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絵梨花の結婚式、ある人との再会(フランス恋物語117)

明治神宮

2月14日、日曜日。

今日はパリ留学時代の親友・絵梨花ちゃんの結婚式だ。

お相手はフランス人なので、パリと東京でそれぞれ挙式をするらしく、私は明治神宮の神前式と披露宴に招待された。

【明治神宮】
明治天皇昭憲皇太后を御祭神とする。
鎮座祭は1920年(大正9年)11月1日に行われ、翌2日には大正天皇の名代として皇太子裕仁親王(のちの昭和天皇)が行啓した。
本殿を中心に厄除・七五三などの祈願を行う神楽殿、「明治時代の宮廷文化を偲ぶ御祭神ゆかりの御物を陳列する」宝物殿、「御祭神の大御心を通じて健全なる日本精神を育成する」武道場至誠館などがある。
新年には毎年のように国内外から観光客が集まり、初詣では例年の参拝者数が1位となっている。

絵梨花ちゃんの夫となる人は「名前はパスカル。フランス人で30歳の警察官」という以外情報は聞いておらず、会ったこともなかったので今日どんな人か見るのも楽しみだった。

先日類と別れたばかりの私は、パスカルの友人との出会いも少なからず期待してしまう・・・。

ちょっと気がかりなのは、披露宴で友人代表のスピーチ(日仏両方)を頼まれていたことだった。

参進

休日に明治神宮に行くと花嫁行列を見かけて、日本特有の厳かな雰囲気に感動したものだ。

正式には”参進”と呼ぶそうだが、今回自分も参列者としてそこに加われるのがとても嬉しかった。


当日、美容院で訪問着を着付けてもらってから、明治神宮に向かった。

挙式は14時開始で、余裕を持って30分前に友人控室には到着する。

待っていると、パスカルの友人らしいフランス人もたくさん入ってきた。

「いっぱいイケメンがいるけど、この中に独身で日本在住の人はいるのだろうか?」

もちろん、そんなものは外見だけだとわからない。


友人控室で待機していると、参進出発の合図がかかった。

斎主が先導し、新郎新婦、媒妁人、両親、参列者の順に列をなして、奉賽殿(ほうさいでん)まで進んでゆく。

境内の厳かな緑の中で参進の列に加わり歩くことは、身の引き締まる思いだ。

今日はいいお天気で日曜ということもあり、たくさんの観光客にカメラを向けられた。

自分は最後の方を歩いていたのでそんなに撮られはしなかったが、いつもは見る側なのに、見られる側になるのは不思議な感覚だった。

参進の前の方を歩く絵梨花ちゃんの花嫁姿はとても美しかった。

隣を歩くパスカルも背が高くキリッとした印象で、美男美女の二人はお似合いの夫婦だった。

神前式

参進の列はそのまま神前式の行われる奉賽殿へ入って行った。

昔行ったいとこの神前式は家族しか入れなかったが、最近の和婚ブームで参列者全員が入れるところも増えているらしい。

絵梨花ちゃんが「明治神宮はゲストも神前式に参列できるのが、選んだ理由の一つ」と言っていたのを思い出した

本格的な神前式で、巫女さんの舞いや雅楽の演奏など神聖な儀式に立ち会うことができ、人生初の経験に感動した。

三々九度の盃や玉串拝礼など外国人にとって不慣れなものも、パスカルは完全にこなしていて感心した。

さすが絵梨花ちゃんの夫となる人。夫婦揃って完璧だなぁ・・・。


神前式が終わると、美しい木々に囲まれたところで、全員で記念写真の撮影をした。

この時、私はあることに気付いた。

あれ、あのカメラマンって、もしかして・・・!?

再会

披露宴は、明治神宮の敷地内にある施設内で行われた。

披露宴会場は日本家屋の桃林荘ではなく、洋式のフォレストテラス明治神宮「欅の間」だった。

天井まで伸びる二面の大きな窓から明るい陽光が降り注ぎ、鮮やかな緑が目の映ってとても美しい。


自分の名札が立てられたあるテーブルに着席すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「ふ~ん、”玲子”って、そういう漢字書くんだね。」

振り向くと、カメラマンとしてパリから同行している上野さんがいた。

彼は、浅野忠信似の無精髭が似合うプロカメラマン、35歳だ。(※もしかしたら誕生日が来て36歳になっているかもしれないが)

「う、上野さん!?」

初めて見るスーツ姿の上野さんはいつも以上に素敵で、彼特有のハンパない色気も相変わらずだった。

あぁ、悔しいけどカッコいい・・・。

私は、今まで何度もこの人の色気に屈しそうになりながら、なんとか逃げてきた。

「上野さんにはもう二度と会わない」と思ってたけど、会えて嬉しいと思ってしまっている自分がいる・・・。

未だ傷心気味の女にとって、彼の存在はこの上ない誘惑だ。

「着物姿の玲子、とても綺麗だよ。ますますイイ女になったね。」

こんなセリフを自然に言えてしまうのも、彼の成せる業である。

「あ、ありがとうございます。」

その色気にクラクラしながら、私は返事するのがやっとだった。

「じゃ、俺、仕事だから。また後でね。」

そう言い残して、罪な男は去っていった。

・・・あ~、突然の上野さんとの再会は心臓に悪いわ。

ここでビックリしたおかげで、スピーチの緊張も吹っ飛んだ。

スピーチ

披露宴の前半に、自分のスピーチの番がやってきた。

司会者に呼ばれマイクの前に立つと、参列者全員の視線が自分に集まるのを感じた。

大丈夫・・・。

人前で話す仕事はやってきたし、今日のためにしっかり準備もしてきた。

フランス語文はフィリップに文章も音読もチェックしてもらったし、練習通りやればいい。

私は小さく深呼吸をしてから、お祝いの文を読み始めた。

「パスカルさん、絵梨花さん、ご結婚おめでとうございます。

ご両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。

こんなに素晴らしい結婚式で二人をお祝いすることができて、とても嬉しく思います・・・。」

ここは日本なので、先に日本語文を読んでから、その後フランス語文を読んでいく。

練習の甲斐もあり、どちらのスピーチも無事終わった。


・・・読み終わって高砂の席の方を見ると、しっかり者の絵梨花ちゃんが泣いている

まさか泣くなんて予想していなかったから驚いた。

絵梨花ちゃんが感動するほど喜んでもらえるとは・・・。

私は無事スピーチを終えたことにホッとして、席に戻った。

André

「Enchanté.」(初めまして)

新郎新婦のお色直しの歓談タイム中、一人のフランス人男性が私の元に近付いてきた。

スーツ姿の彼は、叶姉妹の”グッド・ルッキング・ガイ”に認定されるくらい美しい。

彼はフランス語で話し続けた。

「僕の名はアンドレ。

パスカルの友達で、今日の結婚式に呼ばれたんだ。

君のスピーチ、とても良かったよ。

レイコはこの後の二次会に行くの?」

参列者に友達がいない私は、二次会は不参加の返事をしていた。

「ごめんなさい。私、二次会には行かずに帰るつもりなの。」

アンドレは顔を曇らせた。

「そっか・・・。残念だな。

僕は東京に住んでいるんだけど、良かったらまた会わない?」

私は名刺を渡されたが、そこに載っている企業名は誰もが知っている有名な語学スクールだった。

フランス語の先生か・・・いいじゃん!!

私は「Avec plaisir.」(喜んで)と言い、自分の連絡先を書いたメモをパスカルに渡した。

彼は「Merci. Je te appellerai bientôt.」(ありがとう。また連絡するね)と笑顔で受け取り、大事そうに胸ポケットにしまった。

そして私の耳元に唇を近づけると、「Tu es très belle.」(とても綺麗だよ)と囁き、自分のテーブルへと戻っていった。

「すごい・・・。本当に”グッド・ルッキング・ガイ”だ・・・。」

私はアンドレの後ろ姿を眺めながら、彼とのデートを妄想し始めるのだった・・・。

絵梨花との挨拶

高砂席での写真撮影タイムになり、やっと絵梨花ちゃん本人に話しかけることができた。

「絵梨花ちゃん、本当におめでとう。

いつも綺麗だけど、今日は最高に美しいよ!!」

絵梨花ちゃんは笑顔で応えた。

「玲子ちゃんのスピーチすごく良かったよ。

危なっかしかった玲子ちゃんが、あんなにしっかり話すんだもん。

いつも妹みたいに思ってたけど、今日はお姉さんに見えたよ。

なんか感慨深くなって泣いちゃった。」

私は湿っぽくならないよう、明るく返した。

「何言ってるの~?私の方が3歳もお姉さんなんだからね。」

「そうだっけ?忘れてた。」

冗談を言い終わると、絵梨花ちゃんは真面目な顔で言った。

「玲子ちゃん、私はこれからパリに住むけど、帰国する時は連絡するから絶対会おうね。

また、パリにも遊びに来てね。」

そっか・・・。相手がフランスの警察官だと、日本にはもう住めないもんね。

「うん・・・寂しくなるけど、また会おうね。」

絵梨花ちゃんと強く手を握り合った後、私は高砂席を離れた。

お誘い

17:30で披露宴はお開きになり、帰る準備をしていると、仕事を終えた上野さんが話しかけてきた。

「玲子、二次会は参加するの?」

”グッド・ルッキング・ガイ”なアンドレもいいけど、色気はやっぱり上野さんの方が上だなぁ・・・と私は彼を見て思った。

「いいえ、今から帰ります。」

すると、上野さんは私をお茶に誘った。

「俺、二次会の写真は頼まれてないから今からフリーなんだ。

良かったら、お茶しない?

機材片付けてくるから、原宿駅前の××××っていうカフェで待ってて。」

彼の言葉には、不思議と”NO”と言わせない強さがあった。

「はい、わかりました。」

気が付くと、私は彼の指示に従っていた・・・。

Le café

指定されたカフェで待ちながら、私は上野さんのことを思い出していた。

上野さん、最後に会ったのは9月だから5ケ月ぶりか。

あの時、「玲子が帰国するまでの2ケ月間、期間限定の彼女にならない?」ってすごいこと言われたんだよな。

あまりに上野さんが魅力的だから私もOKしそうになったけど、絵梨花ちゃんや美月ちゃんに必死に止められて、なんとか断ったんだっけ。

今日はどういうつもりで、私をお茶に誘ったんだろう?

きっとすぐパリに戻るだろうし、懐かしい知人(?)と話したいだけかな。

さすがに下心とかないよね・・・。


しかし、彼とお茶だけで済む訳がないことを、危機管理能力の薄れた私はすっかり忘れていたのである・・・。


ーフランス恋物語118に続くー

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