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短歌五首(16) 6/10
「我」を生き「我」に死すことほど酷なことはあるまい我、我をぶつ
起き抜けに「もう死にたし」と思えども叩きし頬はいのちの痛み
このペンで吾の首刺せば青インクと血の交わり美しきかな
白き手首に冷たきニブをあててみん背後死の香り透けたり
自らを救う歌をば作らんと生の証明その青インク
短歌五首(15) 6/9
食いすぎて吐き気あり吾の白き腹つまみてひんやり醜きを知る
哀しみに向かいて歩めそしておりおり愛でよ紫陽花の青をば
鏡前笑う練習ぬかりなし誰がためでなく我のためなり
友くれしノートに綴る心の欠片を集めて歌とたらしむ
夫よりたまわるドイツの万年筆映え映えし彼の目のごとし
短歌五首(14) 6/9
思考も伝達も足りぬとさとすは清し匂いの春の雨かな
「美しい!」吾の眼球を褒めし医者人知れず死す桜も見ずに
彼の街で吾を和ませしヒヨドリが此方でも鳴けり嬉しがらずや
ファミレスでラジオを独り聴きながら笑いを殺す快感もあり
嘘つきが真の正直者なり天も奴らに慈雨を降らさん
短歌五首(13) 6/9
深かりし心の穴は空(くう)の味ほおばり砕く音もさびしき
君教う空しき心の置き場所は汝はにかみしふる年の秋
初夏の風とピアノは今まじり寝ころぶ人の耳に届きぬ
涼風は夢を誘いぬ鍵盤の音は現にわれ引き戻す
たが弾きしピアノの音は吾の心やさしくさせし夜の風吹く
短歌五首(12) 6/7,9
春潮のうねりを眺む旅人は家路をわすれ夢路をたどる
とめどなき波間に浮かせし浮かばれぬ恋もいつかは大海の砂
カフェラテの濃さに重ねしわが恋の抜かれしシュガーはポットの光彩
十二より猫背になりし我なれど自愛の意味を知りし二十五
猫背歴十三年の生き方は呼吸も夢も浅くなりにき
短歌 2022.9.10
清月の透けたる光に触れたしと伸ばす腕(かいな)の抱く儚さ
名月も秘密と嘘を孕みつつ叢雲わけてゆるゆる昇る
十五夜の虫は命を震わせて月に負けじと燐の火放つ
宇宙より吹く風の色金青(こんじょう)の色我の心を染め上げ給う
月一つおのおの見上げる名月は一つにあらず一つにあらず
月光のスポットライトは君と吾の二人が入る円周なりけり
十六夜は皆の忘れし月夜なり思えば我の袖も乾きぬ
短歌五首 (11)8/17
君の眼球舐めさせて輝きの満つ星のかけらとなるように
(潤んだ瞳が星のかけらになる。)
脳味噌か子宮か。稀に白いガーベラ。愛のtheoryは逆光
(愛のセオリーはなんだかちぐはぐである。)
気持ちしかなくてもう熱っぽくて裸一貫で君を愛する
(地位も名誉も肩書きも金もない私には、君への気持ちしかない。その気持ちは熱っぽさを引き連れている。)
きっと君の場所もひぐらしが鳴いて君も寂しさで木々に溶け