強い願いは口にすれば叶うものだ。夏の甲子園。関東第一の大後投手が監督に登板を志願。甲子園初マウンドで好投。チーム初の決勝進出につなげた
強い願いは口にすれば叶う。そう思わせる試合だった。夏の甲子園準決勝。大舞台での登板のなかった関東第一の大後武尊投手(3年)が先発登板を果たした。準々決勝を勝った夜、監督に登板を志願していたのだ。「投げさせてください」。あふれる思いを伝えた。そして憧れの舞台でしっかり試合を作る好投を見せた。チーム初の決勝進出へつなげたのだ。
関東第一は甲子園の初戦からエースの坂井遼投手と畠中鉄心投手の二枚看板で勝ち上がってきた。
初戦後、大後投手は米沢貴光監督から登板の可能性があるから準備しておくように言われていた。しかし、初戦の2回戦、3回戦、準々決勝と勝ち上がっても、自分に登板のチャンスはない。
マウンドに向かうのは、味方のピンチの時に伝令役としてだけだった。そして準々決勝の東海大相模戦に勝った日の夜。大後投手は監督に「次の試合、僕に投げさせてください」と志願したのだ。ただ、その場では返事はもらえなかった。
2日後の準決勝当日。甲子園の室内練習場で、米沢監督から伝えられた。「今までのことを信じて投げろ」。先発マウンドを託されたのだ。
大後投手は強力打線の神村学園に立ち向かった。相手は準々決勝までの4試合で計27得点を奪っていた。
大後投手は初回、先頭打者にいきなり四球を与えたが、後続を打ち取り無失点で切り抜けた。二回、三回もイニングスコアに「0」を並べていく。四回に先取点を奪われたが、最少失点で切り抜けた。
そして五回。レフトフライ、ショートゴロ、レフトフライの三者凡退に封じた。5回77球を投げ1失点。しっかりと試合を作って、マウンドを下りた。1試合平均6.75得点の強力打線を相手に十分のピッチング内容だった。
チームは七回に2点を奪って逆転。このリードを守り抜いて、夏の甲子園初となる決勝進出を果たしたのだ。大後投手がロースコアの展開に持ち込んだからこそ、チームの勝利につながったのだ。
今夏の東東京大会で、大後投手が登板したのは2度のみ。しかし重要な場面で好投している。それが初戦の芝高戦だった。第4シードで臨んだ関東第一だったが、甲子園出場経験のない芝に七回までリードされる展開となった。
関東第一は八回裏に同点に追い付くと、九回表から大後投手がマウンドに上がり、延長十回のタイブレークも含めて2イニングをピシャリ無失点に抑えた。大後投手は試合を決めるサヨナラ打も放ち、投打にわたる活躍で苦しい初戦をものにした。
地方大会の初戦敗退もありえた中から関東第一は勝ち上がった。そして大接戦となった甲子園準決勝も制して初の全国制覇へ「あと一つ」とした。
強い願いを口にして、甲子園の初マウンドに立った大後投手。そして彼の活躍がチームを救った。
強い願いを口にすれば叶うものだ。高校生の青春が、ときとして大人たちに重要なことを教えてくれると実感した。