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2020年10月の記事一覧

小説 ケア・ドリフト⑬

小説 ケア・ドリフト⑬

 部屋に取り残された丹野は呆然としていた。「距離を置きたい」と言われたのも初めてなら、日頃から大人しい結衣が激昂した姿を見たのも初めてだった。

「貯金しなければならない、その為には・・・」

 そう考えると頭痛がしてきた。さっきまで、吸いたいと思っていたタバコも吸ってしまうと、頭痛に吐き気が加わりそうな気がして止めた。もう寝てしまおう。そう思った時、丹野が見つめていたのは角の折れ曲がった岡田の名

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小説 ケア・ドリフト⑫

小説 ケア・ドリフト⑫

 それから数日経って、彼は転職のことなど、目の前の仕事に追われてすっかり忘れてしまっていた。数日前の熱狂が嘘のように、冷めきった様子で淡々と仕事にあたっていた。入居者の食事、入浴、排泄の世話をし、そこにやりがいを感じる日々。いやそこに「やりがいのある仕事」というキラキラしたシールを張り付けておかないと、緊張の糸が切れてしまいそうなのである。
 結衣とも会えない日々が続いていた。ラインを送りあうこと

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小説 ケア・ドリフト⑪

小説 ケア・ドリフト⑪

 丹野は施設長に呼び出され、面談を受けていた。青嶋と飲みに行った日から、数日経っていた。
「丹野君は、いつもよく働いてくれている。頭が上がらないよ」
 施設長はいつも職員を持ち上げることから会話を始める。丹野もそのようなことは百も承知なので、
「そうですか、ありがとうございます」
 と軽く受け流す。面談に使われている部屋は、小会議室という八畳程のスペースにテーブルが一つ、椅子が四脚置かれているスペ

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小説 ケア・ドリフト⑩

小説 ケア・ドリフト⑩

 その晩、丹野は頭痛のひどさに何も食べられず、缶ビールを一本だけ飲んで、ベッドに横になっていた。横になっていると、頭痛が多少軽減される気がするようである。彼はいろんなことを考えては独り言として呟いた。
「貯金は今、一五〇万くらいあったかな。これから節約して貯金して、結衣との結婚資金に充てるんだ。その為には、今からでも禁煙して、タバコ代をケチらなきゃな」
 そんなことをしながら、独り言は自然と転職の

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小説 ケア・ドリフト⑨

小説 ケア・ドリフト⑨

「どういうことですか?ちゃんと説明してください」
 丹野や若菜など施設に勤める職員たちは施設長に詰め寄っていた。その先頭に立っていたのは、国本看護主任と東野介護主任である。
「だから、落ち着いてください。ちゃんと説明しますから」
「だったら、詳しく説明してくださいよ。全員の給料を二割削減するってどういうことですか!」
 丹野はこのところ頭痛がひどく、半分程度の理解で話を聞いていた。結衣のお見合いの

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小説 ケア・ドリフト⑧

小説 ケア・ドリフト⑧

 ユニットのメンバーは自然とユニットに集まっていった。勿論、その中には丹野も含まれる。あの施設長や主任の説明では納得できないと誰もが感じ取っていた。
「どうして何も家族さんと話しちゃいけないの?それが全然分かんない。施設長も主任もバカじゃないの」
 若菜の怒りのトーンは天をも突き抜けんばかりであった。
「若菜さん、怒る気持ちは分からないでもないけど、ここで言うことじゃないわよ」
「丹野さん、じゃあ

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小説 ケア・ドリフト⑦

小説 ケア・ドリフト⑦

 結局、個人的な面談は開かれないまま、ユニットミーティングの日を迎えた。丹野は、上は口だけじゃないかと憤りを感じてもいたが、施設の状況をつぶさに見てきた彼としては、仕方がないだろうという思いもあった。しかし、最大の想いは面倒なことにかかわりたくないということだった。
 

 数日前、青嶋にメールを送ってから、返信が来たのはユニットミーティング当日だった。丹野が送ったメールは至ってシンプルなものだっ

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