行儀もよろしくない、第一人様のものだったらどうするのだと、ガミガミまくし立てた。空き地のゴミ溜めに放り込まれていたのだから問題ないやい、と抗弁する道夫の声にも耳を傾けず、お面を取り上げた。よく見ると安物のお面ではない。能で使われる小面のようで、伝統工芸品であるのは素人目でもわかった。ただそれよりも、口を小さく開けて何

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歴史×創作|渋沢栄一の生まれ変わりを主張する男と、私|短編小説

歴史×創作|渋沢栄一の生まれ変わりを主張する男と、私|短編小説

妻が欲しがる人気のマタニティシューズは、いっこうにみつからなかった。

何でもそれは世界的なバレエダンサーも愛用する妊婦用のパンプスで、検索すれば必ず取り扱うECサイトが二つか三つは出てくるはずだから、買い物から帰ってくるまでに見つけてほしいと妻に言い渡されたのに、これ以上ブルーライトを浴びながら検索に励んでも釣果は期待できそうにない。それより私は新しいタブを開くたびにブックマークバーの四角い赤の

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掌編小説『とある司令長官の手記』

掌編小説『とある司令長官の手記』

ここに、一枚のメモ書きがある。

これは、僕が日ごろ仲良くさせてもらっている、インドネシアから来た留学生が持っているもので、『三田司令長官の調書記録』とつたない文字で書かれている。その下には、これまたつたない日本語が横書きでつづられ、ぎっしりと紙面を埋め尽くしていた。

インドネシア人の話によると、これを書いたのは彼のお爺さんで、日本のインドネシア占領下、日本軍から日本語を教えられ、日本式の軍事教

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