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ひび

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日々のことについて文章を書きます。
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2018年11月の記事一覧

スーツ

たとえば音楽をしている人は、ライヴのたびに楽器や機材を大層に抱えて息を切らしながら会場へ向かう。弦楽器の弦が切れたら新しい弦を買わなければならないし、機材が壊れたら修理しなければならない。大変なことである。しかし逆に、まとまった金が入れば、新しいギターを買うんだとか、新しいシンセサイザーを買うんだとか、何だか楽しげで、羨ましい。画家ならば絵具やキャンバス、写真家ならばカメラやレンズ、それらは表現に

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炬燵には手を出すな

ここのところ、急激に寒くなったような気がする。実際に気温が低下しているのだから仕方無いが、それにしても嫌がらせのように寒い。毎年必ず当たり前の顔をして、年の瀬はやって来る。その度に我々は冬の匂いを嗅ぎながら、無意味にノスタルジーな気分に浸り、今年ももうじき終わるね、それにしても寒いね、を連発しながら、いつの間にか一年を終える。自分もそうだ。起きると、さぶぅ、と言って、脱衣所で服を脱ぐとき、さっぶぅ

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正岡子規を舐めるなよ

先日、松山へ行き、温泉に浸かったり団子を食べたりして癒やされた。首の痛みが少しは落ち着くかと思ったが、やはり痛くて、それでも癒やされたことには違いない。道後は昔から湯の町で、湯神社、などという神社もある。夏目漱石が中学校教師をしていたのもこのあたりで、『坊っちゃん』の舞台となっている。青空が広がり、湯あがりの体に吹く冷たい風はことさらに気持ち良く、蜜柑ジュースを飲みながらふらふら歩いていると、正岡

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ひとりカラオケ

自分は、たまに、ひとりカラオケに行く。昔はひとりカラオケなんぞ能無しの腑抜けがやるものと思っていた。大体、歌というものは、いつ何時どこにいても、歌いたいときに歌うことが出来るもので、金を払って歌を歌うという行為自体が、そもそも馬鹿馬鹿しい。それに仲間内でもなくひとりでわざわざカラオケへ行って、思考停止の猿じゃあるまいし、人間の所業ではない、と思っていた。しかし友人いわく、ひとりカラオケは最高だ、恥

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慈悲と恥辱

先日、サ店でへらへらしていたら、肩を叩かれ振り返ると欧米系の外人が立っていた。おもちゃサイズの日本の国旗を何本か持っており、そのうち一本を自分に手渡した。まったく突然のプレゼントに、何の意味も不明だったが、自分は、サンキューと受け取った。すると外人、紙を見せてきて、そこには「私は聴覚障害者です。外人の障害者が日本で暮らすのは大変です。日本は大好きです。国旗をあげるんで、私のために500円恵んでくれ

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自分は、人前では気丈に振る舞っているが、一人のときはウジ虫である。舞台を終えた後は大体いつも反省でいっぱいで、もっとこうしておけば良かった、あれを言うのを忘れた、などと振り返りながら部屋で一人ウジウジしてしまう。そこから思考は巡り、己の未熟さや至らなさや人気の無さへと派生して広がる闇を恥じるうち、誰もあたしを分かってくれなぁい、などと処女みたいな痛々しさを帯びて、いっそのこと遠いところへ旅でも行こ

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銀色の青

久しぶりに本屋で本を買った。最近はブックオフなどの古本屋でばかり本を買っていて、たまには本屋で新刊の本でも買おうと立ち寄ってぶらぶら見定めた結果、平積みされていた、笑い飯哲夫さんの『銀色の青』という小説が目に入り、否応なしに手に取って、そのまま購入した。

というのも、何年か前に『花びらに寄る性記』という本を読んだとき、それはもう、滅茶苦茶に面白かった。という記憶が蘇った上に、『銀色の青』は、新作

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占い

先日、亀(自分がやっているサ店)に、占い師がやって来た。

占いますか?と言われたので、別にいいです、とクールに断った。ところが、しばらくして、やっぱりちょっと占って欲しいな、と自分は思った。しかし一度断った手前、あ、あのう、やっぱりぃ、ぼ、ぼくは、う、占って欲しいんだナァ、と言うのも気がひけるので、小声で、1988年1月7日、とだけ呟いた。すると占い師はくすっと笑って、マニュアル的な動作で紙に何

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もてるための方法

自分の人生を思い返す。もう少し、もてたかったな、と思う。もしも、もてていれば、きっと、もっと、華やかな人生になってnoteなんてやらなかっただろう。けれども、それはパラレルワールドのお話で、現実、自分はもてなかった。これからも、大してもてることは無いだろうと思う。過去、自分に惚れたであろう女性も何人かはいたけれど、皆、どちらかというと少数派の特殊訓練隊みたいな人たちばかりだった。そもそも、30歳で

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空虚の穴

「もう11月か」と昨日から何遍も言っている。今年のスピードは異様に速い気がする。年明けて、春になり、夏の猛暑があって、肌寒くなり、もう年末。特に何もしていないのに、駆け抜けるように時が流れた。このまま何もせず、老衰していくのかな、と思う。ぶたじゃん。サイテーじゃん。

30歳になっても、何も変わらず、悲惨なままで、現実に目を背けながら、笑って、怒って、ちんちんを触っている。大人というものが、いかに

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銭湯レビュー(★★★★★)

先日、久しぶりに当たりの銭湯を見つけて心が踊った。自分は時折思い付いて、ふらりと銭湯に入ったり、サ店に入ったりする。大概は、まあ、まあ、といった感じなのだが、ごく稀に、想像を超えてくる、素晴らしい店、つまり当たりの店を見つけることがある。

当たりの銭湯と当たりのサ店を見つけたときの高揚感と優越感は一体何なのだろうか。うわ、ええやん、こらええわ、最&高、と独り言を巻き散らかしたくなる。そして、これ

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