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タコ神様を讃えよう!海洋生物になりたい人たちが唱える愉快な呪文「DAGON ダゴン」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(658日目)

「DAGON ダゴン」(2001)
スチュアート・ゴードン監督

◆あらすじ
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ITビジネスで一山当てたポールたちはヨットでバカンス中に嵐に遭い、沿岸の漁村に流れ着く。村は海の邪神・ダゴンを崇拝しており、女性の生贄を必要としていた。ポールたちは不気味な村民に狙われ、また自らの呪われた出自を知ることになる。(Filmarksより引用)
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『若いカップルが偶然立ち寄った港町は“ダゴン”というタコの神を崇拝する異形の者たちが暮らす激ヤバな町だった』という、変な因習•風習がある土地に迷いこんじゃった系のスペイン発のホラー映画です。

色々詰め込んだ感じのジャケ写が堪りませんね。
どことなくインド映画っぽく見えなくもないですがスペインの作品です。(Amazon.co.jpより引用)

原作はアメリカのホラー小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト氏によって1936年に発表された「インスマスを覆う影」で、この作品は「ダニッチの怪」(’28)、「クトゥルフの呼び声」(’28)と並ぶ同氏の代表作でもあります。

私は原作については未読で、あくまで上記のWikipediaのあらすじを読んだだけに過ぎませんが、原作の方が映画よりも内容が洗練されており、余計な部分を削ぎ落としているような印象でした。

映画本編の港町に着いてから中盤までの展開はおおかた原作に沿っているようなんですけども、

『株で一山当てた若いカップル(ポールとバーバラ)と知り合いの中年夫婦(ヴィッキーとハワード)がクルージングの最中、ヨットが座礁してしまい身動きが取れなくなる。負傷したヴィッキーたちのためにポールとバーバラは避難用のボートで近くの港町に助けを求めに行く』

という、ポールたちが港町インボッカに辿り着くまでの冒頭のおよそ10分がかなり退屈でした。「株で一山当てた金でバカンス」という設定も非常に安っぽく、ポールやバーバラの人間性、ヴィッキーたちとの関係性など必要な情報は何も分からないまま、本編には何ら関係のないセリフのやり取りばかりでした。

私は正直この時点で「この作品、微妙かもな」と思ってしまいました。中盤以降はそれなりに盛り上がりますし、しっかり楽しめるんですけども、いかんせん最初の印象があまり良くなかったせいで気分が上がり切りませんでした。

監督を務めたスチュアート・ゴードン氏は主に1980〜2000年代に数々のSFやホラージャンルの映画を生み出しており、今でも多くのマニアから愛されております。

HORROR WRITERSのトレーナーが素敵ですね。
残念ながら2020年にお亡くなりになれています。
(スチュアート・ゴードンWikipediaより引用)

ちなみに、製作費が420万€(ユーロ)だったのに対して、興行収入は21万€と、およそ20分の一という寂しい結果に終わりました。円換算にすると、およそ6億7千万円を費やして3400万円ほどしか回収出来なかったと考えるとよりその厳しさが伺えるかもしれません。(1€=160円換算)

素人考えで大変恐縮ですが、見せ方次第ではもっと面白くなったような気がします。もっとシンプルに原作小説に寄せて、テンポの悪ささえ改善するだけでも大分違ったものになるのではないでしょうか。

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Filmarksより引用

◇株で一山当ててバカンスにやって来たポールとバーバラ。知り合いのヴィッキーとハワードとヨットでクルージングを満喫していたのも束の間、突風に煽られヨットが座礁、ヴィッキーは大怪我を負い、さらには浸水でヨットは今にも沈みかけていた。ポールとバーバラは避難用ボートで近くの港町インボッカに助けを求めにいくが、そこは“ダゴン”というタコの神を信仰する怪しい町で、住人たちはどこか様子がおかしかった。ポールは住人たちに追われながらも、拉致されたバーバラを助け出すため奔走する。そしてこの町に隠された恐ろしい因習、さらには自分自身の恐るべき出生の秘密を知ることになる…

という風に展開していきます。

よくある“町がヤバかった系”の作品ですが、タコの神“ダゴン”の存在や海洋生物のようなビジュアルの住人たちの不気味さ、そして宗教や信仰的な怖さもあって他の作品としっかり差別化が図られており、とても良かったです。

ポールとバーバラ(Amazon.co.jpより引用)

完全なネタバレになってしまいますが、物語の根幹部分について、原作だと

かつてオーベッド・マーシュという船長が、遠い南の海で、謎の海洋生物と混血すればその子孫は、歳をとるにつれ体が海中生活向きに変化を来たし、いずれは海中都市で不死の生活がおくれるという風習を黄金を受け取るとの交換条件でインスマウスに持ち帰り、そいつらに反対する人間は粛清されてしまったためだというのだ。そして現在もこのインスマウスでは、体に変化をきたした者たちは、海中生活できる体に完全に変わるまでは家に閉じこもっているのだという。しかしそれは部外者には語ってはいけない秘密だった。

インスマウスの影Wikipediaより抜粋

という、Wikipediaから抜粋したあらすじにも関わらず非常に明瞭で分かりやすい説明が為されています。

その一方で、いうなればタネ明かし部分となるこの説明が映画では大分ざっくりしており、

◇元々インボッカはプエブロ•デ•クリストという名前の町だった。近年は不漁に見舞われ、住人たちが困っているところにカンバロという船長が「ダゴンという神を崇めれば大漁を望めるし、黄金も手に入るぞ」と唆し、ダゴンを呼び寄せてしまう。最初のうちは大漁だし黄金も手に入るわで大喜びだったものの、次第に過激化していき、ダゴンを信仰しない者は殺害され、再び不漁になると生贄を捧げるようになった。

という流れはあるものの、一番重要な『なぜ町の人々は海洋生物のような見た目になったのか』という部分の説明が少なく、分かりづらかったです。

なもんで『ポールもカンバロの血を引いており、実は海洋生物の血族だった』というオチもしっくり来ませんてましたし、『ポールとウシアが海の奥深くへ潜っていく』というラストシーンの意味が分からないまま見終わってしまいました。

呪文はカタカナの方が好みです。

手に水かきがある神父や足がタコのようになっている美女ウシア、タコの怪物のような見た目のシャビエル、そして魚顔の住人たちのビジュアルは不気味であると同時に非常に神秘的で目を見張るものがありました。

ところどころタコ足のCGがチープに見える部分もありましたがそこまで気にならず、なんならもっと見せて欲しかったです。

この青白い顔とウネウネした指が素晴らしいです。
(Amazon.co.jpより引用)

正直な話、私はこの作品に対して、お金をかけるべき部分や映像作品として見せる部分が少しズレているように感じてしまいました。

メインとなるポールとバーバラはお世辞にも演技が上手いとは言えず、かと言って格別にビジュアルが良いわけでもなく、非常に中途半端でした。編集も少々雑で、素人の私ですら「なんでこんなに何もないシーンをダラダラと垂れ流してるんだろう?」や「シーンがめちゃくちゃぶつ切りで心地悪いな」などと思う部分が多々見受けられました。

せっかくの特殊メイクで不気味なビジュアルに仕上がった住人たちは出色の出来にも関わらず、アップになるカットが少なく、引きの絵ばかりで勿体なかったです。おそらくはこの特殊メイクやCG、舞台となる港町のセットに予算を注ぎ込んでいると思うんですけど、なぜそれをもっと見せてくれないんでしょうか。

口腔内や歯にも相当なこだわりを感じます。
(video.unext.jpより引用)
この強烈なインパクトのビジュアルをもっと見たかったです。(Amazon.co.jpより引用)

予算は円換算でおよそ6億7千万円あるのに無名の役者ばかりキャスティングし、編集も少々おざなりで、お金を掛けたであろう肝心の特殊メイクをあまり主張しないというのは一体何がしたかったんでしょうか。

中盤はポールと住人たちの追いかけっこや揉み合いばかりなんですけども、それが異常なまでにテンポが悪く、「そこが見たいわけじゃないんだけどなぁ」とついつい思ってしまいます。住人たちに灯油をぶっかけて火達磨にするなど面白いところもあるのでもう少しポイントを絞っても良かったように感じました。

タコ足の美女•ウシア(video.unext.jpより引用)

あと、物語の後半で捕らえられたエゼキェルが住人たちの手によって顔の皮を剥がされるというおぞましいシーンがありますが、ここはとてつもなくクオリティが高いです。なんなら「ホステル」(’05)とかにも匹敵するレベルじゃないでしょうか。めちゃくちゃ完成度が高いのに結構あっさり終わってしまったのでここももっと見たかったですね。

原作も有名ですし、プロット自体は相当面白いんですけど、何か歯車が噛み合っていないといいますか、製作陣との感性が合いませんでした。映画サイト等の評価はそこまで悪いものではないので、人によって好みが分かれるのかもしれません。

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