マガジンのカバー画像

私だけの詩領域

25
詩の価値なんて知らないよ これは私だけの空だ
運営しているクリエイター

#創作

終末の恋人たち

終末の恋人たち

「明日さ」

「うん」

「デートしよう」

「いいよ どこで?」

「きみがいれば どこでも」

「そういうことじゃないでしょう」

「ごめん」

………

「もう夜になるね 夕ごはん どうしようか」

「わたし なにかつくるよ なにがいい?」

「きみがつくるものなら なんでも」

「それが いちばん困るんだって」

「ごめん」

………

「ねえ」

「うん」

「明日 どうしようか」

もっとみる

SNSに疲れたくせに、つぶやきじみたものを書き残したい夜だ

自分のことを安心して話していいのだと、思える場所は多くない。相手を気持ちよくするのが会話のコツだと、就活のとき教わった。目を見る、相槌を打つ、続きを促す。よく笑い、よく食べ、決して怒らない。そうしていれば人は自分を嫌わない。自分はここにいてもいい。そうしないと生きていけない。

でもあるとき、ぐしゃんと崩れた。運ばれる前に崩れたホールケーキ。返信する前に充電が切れたスマートフォン。くるしい言葉ばか

もっとみる
恋文の花吹雪

恋文の花吹雪

桜の花びらが美しいのは、神様が破り捨てた恋文の破片だかららしい。

数多の恋で星は汚れて、清掃業者は日々過労。

恋を失ったような顔で、恋に恋して恋い焦がれる、少女たちの向かう地獄。花が咲き乱れる地獄。

「愛してる」のエネルギーで自転は起こる、と唱えた研究者が死んだ。遺書の代わりに残されていたのは、未投函のままの恋文だった。相手は10年も前に、別の男と愛し合い、一人で死んでいた。

「尚、愛して

もっとみる

東京未遂

東京へ逃げたい、と一度でも思ったことがある人とは、深い関係になれると信じている。

行きたい、ではない。
逃げたい。
正確に言語化するなら、「ここではないどこかで救われたい」。

家出しても、行き場所なんてどこにもなかった頃。ネカフェは徒歩圏内にはなくて、コンビニすら遠くて、泊めてくれる人もいなくて。街灯のない夜道を、涙を流すのも忘れて徘徊していた頃。私は東京に行きたかった。ほんとうに行きたかった

もっとみる

きっとそれでも愛だった

愛だった
愛だ愛だだ愛だった
愛だ 愛だだ るんたったった

秋の真夜中に
ただ
なんの意味もなく
愛の定義すら
見つけられないまま
書き連ねた短歌を
そっと焚火で燃やす


きみは愛でしたか
今年も愛でしたか
愛は地球を
救いましたか

ぼくは愛でしたよ
きっと愛でしたよ
血も涙も傷もすべて
きっと きっと愛でした

私を忘れてくれたひと
このたびはどうも ありがとう
私を憶えててくれたひと

もっとみる
【作詞】夜未満

【作詞】夜未満

1

PM5:23
ブルーライトに沈んだ目
私の心は汚れちゃって 
処女喪失した日を覚えてない

ほしいメッセージが届かなきゃ
機種変したって意味がない
最新型のスマートフォン
動悸と同じバイブ音

*

給湯室
窮屈そうなキス
見ちゃったの
あいつとあいつの蜜

「生まれつき文学と既婚なんで
愛とかいらないタイプなんで」

そうやって掲げた免罪符に
苦しんでんの自分でしょ

**

もうつらいや

もっとみる