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走る、アスリートドクターの話

 「ちょっと体調が悪くてね」と休んだ理由は肉離れでした。その先生はランナーです。義理堅い性格と走り続ける姿から、ここでは敬意をもって「メロス」と呼ばせていただきます。

 メロスは激怒しました。

「それじゃあ患者さんの人権が守られない!」と憤りながら上長に掛け合うこともままあります。患者第一とはこの姿勢をいうのだろうと思われるような熱意のある先生です。

 またある時には「これは重要な話だから」と、ひと家族のために外来で2時間説明するような人で、その家族からは崇拝されていました。外来看護師さんからは「いいかげんにしてほしい」と何故か私が愚痴を聞くハメになりました。

 飲み会では急に「そうだ!」と目を輝かせて、

「先生はさァ、生命保険入ってる?うちの奥さんが俗に言う生保レディってやつなんだけど、○○生命、どう?」

などと部下に勧めてくる危ないメロスでした。


 そんなメロスは多忙な業務の中でも、週2, 3日以上は走っていました。妹の結婚式もないのに、友との約束もないのに、走り続けます。どうしてそんなに走るんですか、と伺ったことがあります。

「どうして?はは、考えたことなかったなぁ!」

 あまりに純粋な瞳に、私は莫迦な質問をしたものだと恥ずかしくなりました。理由など不要。ただ走りたいから走るというのです。ある意味メロスより単純な男かもしれません。

 さて、走ることの効用は絶大です。

 ウォーキングは健康への第一歩ですが、軽いジョギング程度の有酸素運動も全身に良い効果を齎します。血行が良くなることで筋肉の緊張による痛み、冷え等も改善する可能性があります。東洋医学的な解釈では、微小血流障害(≒瘀血)が体調不良に与える影響は計り知れません。ウォーキング、ジョギングはほとんど費用をかけずにできる最高の運動方法と考えます。

 気をつけなければいけないのは、「過度の運動負荷」です。賛否あるかもしれませんが、例えばフルマラソンは明らかに体への負担が大き過ぎます。「運動は体に良いけどスポーツは体に悪い」とは友人の整形外科医の言葉ですが、これは実に的を射た発言と考えます。

 有酸素運動を意識するときに大切なのは、その人の体に合った運動負荷にとどめることです。何を以て適度とするかは「METs」や「心拍数」が参考になります。人によってはジョギングも「やりすぎ」で、早歩きくらいが丁度良いということもあります。

 メロスは仕事への姿勢も全力疾走です。信頼が増えるほど仕事が集まります。書類の山が増えます。昨今の感染状況も彼の疲弊に大きな影を落としています。最近忙しくてね、と笑いながら、それでも彼は走り続けます。

 Dr.メロスにとっては、全ての患者さんがセリヌンティウスなのかもしれません。皆が諦めそうになっても、「なんとか助かる方法はないか」と、2年前のあの日から考え続けています。

 彼はどこに辿り着くのでしょうか。

「王様は、人を殺します。」

 2019年に突如として君臨してから瞬く間に世界中に蔓延し、社会を破壊しながら殺戮を止めない「邪智暴虐の王」の運命や如何に。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、一日も早い「収束」と、それに続く「終息」を。


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