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できるだけ 光の方へ~02.09 カネコアヤノ TOUR 2020 “燦々” @福岡BEAT STATION

これで3記事連続、カネコアヤノに関する話をしている。彼女への興味は高まる一方である。本日は2019年9月リリースの『燦々』を引っ提げてのレコ発ツアー・福岡公演に参加した。昨年3月にリーガルリリーとの対バンで初めて観て、夏にはWILD BUNCH FEST.とSunset Liveで観て、やっと初めてのワンマンライブ鑑賞である。500人キャパは当然のようにソールドアウト。

簡素なステージ、ふらりと現れたカネコアヤノと、林宏敏(Gt.)、本村拓磨(Ba.)、Bob(Dr.)というお馴染みのバンドメンバー。しっかりと顔を見合わせながら、まずは『燦々』の冒頭3曲を順番に披露。なだらかに踊らせてくれる心地よい流れである。前から3列目でカネコアヤノの真ん前と見晴らしだったのだが、やはり挙動を見逃せないタイプのシンガーである。ちょっとぶっきらぼうに肩を揺らしながら客席を睨みつけるようにして歌う様がとても楽しい。威嚇的なんじゃなく、親密さの表れとしてのオラつき、みたいな。

「とがる」「カウボーイ」というライブでお馴染みのアッパーな曲でひとしきり盛り上げた後、「天使とスーパーカー」ではほろほろと神秘的な音へと誘う。緩急は自在で1曲の中でも緊張とほっこりをしなやかに繰り返す凄まじいグルーヴである。この後、一息ついていたのだがカネコアヤノは「よしっ」と発したのみでMCなどはなく「セゾン」をキリっとプレイした。まさかワンマンでもMCを一切しないのか、という予感は的中し最後の最後以外は一切言葉を発しない。純然たる音楽だけが空間を満たしていくのだ。

「リボンのてほどき」からは再びしっとりとしたブロックに。凛とした言葉がすっと飛び込んでくる。「車窓より」の《身体の変化発見次第 わざわざ報告させてよねぇ》のようなやや驚きを伴うフレーズをそっと忍ばせたり、「明け方」の《不安なまま朝を迎えてしまった だからギターを弾くしかないんだ》という剥き出しの心象を書き残したり。彼女の生活の傍でしか生まれないような歌たちが今、強い支持を持っていることが頼もしい。日常を見つめることがひとつの尊い音楽になることを彼女の人気は証明しているのだ。

「光の方へ」はやはり大切な1曲だと思った。生き抜くのもタフな2020年。明日のことすらどうなるか分からない世界において《壊れそうだよな 僕ら》と歌ったすぐ後に《次の夜には星を見上げたい》と告げ、《ちっぽけだからこそ もっと勝手になれる》とも叫んでしまえる。せっかくならやりやがれ、と少し強引にこちらを突き飛ばしてくれているようだ。曖昧だろうと光の方へ。ポジティブなイメージはコンパクトなくらいがちょうどよい、抱きしめておけるからね、と。こんな時代からこそ彼女の存在は輝いて見えるのだ。

「光の方へ」で一段階熱を上げたフロアに、じゃっきじゃきのギターフレーズを掻き鳴らして始まる「さよーならあなた」は、驚異のライブ化けを果たしていた。終盤、気でも触れたようにギターを弾き狂う林氏、それに伴って全員がフルエナジーでノイズに身を委ねる時間。歌モノとしての感動以上に、爆音のロックンロール的なとてつもない大興奮を抱えたまま、名曲「祝日」に突入。音源上はしとやかな1曲だが、ライブでは最後に大絶叫をするような強烈な仕上がり。終盤を飾るに相応しい、静かなる滾りをくれた。

「ぼくら花束みたいに寄り添って」を奏でた後、間髪入れずに「恋しい日々」が始まる。この1年の大躍進によってアンセムとして定着した感もあるこの曲。毎度そのイキきったテンションによるシャウトにクラクラしてしまうのだが、今日は特にすごかった。感情の赴くままに、ステージ上で喚き散らす、いや喚き散らしているわけじゃないんだけど、そうとしか見えないくらいにウワァっとなってしまっている。このまま、どこまでもトんでって欲しいと思ってしまう。最終的にギターも弾かなくなっちゃったりとかね。

「恋しい日々」で叫び倒し、やや喉を痛めながら聴いた「愛のままを」も優しくて素敵だった。アルバムの終曲「燦々」が本編ラスト。自ら選んだ人と友達になったり、屋根の色を自分で決めたり。それくらいから"自分"が始まるのだと歌う彼女の姿を祈るように見てしまった。《美しいから ぼくらは》という言葉に収束していくこのアルバムの実像が、そこに慈愛を持って立体化していた。演奏後「ありがとー、ばいばい」とだけ告げて捌けたカネコアヤノの振る舞いはとてつもなく気ままで、故に途方もなく美しく見えた。

アンコールでは友達に語りかけるみたいに、大好きな定食屋さんが定休日だったことを話す。本編で一切喋らなかったのに、割と普通のお喋りをしてなんだか笑ってしまった。そう、この生活感なのだ。カネコアヤノが歌う日常の”間"をつまみ取ったような歌たちは、溢れんばかりの生活感の先でしか鳴ることはないのだろう。そしてそれを支えるバンドメンバーもきっとそう。ワウペダルの音に併せてワウワウ口ずさむギタリスト、曲に染み入りすぎて泣きそうになってるドラマー、強面なのにニコニコとコーラスもキメるベーシスト、だいぶ個性的で人間味たっぷりな生活者たちによる音楽なのだ。

シメは豪快に音を転がす「アーケード」だ。観客たちは、各々でふつふつと盛り上がりつつ、それが段々と共有されていくのが今回のライブだったわけだが、そのピークポイントはこの曲のコーラス部分だろう。押し付けるわけじゃなく、勝手に体が動いてにこにこしてきてしまう。あるべき音楽の姿がそこにあった。というか、音楽以外はもはやそこに存在せず、意味を為していなかった。不可侵で気高い音楽の力。それを信じさせてくれる歌の人だ。

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