陽気にラップ歌う暇があったら逃げろ!ヒトコワと思わせての超絶怒涛のオカルトフェイクドキュメンタリー「DASHCAM ダッシュカム」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(678日目)
「DASHCAM ダッシュカム」(2021)
ロブ•サヴェッジ監督
◆あらすじ
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女性ラッパーで迷惑系ライブ配信者として人気を得ているアニーは、ロサンゼルスでのコロナ規制にうんざりしてイギリスに住んでいる昔の音楽仲間であるストレッチを訪ねる。しかし今や配達員として生計を立てる彼には迷惑がられ、同居の恋人に拒絶されて追い出されてしまう。頭にきたアニーは、ストレッチの車とスマホを盗み、ライブ配信をしながら、ストレッチのフードデリバリーの仕事をなりすます。向かったレストランで彼女は店のオーナーから大金を積まれ、一人の女性を運ぶ奇妙な配達依頼を受ける。悪態をつきながら目的先へ向かうアニーだったが、それは想像を絶する恐怖の幕開けが待っていた…(Filmarksより引用)
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公式サイト↓
いわゆるファウンド•フッテージ(フェイクドキュメンタリー)のPOVホラー映画で、「インシディアス」シリーズや「ハッピー•デス•デイ」(’17)、「M3GAN ミーガン」(’23)等でお馴染みのブラムハウス•プロダクションズ製作の作品です。
※POVとは
あらすじを読む限りは『厄介者の女性ラッパーが高額なギャラに釣られ、何やら危険なニオイがする人運びを引き受けてしまう』というヒトコワ系の映画かと思いましたが、とんでもない!
空中浮遊や瞬間移動をこなす凶暴なモンスターババアやそのババアを追う謎のショットガン使いの女、そしてカルト宗教団体の集団自決等など、説明がつかない超常現象や怪奇現象のオンパレードで、これはいったい何ホラーなんだと脳がバグり散らかします。挙句の果てには主人公アニーを演じたアニー•ハーディ氏によるフル尺のオリジナルラップのエンディングで締め括るなど、最後の最後まで散々っぱら我々視聴者の情緒を乱します。(エンディングのラップを長くするように言ったのはプロデューサーのジェイソン•ブラム氏だそうです)
荒削りな部分もあるし、下品なセリフやシーンが異常に多く、見る人によっては気分を害するかもしれません。
しかし!
ここまで挑戦的に攻めの姿勢を貫いていると否が応でも印象に残りますし、実際のところ、POV映画としてもホラー映画としても相当完成度は高いと思います。
主人公アニー役のアニー•ハーディ氏はジャイアント•ドラッグのソングライター、リードボーカル、ギタリストとして活躍している世界的に有名なミュージシャンです。
長編映画初主演となる今作の作中で彼女が歌うラップは全て即興で、キャラクターの方向性やセリフなどもその場その場のライブ感で生み出されたものがほとんどだったそうです。監督曰く「この映画は彼女の頭の中身そのものだよ」とのことです。
そんな監督を務めたロブ•サヴェッジ氏は今作が長編映画2作目であり、デビュー作の「ズーム/見えない参加者」(’20)も今作もコロナ禍のタイミングでの撮影で、相当大変だったそうです。しかしその都度様々な創意工夫で乗り越え、唯一無二の独創的な作品を生み出しております。
アニー•ハーディ氏は実際にYouTubeで『バンド・カー』というライブ配信を行っており、その「視聴者からのコメントを元に車を運転しながら即興で歌詞を作る」という配信を見たサヴェッジ監督たちは、そこから「これはファウンド•フッテージのホラー映画の設定に使えそうだ!」と着想を得たそうです。
個人的にはデビュー作の「ズーム/見えない参加者」も中々に面白いのでオススメです。ちょうど日本ではZOOMなどを用いたオンラインでのやりとりが浸透してきた2021年に公開されたこともあり、パソコン上のZOOMのやりとりのみで構成された斬新な内容がその当時は珍しかったため、かなり話題になった記憶があります。
ちなみに今作に登場する脇役(ストレッチの恋人、レストランのオーナー、事故に巻き込まれる若い夫婦、終盤に登場するモンスター等)はそのほとんどが「ズーム/見えない参加者」のメインキャストで固められているため、「ズーム」と「ダッシュカム」を立て続けに視聴するというのも相当面白いと思います。
今作は公開されてまだ間もないため配信などはまだないようですが、現在アマゾンプライム、U-NEXT、hulu、楽天TV、DMMTV、Lemino、TELASAなどでレンタルが可能です。(値段は400〜500円ほど)
ちなみに「ズーム/見えない参加者」はU-NEXTとhuluで配信中です。
◇迷惑系配信者でラッパーのアニーはアメリカでのコロナ規制に辟易し、音楽仲間のストレッチを訪ねるためにイギリスへと足を運ぶ。しかし、いつまでもバカなことをやって周囲に迷惑をかけているアニーとは違い、ストレッチは真っ当に働いており、彼女を鬱陶しがる。逆ギレしたアニーは彼の車とスマホを盗んで逃走。さらには彼になりすましてデリバリーの仕事を引き受ける。依頼のあった店を訪れると店主から“病気で意識朦朧とした老婆をある場所まで運んでほしい”と頼まれる。高額のギャラに目が眩んだアニーはそれを引き受け、老婆を車に乗せるも、それは想像を絶する地獄の始まりだった。
といった感じで始まります。
冒頭でも言いましたがここまでを見ると、安易に老婆を乗せたことでアニーがとんでもない犯罪に巻き込まれたりするパニックスリラーやヒトコワ的なホラーなのかと思いましたが全然違いました。
車中で糞尿を漏らしてしまったアンジェラを仕方なくトイレに連れて行くも、そこにショットガンを持った謎の女性が「アンジェラを返せ」と急襲。さらには突如凶暴化したアンジェラが暴走。ライブ配信を見て場所を特定し、車を取り返すためにやってきたストレッチとともにアニーは逃走を図るも、なぜか後部座席にはまたアンジェラが座っており…
といった感じに、ここから怒涛の怪奇現象が巻き起こるわ、アンジェラが大暴れするわ、さっきの謎の女性が追ってくるわでてんやわんやとなります。
主人公のアニーはとにかく空気を読まない過激なトラブルメーカーなうえに、発言や行動の一つ一つが本当に下品です。「私が欲しいのはチンコ」、「お尻のビッフェよ」、「後ろにいるのはペニスを抜いたあんたのパパよ」等のお下劣発言や、寝ているストレッチに唾を垂らした手でビンタして叩き起こすという最悪過ぎる寝起きドッキリ、マスク着用を求める飲食店で喚き散らして中指を立てるなど、えげつないくらいにヘイトを集めます。
おそらくは見ている我々視聴者の大半は「アニーが酷い目に遭いますように」と心の底から願うのではないでしょうか。本来であれば真っ先に殺されるようなキャラクターで、ましてや到底主人公にはならなそうな人物ですが、このアニーのキャラクター像についてサヴェッジ監督は、
と証言しており、意図したものであることが分かります。
実際、アニーはひたすら酷い目に遭い続けます。これが好感度の高いキャラならば「かわいそう…」となってしまいますので、清々しいまでにクズが主人公の方がこの作品の場合は良いんだと思います。
基本的には終始アニーがライブ配信をしているため、その一部始終が数十〜百人の視聴者にリアルタイムで見られています。ところどころ回線が中断されてしまうところもありますが、その時もアニーのスマホを通した映像視点で展開していきます。
一つ疑問なのが、アニーが自分の配信のために常にスマホを持って移動したり、カメラ目線で話すのは分かるんですけども、逃げ出したアニーを追うストレッチがわざわざ彼女のスマホを持って追いかけたりするのは少々ご都合主義かなとも思ってしまいました。ストレッチが撮る側に回る理由付けが欲しかったです。
物語の終盤でアニーが逃げ込んだ廃屋が実は依頼主からアンジェラを送り届けてくれと言われていた場所でした。偶然にも程がありますが、そこでアニーは虚ろな表情の人々が首を掻っ切って自決するという異様な光景を目にしてしまいます。そしてまたアンジェラが襲ってくるもなんとか撃退。しかし、クリーチャー化したアンジェラが再び追ってくる。
という風にとんでもない畳み掛け方をしてくるんですけども、このあたりは大分謎が多く、正直私も「どういうことなんだろう」となってしまいました。そんな私の疑問はお構いなしに物語は猛スピードで駆け抜けてしまいますが…
この部分に関しては
と監督がコメントしていました。
アンジェラについては明らかにされていない部分も多々ありましたが、作中何度も襲ってきた謎の女性は自分のことをアンジェラの母親で、アンジェラは本当は16歳だと発言します。アンジェラと思わしき若い女性の写真もあるし、腹部のタトゥーも一致することからおそらく彼女の言っていることは本当なんだと思います。
これは私の想像ですが、アンジェラはカルト集団によって悪魔を宿されて以来ずっと拘束されていたのかもしれません。口を縫われていたのも叫び声をあげないようにするためのものだったのでしょう。レストランのオーナーもカルト集団の一員で、そろそろアンジェラの命が尽きようとしていたタイミングでのこのこやって来たアニーを次の宿主にしようと思案したのかもしれません。
アンジェラの母はずっとアンジェラの行方を追っており、独自に情報を掴んだのか、それとも偶然アニーの配信を見たのかは定かではありませんが、なんとかして我が娘を取り戻そうと奮闘していんだと思います。または彼女も元はカルト集団の一員だったけど、アンジェラが宿主に選ばれてしまったことで脱会を試みるが阻止され、離れ離れにされてしまったという展開も想像できますね。
ちなみに視聴者のコメントはサヴェッジ監督自ら考えて打ち込んでいるらしく、このコメント部分に注目してもう一度視聴したらまた新しい発見があるかもしれません。好き嫌いが分かれる作品かもですが、個人的には中々にエッジが効いており好きでした。
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