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Base Ball Bear、3度目の武道館にいたる探究の10年〜2012 to 2022

2022年11月10日、Base Ball Bearの結成20周年イヤー最終日にバンド史上3回目となる日本武道館ライブが開催される。メジャーデビューから4年足らずでの1度目の武道館(2010.13)、結成10周年記念の2度目の武道館(2012.1.3)から約11年ぶり。ニコ生のライブ映像実況などで、メンバーはたびたび「また武道館やりたい」と口にしており、ファンとしても待望の公演であった。

ちょうど10年前、2012年の11月10日は「TOUR新呼吸 take2」の佐賀GEILS公演。"12月8日"というバンドでベボベと同時期に下北沢で活動していた木原さんが地元で店長していたライブハウスでの初ライブ。12月8日の「グッド・バイ」をモチーフにした、というMCを経ての「short hair」が胸に残った記憶がある。10周年イヤーの最後の日に、1つ物語が回収される瞬間を観た。

当然、本日の日本武道館公演もベボベのバンド史に残るライブになるだろう。所謂ヒットバンドという立ち位置から距離を置いてきたこの10年。しかし濃い支持層は揺るぐことなく、変わり続けるベボベを変わらず見続けている。これはひとえにヒットソングを打つことでなく音楽と作品性の追求を止めなかったからだ。この10年の作品を"探究"をテーマに紐解いていきたい。


『バンドBのベスト』『PERFECT BLUE』(2013)

結成10周年イヤーを終えた2013年、最初のリリースはベスト盤&シングルだった。ベスト盤については当時はなんだか妙なタイミングだな、と思っていたけど11年目の始動とそれまでの総括として最適だったのか、と今となっては納得感がある。シングル曲とリード曲をリリース順に並べたシンプルな並びだが、これは「ベスト盤を作った時に強い曲が並ぶように意識してシングルを作ってきた」という小出の想いを強く反映した曲順のように思う。

フェスブーム前夜のギターロック史としても機能する充実の1枚で、ツインギターのバンドとしての探究のすべてが詰まっていると言えるだろう。そして重要なのが同時リリースされたシングル「PERFECT BLUE」との呼応性だ。いわゆる“青春”で“夏”のイメージを引き受けた新曲だったのだが、歌詞を紐解くとこの曲は喪失の色が濃く、青春の痛ましい記憶を描いた曲だと分かる。ベスト盤と見事なコントラストを成す、意味の強い同時リリースなのだ。

10代で始まったベボベがリアルタイムで描いた青春のイメージ。夏フェス対応やキャッチーな要素として拡大していったデビュー初期を経て、20代半ばで自己と向き合うようになる青春を明確に過去のものに、、というプロセスが『新呼吸』まで。「PERFECT BLUE」はその次のフェーズで青春を描くことに成功した。ベスト盤のトレイラーとしての役割も果たす、歴代シングル曲のモチーフを散りばめたMVの仕掛け含め、パッケージの完成度が際立つ。


The Cut(2013)

前年の『初恋』に続く、3曲+ライブ音源という構成のミニアルバム。『初恋』がベボベのみで作った「初恋」と他アーティスト(ヒャダイン、岡村靖幸)との共作2曲だったこともあり、その流れを踏襲してベボベのみの「ストレンジダンサー」と、RHYMESTERを迎えた表題曲「The Cut」、花澤香菜をゲストボーカルに迎えた「恋する感覚」という3曲の並び。多彩であるがどれもギターロックという範疇の中で出来うる限りのプロダクトを探究している。

「The Cut」はかなり重要な1曲である。ここまで、情景描写や心情描写を中心として青春時代の記憶や現在進行形を描いてきたのが小出祐介の歌詞であったが、RHYMESTERを召喚することで現代社会へのメッセージが引き出された。視点、カットという映画ラバーな小出らしい切り口でこの世界への違和感を吐き出したこの詩は、この後のタームで大きく重要なベボベらしさの特徴になっていく。単なるコラボにとどまらない、大きな転機のように思う。

2010年の3.5thアルバムあたりからコラボレーションにも意欲的ではあったが、敬愛する先輩とシーンを超えて共作するという動きはやはり『初恋』からで文脈の補強やこの後でバンドとしての独自の立ち位置を築きあげる一手目だったように思う。花澤香菜の声をフルに活かすネオアコめいた名曲「恋する感覚」を生み出したのも、この後、アイドルネッサンスを始めとするガールズグループへの小出祐介の楽曲提供が増加する一因となったはずだ。


二十九歳(2014)

『新呼吸』から2年7カ月ぶりの5thアルバム。16曲74分というフルボリュームで届けられるのは"普通とはなにか"という極めて内省的な自問自答。あちらを描いたら、こちら側を描く、というバランス感で様々な物事の表と裏を1曲ずつ描きながら、その狭間で揺れ動いている"普通"の概念について炙り出していく。青春的な気配はほぼ立ち消え、現実的かつその年齢らしい苦悩や情景(結婚や地元、また"終わり"といった概念も)についての楽曲が多い。

バンドグルーヴもかなり変化を遂げている。本作から関根史織のベースプレイがかなり躍進し、「アンビバレントダンサー」や「スクランブル」といった横ノリなリズムが全面に打ち出されている。「Ghost Town」「そんなに好きじゃなかった」などハードロック嗜好な楽曲や、「ERAい人」といったファストチューンなどバリエーションもかなり豊かで「The Cut」も違和感なくマッチしている。アレンジ面での懐の深さを実感できる一枚だ。

終盤の展開には心震える。1年前のシングル「PERFECT BLUE」の前日譚として置かれた「UNDER THE STAR LIGHT」がそのドラマの悲痛さを更に加速させ、『惡の華』のイメージソングとして書かれた「光蘚」が小出自身の追憶とリンクしながら17才の魂を呼び起こし、それを「魔王」が現在の視点から救済していく。既発曲をアルバムのストーリーに強烈な説得力をもって織り込む。貼ってたわけでないはずの伏線が回収されるこのまとめ上げ、圧巻。


C2(2015)

『二十九歳』から1年と少しで完成した本作はツアーを経てより強靭になったリズム隊を主軸に据えた1作。星野源『YELLOW DANCER』とcero『Obscure Ride』に挟まれた時期にリリースされた本作は、ギターロックというシーンも引き受けつつファンクネスを濃厚に刻んだ強い同時代性をもった作品だ。1stアルバム『C』を踏まえたタイトルは、バンドとしてフルモデルチェンジを果たしたグルーヴを考えると新たなデビュー盤と言うにも相応しい。

一連のストーリーがあった『二十九歳』に対し、1曲ごとにカラーの異なる楽曲を揃えた本作。"視点"が大きなテーマということで、常識だとされていることへの疑いや、定型的なポップソングに対しての批評的な目線をもった歌詞など、かなり作り込まれている。即時的なフェスウケを狙った楽曲が全盛な時代への怒りめいたものも込められているし、そこに抗い続ける自分たちを明確に時代の外側に置いた、というのも現在のスタンスに繋がっている。

このアルバムをもって、ギタリスト湯浅将平が脱退。ツインギターというこだわりの編成はこのアルバムが最後となったが、『C』から『C2』へ、青春から内省、そして社会へという一巡するようなテーマをもって完結したことも興味深い。またこの時期は強く批判的な目線を向けていた"四つ打ちロックバンド"の音楽性へも徐々に理解を示していく。立ち位置が明確になり、一つの到達を果たしたからこそ、次なる成熟段階へと向かい始めたのだ。



光源(2017)

3ピース体制になって初めて作られたアルバム。これまでこだわってきたギター、ドラム、ベース以外の楽器を用いないという制約を取り払い、アレンジの幅を大きく広げている。基本的に前2作同様にリズムセクションを中心としつつプログラミングされた鍵盤やホーンの音色がウワモノとして色を添え、今までの作品とはかなり聴き心地が違う。筋力強めだった前作と比べると幾分軽やかでメロウな楽曲が揃っており、どこかチルな質感も漂っている。

アルバムのキャッチコピーには「バンドの永遠の主題である〈青春〉に新たなアングル/解釈から迫る“2周目”の世界!」とある。ここにきて青春のモチーフがリブートされたわけだが、あくまでそれは時間経過を経たものだ。もしくは、現在の中で芽生えた"青春"に近い感情のフラッシュバック。どれだけ年を重ねようとも、ヒリつき、胸が疼き、辛くなり、ときめくような"青春"は心の中で生き続けている。そんな大人びたタッチが光っている。

2016年に『二十九歳』と『C2』の収録曲を含めた『増補改訂完全版「バンドBのベスト」』がリリースされており、更に次作からは鍵盤やホーンのアレンジを行わなくなるため本作はかなり浮いたアルバムだ。『光源』は"あの時"の選択肢を思い、分岐した未来の可能性を思う、という楽曲も多い。そういう意味では、このアルバム自体がベボベのパラレルワールドのようにも聴こえてくる。偶然だろうが作品の成立力はやはり桁違いと言えるだろう。



C3(2020)

2016年、2017年はサポートギタリストを迎えてライブ活動を行ってきたが、2017年9月の「中津川SOLAR BUDOKAN」で初めて3人だけでのライブを行った。これを機に、2018年のツアーから本格的に3人だけでのパフォーマンスを探究し始める。そして2019年1月の『ポラリス』、9月の『Grape』を経て完成したのが『C3』。3ピースバンドとしての本格始動という意味で『C』のタイトルを冠したのも頷ける。またしても大きな変化を遂げたのだ。

シンプルな演奏スタイルながら、持てるものを全て注ぐようなあらゆるタイプの楽曲が並ぶ。コミュニケーションにまつわる葛藤を描く「Flame」「Cross Words」「いまは僕の目を見て」、より鋭く社会を描く「試される」「PARK」、またリズム隊からのアイデアが起点となり生まれた「セプテンバー・ステップス」「Grape Juice」など。その作り方も含めて新たなバンドとしてのスタイルを模索して獲得した3ピースサウンドの原液たる12曲。

周囲や世界、また小出祐介の内面をテーマにしてきたベボベのこれまでだったが、本作においてはBase Ball Bearそのものを題材にしたような曲が増えたのもかなり驚くべきことだろう。バンドのヒストリーをラップとして歌った「EIGHT BEAT詩」や、3人がボーカルを取る「ポラリス」、ライブやツアーについて歌う「L.I.L」や「風来」など、その活動や存在ありのままを肯定したような曲が多く、史上最も楽しい気分でも聴けるアルバムだと思う。



DIARY KEY(2021)

結成20周年のタイミングで届けられた現時点での最新アルバム。『C3』のツアーが行えず日々の活動を失ったコロナ禍。リモートリアレンジや配信ライブといった特別な試みを経て、生活や人生に寄り添うアルバムとして結実した。複雑なレトリックが多く用いられたダブル/トリプルミーニングは当たり前のような歌詞になっているが、一方で余白も多く残してある。語らないことも語ることである、という丁寧な趣向が凝らされた詩世界だ。

全曲を通して聴くとうっすらと浮き上がってくるのが生死にまつわるイメージだ。一見、日常の鬱屈さや幸せを歌っているように見えてすぐ傍らには全て失ってしまう可能性もあるということ。その普遍的だが忘れてしまいがちな事実に向き合い綴られた歌詞はとてもシリアスだ。しかしその一方で柔らかく温かな雰囲気も携えている。活動形態の変化や世界的な危機を経たベボベが「いろいろあるけどまたやっていこう」という境地を歌うのは頼もしい。

サウンド面は更にギター、ベース、ドラムで遊ぶことを探究している。非常に素直で根源的な、バンドサウンドを鳴らすことへの喜びに従っているような開放感がある。語感と渾然一体なファンキーさを持つ「動くベロ」、ラフでたっぷりとした「Henshin」、ラウドに突っ走る「悪い夏」などどんどん新しい引き出しも開いていくような、ギターロックのトライアルが詰め込まれている。ロックバンドをやり続けることの面白さを鮮やかに体現した作品だ。



この10年を振り返ると大きな節目はメンバー脱退と3ピースバンドへの転向だとは思うが、ベスト盤のリリースやコラボの興隆、リズム隊の進化などあらゆる局面が節目であり、変わり目であることが分かる。むしろ迎える局面を常に好機として新たなスタイルを試し、探究を続けているのだ。タイアップやチャートアクションのためでなく、ベボベがベボベであり続けるための探究。それがこの10年間の活動であり、その成果が武道館なのだろう。

10/12にはアニバーサリーソングとして新曲「海になりたい part.3」がリリースされた。何度も用いてきたタイトルを蘇らせ、ベボベらしいモチーフを散りばめながら真っ直ぐに「音楽への愛」を歌った曲なのだから胸が熱くなる。これだけ探究を繰り返し追い求めてなお、ここで音楽への片思いを明かすのだから、やはりベボベは面白くてしょうがない。きっと素晴らしい夜になる今夜も、そして次の10年、20年も、きっと面白くなり続ける物語を紡ぐはずだ。


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