釣り堀から連れて帰るのは、いつも病気のコか、ケガをしているコ
室内釣り堀で釣れたたくさんの金魚の中から、3匹まで追加料金なしで持って帰られると知ったとき、親友は迷わず、その1匹に片目のない金魚を選んだ。
「このコがいいです」
「えっ?!」
店員は少し驚いていたが、親友が金魚をいちばん最初に指名したこと、その金魚を『このコ』と愛情たっぷりに呼んだこと、その金魚をいとおしそうに眺めていたことから、
「その金魚、片目が(取れていますよ)」
の言葉を途中で飲み込んだ。
「(片目は取れているけれど)結構、元気そうだね。意外と長生きするんだね?」
帰りの車の中で、生物全般に詳しい親友に話しかけた。
「たぶん、長くは生きられないと思う」
わたしはハッとした。親友には、室内釣り堀の料金の元を取ろうなんて気持ちは微塵もなかったのだ。
室内釣り堀で、毎日チラホラ金魚が横になって浮いている。それを店員が網ですくい取っては素早く処理をしている。
そんな光景は当たり前だと思っていたが、親友には、自分が釣った金魚の一部も近々そうなるのがいたたまれなかったのだろう。
「人間はお金を使って、命ある生き物と釣り堀を通して遊ばせてもらっている。だから、ほんとうは自分が釣った金魚は全部持ち帰って水槽で飼いたいが、それは許されないので、余命いくばくもなく弱っている金魚がいるならば、せめて最期までそのコの面倒だけでも看たい」
親友が言ってる内容は一部矛盾を感じるかもしれないが、親友は、釣り針に引っ掛かった金魚は素手で掴むことも、床に触れされることもなく、手首のスナップのみで金魚を水が張ったバケツに入れる特技を持つので、金魚にヤケドを負わせるなんて仕打ちはしないし、釣りが上手いので、釣り針で不必要に金魚のカラダに傷をつけるミスもしない。
その後、親友の家の水槽で飼われたそのコは、薬剤を使って処置を施したり、エサや水温・水質を元気な金魚以上に気を遣ったので、思った以上に長生きをした。
亡くなった後は、親友が丁寧に土に埋めて自然にかえした。
「今まで、いっぱい、いっぱい、ありがとう。このコの存在が、プライベートの一つの楽しみであり、生き甲斐だったよ」
感謝の気持ちをありったけ込めて、泣き笑いしながら、お見送りをしたそうです。
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