#掌小説
【ショートストーリー】11 銀の翼で翔べ
銀世界の住人になって一年。亮太は、ジュニアサイズのスキージャンプ台にいた。
南国育ちの亮太にとって人生最大のまさかだった。初めて赴任した山奥の小学校でスキー部の顧問になるなんて。しかもアルペンスキーでもクロススキーでもなくスキージャンプ部だ。
「おーい、いいぞ」
亮太が合図をすると、六年生の彰矢が前屈みから踏み切り、見事な飛行姿勢を保ちランディングに至る。冬のはりつめた冷たい空気に、着
【ショートストーリー】10 君といた未来
「シンギュラリティはこなかった、か」
そう呟くと、未來はまだ暑い九月のギラつく太陽を睨んだ。
2045年の夏は平均が38度を越える酷暑が続いた。街並みを眺めれば陽炎に20年前と同じような景色がゆらめき浮かび上がる。
自動車の自動運転の技術も向上したが、行きつけの喫茶店に停めてある日産パオは、いつも通り薄橙色のいい顔をしている。
「うーす。こんちは」
カランコロンと昭和な音がひ
【ショートストーリー】6 重たいセーター
駅を発った東海道線はしばらくありふれた都市の景色の中を進み、徐々に都市的な景観から住宅地、すこしばかり田園風景を窓の外にみて長いトンネルに入る。
その日、瑛太は高校入試の帰りだった。
平日の15時台の電車はすいていて、お客はまばらだ。電車が小刻みに揺れ、走行音だけが車内に響く。ボックスシートの向かいには老婦人が座っていた。老婦人の抱えた紙袋から数個の毛玉と、フェルトのような生地が顔を出し