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2021.06.17 山口一郎(サカナクション)「NF OFFLINE」@Zepp Fukuoka

サカナクションのフロントマン山口一郎が単独で廻るZeppツアーの福岡公演2日目。事前に普段のコンサートとは異なるとアナウンスがあり、NFmember限定公演ということもあり、普段の規模感とは違うだろうとは予測できた。


※ここからネタバレたっぷり


フロアに入ると、壁に沿って何やら電飾のようなものが張り巡らされていることに気付く。ステージ上には部屋を模したセット。このライト、この画、見覚えがある。先月の配信ライブ「NF OFFLINE FROM LIVING ROOM」で観た、山口一郎の自宅兼事務所。同一コンセプトとは予想していたがまさかそのまま部屋をステージに持ち込んでくるとは思わなかった。定刻になり、ブザーが鳴って明転。軽やかな足取りで山口がステージに現れる。当然だがこんなノリでいつものサカナクションのライブは始まらないし、「こんにちわんこそば、おぼっちゃま君です」などという挨拶は決してしない。導入から山口が愛嬌を振りまきまくっている。肩の力を抜けるライブだと確信した。

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そしてまずは金曜日放送予定のレギュラーラジオの公開収録が始まる。前日は実母への電話を20分していたらしく、かなり和やかなムードが広がっていく。ファン3名がステージに上がってその場で対談するという、インスタでやってる企画をそのまま現場に持ち込んだスペシャルな企画もあり(もちろん手を挙げたけど呼ばれなかった、、、)、FCイベントっぽいなぁという趣。自分の部屋の家具を持ち出していることもあり、山口もだいぶリラックスモード。19時になるとアコースティックギターを持ち、ライブが始まる。1曲目は「夜の東側」。この日の座席は3列目。こんな近くで山口一郎の姿を観たことがなく、ましてや弾き語りなど生で聴いたことないので新鮮すぎるのだ。

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歌い終わると、「夜の東側」の<伸びた髪を僕は耳にかけたら>というラインが吉田拓郎の「結婚しようよ」から着想を得たというエピソードが語られる。これは先月のオンラインライブを踏襲した流れ。曲目も、ここからはフォーキーな原曲に近いという「忘れられないの」、サカナクション流フォークの真骨頂で北海道の冬景色が滲む「フクロウ」と配信と近い選曲で進んでいく。この曲終わりにはトークがなく、そのまま水中の音が鳴り始めて「ネプトゥーヌス」だ。こちらも配信同様の流れだが、Zepp全体が彼の一室になったかのような没入感はとてつもなく贅沢。ライティングも水族館のようでチームサカナクションを動員したライブとしての側面が強まっていく。

「ユリイカ」からはステージ下に設置されたサブウーファーが唸りをあげ始める。事前にほのめかされていたが、本当に服が震えており、全身で音を食らっていることがはっきりと分かる。また、先ほどまで黒い壁だった場所とステージに用意された2台にブラウン管のテレビは東京の風景が映し出され、配信版よりもスケールの大きな演出で魅せていく。ラストのキックに合わせて、照明も呼応する様に鳥肌が立った。続く「茶柱」では曲調に連動してイサム・ノグチのスタンドライトがじわりと灯り、ソファ上空のライトも激しく点滅するなど、魔法的な演出で不穏さすら漂わせてしまう。配信での演出を知っている分、その差異はとても面白く"実演編"のようにも見えてくる。

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「ナイロンの糸」はこの日1番、胸に来たかもしれない。暗転が空けると、天上から無数の電飾がぶら下がっており、さながら星空の海のようにステージがライトアップ。曲が進むにつれて灯る数が増え、最後は入場時に見かけた壁に張り巡らされたライトも全て点灯。シンプルだがその最小と最大を往来しながら劇的な場面を創出する、これぞサカナクションのライブの核ではないか。「シーラカンスと僕」でのブルーで満たされた空間とシルエットで魅せる演出などはもはや山口一郎のソロライブといった範囲で収まらず、チームサカナクションによる今ここで作り出せる最上の音楽体験だと思う。ARとの融合で魅せた配信版の同曲とは方向性の異なるパフォーマンスだった。

ひと繋ぎで届けたこの一連はしっとりとアレンジされた「白波トップウォーター」でシメ。背後に山口以外のメンバーが自宅で演奏する映像が届けられ、このライブはサカナクションによるものであると示される。この日披露されたほとんどの曲はメンバーによるリミックスver、このツアーはそれらを抜群の音響で聴かせるショーでもあったのだと思った。第1部ラストは山口が再びアコギを持ち、「グッドバイ」をマイクを通さない完全生声で歌うあまりにも貴重な時間。ストリートライブかのような距離感で、もしかしたらあったかもしれない世界線の山口一郎と対峙しているようだった。これもまたZeppというライブハウスのサイズ感でなければ有り得なかった試みだろう。

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10分の換気タイムを経て、ブザーが再び鳴ると何やらぼそぼそと話を続ける男性2人の声。幕が開くと、ステージにコタツが置かれておりそこには山口一郎と藤原ヒロシの姿が。ここからは毎公演トークセッションコーナーとのことで、近しい関係性の2人ならではのにこやかなやり取りで楽しませてくれる。みかんを頬張り、電子タバコをふかす山口のオフモードをオンステージで見れるのはミーハー精神がくすぐられてしまう。もちろん、ここでも弾き語りを披露。藤原ヒロシがアレンジし、洒脱なテイストに生まれ変わった「新宝島」が素晴らしかった。原曲と比べ、しっかりと<丁寧に>歌うのもユニーク。この曲で落ち着いた気分になれるだなんて思いもよらなかった。

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藤原ヒロシがこの日のライブを「神懸かってた」と絶賛するなど、客観的にもその評価が示されたところで、もう1曲2人によるコラボレーションで「ルーキー」を。原曲よりも日本語の響きを重要視した切なげなアレンジも素晴らしくチルできた。藤原さんのサカナクションRemixアルバム、早急にリリースが求められる。そして完全終了時間21時があと10分に迫ったところでばたばたと準備を行って、最後はアンコールとして「ナイロンの糸」を再演。冒頭では歌詞用タブレットを設置忘れるという笑えるアクシデントもあったのに曲になればすっかり引き込まれてしまう。この求心力は凄まじい。

呆気に取られるほどいいライブだった。コロナという状況下から妥協や逃げの公演を何とかやるわけでなく、常に今だからこそ面白い、今じゃなきゃできないステージを練り上げてある。この拘りにはもうどこも追いつけない。

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(第1部)
1.夜の東側
2.忘れられないの
3.フクロウ
4.ネプトゥーヌス
5.ユリイカ
6.茶柱
7.ナイロンの糸
8.シーラカンスと僕
9.白波トップウォーター
10.グッドバイ
(第二部)
11.新宝島
12.ルーキー
13.ナイロンの糸

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