いちりんほどの暖かさ。
庭の水仙が咲きました。
手入れの行き届かない庭の隅のほうで自生していて、でも球根なので、どうやって自生したのかなと思っています。
誰かが球根を捨てたのか、それとも、どうにかして種から育ったのか。
…なんでもええ、なんでもええ、
生きてさえいれば、なんでもええ…
目の前にいる私とは目を合わせずに、祖父は言った。
祖母が脳梗塞で倒れて、一命は取りとめたけれど、後遺症が残っていた。
あきらめと、さみしさが、目の奥に巣食っていた。
その頃、私の人生には島根の「し」の字もなかった。
私はいま、島根にいる。
ここで、季節のめぐりを感じている。
この前知り合ったかたは、祖父が戦時中を過ごした飛行場のあるまちから来た。
カミカゼとして、いのちと名誉を不等価交換する一歩手前で戦争が終わった。
そして、いのちを続けて、いのちを繋いだ。
この水仙はたぶんずっと前から、ここで毎年花を咲かせてきた。
なぜだか分からないけれど続いたものが目の前にあって、なぜだか分からないけれど続かなかったものは目の前にない。
水仙も私も、お互いになぜだか分からなくて、ほんとうに妙ちくりんな時間だった。
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脳梗塞の後遺症で鼻の効かなくなった祖母でしたが、花瓶に生けた水仙を見て、「ええ香りやね〜」と言ったことがありました。
香りって、鼻から吸うに限らないんだと思ったりしました。
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島根県石見地方、川本町という人口3500人の小さな町地域おこし協力隊として、染織をしています。協力隊の任期後に作家として独立し、「石見織」を創立するために、日々全力投球。神奈川県横浜市出身。