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アンドレの見え透いた罠(フランス恋物語125)

Good looking guy

2月24日、水曜日。

この日休日だった私は、”グッド・ルッキング・ガイ”なフランス人、アンドレとお台場デートをした。

私のリクエストで映画に行き、夜は観覧車の中で初めてのキスをした。

その体験は甘美な思い出として、私の記憶に残った・・・。

しかし、5日連続会っても謎だらけのアンドレ。

正直いって、彼を好きかどうかはまだよくわからない。

これからもっと会って、少しづつ知っていくしかないのかな。

・・・そんなことを考えていると、その晩アンドレからメールが届いたのだった。

Un e-mail d'André

そのメールを見て、まずは浮ついた気持ちが吹っ飛ぶくらいすごく驚いた。(※以下、仏文を和文に翻訳)

お願いがあります。
20万円助けられますか?
友達に貸してたお金が返ってきません。
月末までに家賃を払わないと、僕は東京にいられない。
給料が入ったらすぐ返します。

・・・はぁ、何言ってんの!?

このメールで、アンドレへの気持ちはいっきに冷めた。

そして驚きの後には、怒りと情けない感情が込み上げてきた。

何!?

5日連続のディナーやデートのお誘いも、紳士的なエスコートも、私への甘い言葉も、今夜のキスも・・・全部借金のためだったの!?

それで信用や愛を得ようと思ってたのなら、本当に許せない。

そもそも私は、他人に借金するような人とは関わらない主義だ。

そして、どちらかというと、「人にお金を貸すなら、あげるくらいの気持ちで渡せ」という言葉の方がいいと思っている。(渡したことないけど)

残念ながら、アンドレにはそこまでの価値も愛も情もない。

私は努めて冷静に返事を書いた。

あなたのメールを読んで、私はとても不愉快な気持ちになりました。
もう関わりたくありません。
さようなら。

すると、すぐにアンドレから反省のメールが送られてきた。

ごめんなさい。
僕はただ、相談したかっただけなんだよ。

・・・知らんがな。

そんなにお金ないなら、とっととフランスへ帰れ!!

私はそれ以上、返事を送る気にもならなかった。

またお金の無心をされてもたまらないので、彼のメールアドレスと電話番号は拒否設定にした。

それにしても、まだ自分の家に上げる前だったのが、不幸中の幸いだったな。

あ~あ、私のトキメキを返して・・・。


こうして、”グッド・ルッキング・ガイ”との、短い恋(!?)は終わった。

アンドレにひっかかった自分にもムカついて、日付は変わったのに今夜は眠れそうにない。

・・・そもそも私は、なんでこの男を信用したんだっけ!?

そうだ、絵梨花ちゃんの夫、パスカルの友人だったからだ。

パスカルは、このとんでもない性格を知っているのだろうか!?

どうしても気になった私は、新婚家庭に申し訳ないと思いつつ、パリに戻っている絵梨花ちゃんにskype通話を試みた。

l'identité d'André

「・・・もしもし、玲子ちゃん?」

コールを鳴らすと、すぐに彼女は出てくれた。

「絵梨花ちゃん、新婚家庭なのにお邪魔してごめんね。

今、パスカルも一緒にいる?」

彼女は「いるよ。」と答えた。

私は、結婚式でアンドレに声をかけられたこと、誘われるまま5日連続でディナーやデートに行ったこと、キスをされた昨日「20万円貸して。」というメールが届いて腹が立ち、絶縁した・・・ということまでを手短に説明した。

突然の報告に、絵梨花ちゃんは驚いているようだった。

「うわ・・・私たちがお色直しで退席していた間に、玲子ちゃん、そんな男にナンパされてたんだね。

しかも、その後の展開が急すぎてすごい・・・。

でも、キスだけで終わって良かったね。

今、パスカルにその話伝えるから待ってて。」

しばらく待っていると、パスカルとの会話を終えた絵梨花ちゃんが戻ってきた。

「玲子ちゃん、お待たせ。

パスカルにアンドレの話をしたら、『学生時代はいい奴だったのに、日本に住みだしてから、ルーズになってしまった。』と言ってたよ。

元々、日本人の彼女を追って来日したらしいんだけど、日本語ができないからなかなか仕事が見付からなかったんだって。

それでヒモになり借金して追い出されて、また新しい女の家に転がり込んで借金して・・・を繰り返していたらしい。

彼はとてもハンサムだから、女は寄ってくるじゃない?

語学スクールの先生を始めてからも女にたかる癖は治らなくて、女性の生徒さんとトラブルを起こしてからは、授業もあまり任せてもらえてないらしいよ。」

アンドレが、そんないい加減な奴だったとは!!

でも、それを聞いて、今までの謎が少しづつ解けていったような気がする・・・。

あぁ、そんな男だと知っていたら、初めから関わらなかったのに。

「そもそも、なんでそんな最悪男と、パスカルはまだ友達なの?

なんで結婚式に呼んだの?」

絵梨花ちゃんは、パスカルにその質問をして、彼の答えを私に告げた。

「『彼は女の敵かもしれないけど、友人としてはいい奴だからさ。』だって。」

そんなこと言われたら、「あ、そう。」としか言いようがない。

「わかったよ~。

まぁ、アンドレに腹は立ったけど、別に傷付いてないからいいや。」

La confession

そして、ついでに上野さんの話もしてみようという気になった。

「話は変わるけど、私、とうとう上野さんと深い仲になったよ。」

一瞬、沈黙があった。

「嘘でしょ!?

そっちの方が衝撃なんだけど・・・。」

血相を変えた絵梨花ちゃんの表情が想像できる・・・。

「心配かけてごめんなさい。

結婚式の日お茶に誘われて、その晩上野さんとホテルに泊まって・・・。

そこから4日間うちに泊めて、ずっと一緒に過ごしてたの。

でも、大丈夫。

一緒にいる期間すごく楽しかったし、その後アンドレとデートして寂しさを感じる暇もなかったから。」

絵梨花ちゃんは絶句していたようだが、しばらくして話し始めた。

「上野さんはカメラマンとして優秀だから・・・少し迷ったけど、結婚式の撮影をお願いしたんだよね。

玲子ちゃんと再会することは心配してたけど、彼はすぐにパリに戻ると思っていたから。

まさか結婚式当日にそんな関係になるとは夢にも思わなかったよ・・・。」

私は絵梨花ちゃんが責任を感じないよう、明るく言った。

「いいのいいの。

きっと、私も上野さんも前から惹かれ合っていて、いつかこうなることを望んでいたんだと思う。

私は上野さんに抱かれて幸せだったし、一緒にいるうちにちゃんと愛情も貰えたから大丈夫。

だから、絵梨花ちゃんには感謝しているよ。」

「本当?・・・だったらいいけど。」

まだ心配そうな絵梨花ちゃんの声が聞こえる。

「私、今派遣で不動産の仕事してるんだけど、『4月から正社員にならないか?』って言われて悩んでいたの。

でも上野さんに相談して、彼のおかげで正社員になる勇気も持てた

だから一緒にいてプラスになったこと、たくさんあるんだよ。

これから宅建の資格も取らなきゃいけなくなるし、私、勉強頑張る。」

これで少しは安心してくれただろうか?

やっと、彼女の明るい声が聞こえた。

「そうなんだね。正社員おめでとう。

玲子ちゃんが新しい目標持てたのなら、良かった。

私、応援してるね。」

あぁ・・・やっぱり絵梨花ちゃんの言葉は温かいなぁ。

「ありがとう。

恋愛以外にも打ち込めるものが見付かって良かったよ。

仏検もあるし、色々頑張らないと。

それじゃ、また連絡するね。

ありがとう。」

そう言うと、私はSkypeを切った。

Un e-mail de・・・

「あぁ・・・これで本当に誰もいなくなったな・・・。」

私は空虚な気持ちで、パソコンの画面をぼぉっと眺めた。

「仏検と宅建の勉強を頑張る」とは言ったものの、私が彼氏なしで過ごせるのは、せいぜい3ケ月・・・頑張って半年くらいな気がする。

それまでには何か出会いがあるのかしら!?

そもそもそんな気持ちでいたら、試験なんて受からないか・・・。

パソコンを切る前に、念のため、最後にメールボックスを開いてみた。


すると・・・忘れかけていたある人物から、1通のメールが届いていたのである。


ーフランス恋物語126に続くー

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