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ミカエルの無償の愛(フランス恋物語126)

La déception

2月24日、水曜日の夜中。

アンドレにお金目当てで近付かれた。」

こんなこと、今までの人生で初めてのことだ。

ある意味、体目当てで来られるよりもタチが悪く、ショックかもしれない・・・。

私はアンドレを恨んだし、簡単にホイホイ会っていた自分も情けなく思った。


日付が変わって、2月25日、木曜日。

アンドレの本性が気になった私は、二人が出会ったきっかけとなった絵梨花ちゃんとSkypeで通話し、それによって奴の謎は解けた。

だからといって、私の気持ちが晴れるわけではない。

Skepeを切った後、一人に戻った私は失意の中にいた。

「あぁ・・・これで本当に誰もいなくなったな・・・。」

Lumière d'espoir

しかしパソコンのメールボックスの中に、一つの希望が残っていた。

それは先月、私が「彼氏ができた。」と言って怒らせたミカエルからだった。

あの時「君を許さない。」とまで言っていたが、彼はまた私を許してくれたのだろうか・・・。

私は急いで、彼からのメールを見た。

彼からのメールは、日仏併記に戻っていた。

玲子、お元気ですか?
ぼくはきみをわすれようとおもったけど、わすれられなかった。
ぼくは日本にすむことにきめたよ。
玲子のたんじょうびの3月2日に東京に行きます。
ぼくと会えますか?

ミカエル・・・。

ミカエルは、まだ私のことを好きでいてくれたんだ・・・。

しかも、私の誕生日をちゃんと覚えていてくれて、その日に合わせて来日するって、すごすぎない!?

私はミカエルの愛情の深さに涙が出た。


しかも、最後には自作のフランス語の詩が添えられていた。

こんなことをされて、気持ちが傾かない女がいるだろうか・・・。

Sur un lit de pétale de rose, je te poserai allongée près de la mer, aux vagues somptueuses tu sera bercée.
Au levé du soleil, les 1er rayons éclairons ta peau faisant d'une merveille visuelle la renaissance de Venus, vue d'aujourd'hui.
Tu es ma déesse de la beauté aux cheveux noirs ondulés, dorés par le soleil, mais voilà que le vent s'y met et d'un souffle paisible, les pétales tourna autour de ton corps laissant paraître un court instant, un moment de plaisir et de contemplation de l'être aimé.
Dieu Créa l'homme, ainsi la déesse que tu es, à créée l'amour dont je suis envouté à présent.
Les doux battements de mon cœur sont adoucis par ton charme historique.

私は夢中で翻訳した。

薔薇の花びらのベッドの上・・・僕は君を海の傍に横たわらせると、壮大な波に揺さぶられる。
太陽が昇ると、最初の光線は君の肌を明るく照らし、ルネッサンスのヴィーナスが視覚的な傑作になるのを今日見た。
君は波打つ黒い髪を持つ美の女神、黄金色の太陽・・・でも今穏やかに風がそよぎ始め、瞬く間に君の体の周りに花びらが舞う。
それは愛する人の喜びと瞑想の瞬間となる。
僕の心臓の甘い鼓動は、君の歴史的な魅力によって和らげられる。

前回受け取った詩も良かったけど、今回の詩は絵画的で、よりロマンチックだなと思った。

”女神”とか言われるとめちゃくちゃ照れるけど、フランス語だとすんなり読めるから不思議だ・・・。

私は、日仏併記でミカエルに返事を書いた。

ミカエル、メールと詩をありがとう。
そして、今までごめんなさい。
彼氏と別れ、私は今一人です。
私の誕生日を覚えてくれてありがとう。
3月2日、東京で会いましょう。
どこで待ち合わせればいいか、教えてください。

パソコンを閉めると、私は大きな溜め息をついた。

あぁ・・・帰国後も色々あったなぁ。

でも、ミカエルが東京に住むと決まった今、もう迷うことはない。

後にも先にも、私をここまで愛し続けてくれる人は他にいないだろう。


3月2日は火曜日で、たまたま休みを取っていた。

しかも、翌日も休みで連休だから、彼が望めば夜も一緒に過ごすことだって可能だ。

もしかして、これって運命なのかも!?


今日が2月25日だから、3月2日まであと5日・・・。

誘惑に弱い私も、たった5日間なら何かあっても断れると思った。

もう、仕事以外は大人しくうちで過ごそう。

・・・あ、そうだ、今度の土曜の夜は美月ちゃんと飲みに行く約束をしてた。

彼女には色々報告しなきゃ。

美月

2月27日、土曜日の夜。

「会いたかったよ~!!」

新宿のダイニングバーの入り口前で、私たちは抱き合いながら再会した。

相変わらず、フランス流にビズをする。

「あのね、私、結局就職したの。

しかも、彼氏もできたの、聞いて。」

そう語る美月ちゃんは嬉しそうだ。

Girls talk

「カンパ~イ!!」

私たちはスパークリングワインで乾杯した。

「じゃ、先に美月ちゃんの報告を聞かせて。」

彼女は、外資系の広告代理店にグラフィックデザイナーとして就職し、そこで知り合った社員と付き合い始めたという。

「しかも、彼はアメリカ人なの。

英語はもちろん、日本語も話せるから最高!!」

美月ちゃんは英語が堪能だから、フランス人よりアメリカ人の方が向いてそうだと思った。

「良かったね。美月ちゃん、順風満帆そうだね。」

彼女は私にも聞いた。

「玲子ちゃんは、類先輩と別れちゃったんだね。

まさかの既婚者とは・・・そりゃビックリだわ。」

美月ちゃんには、類と別れたことをメールで連絡していた。

「なんか、別居中の前の奥さんと電話して、離婚については話が進んでいるらしいよ。」

「そうなんだ。でも、離婚が成立しても戻る気はないんでしょ?」

「ないよ。

・・・あ、あと、他にも、美月ちゃんに報告があるんだ。」

そして、上野さんとの一部始終を語った。

「えぇ、うそ~!!!!!」

美月ちゃんは、この日一番大きな声を上げ、興味津々に聞いた。

「で、やっぱりHは良かったの?」

「えぇ、そりゃもう・・・。

でも、大丈夫。

私、それよりも上野さんと心で繋がれたことが嬉しかったの。」

美月ちゃんは、目を真ん丸にして言った。

「何それ~、超イイじゃん!!

玲子ちゃん、カッコイイこと言うね。」

私は、その時感じたことを正直に言った。

「愛も武道と一緒で、”心・技・体”の三つが揃ってないとダメだと思った。

そのどれも損なうことなく、バランスよく高めなきゃいけないなって。」

美月ちゃんはその言葉が気に入ったようだ。

「出た、今日の名言!!

じゃ私も、彼氏にその話してみようっと。」

その後、”グッド・ルッキング・ガイ”もとい、借金王のアンドレの話をちょこっとしてから、今日の本題に入った。

「実は、ミカエルから1ケ月ぶりにメールが来たの。」

美月ちゃんは、聞き覚えのある名前に懐かしささえ覚えているようだ。

「安定のミカエル、いいね~!!」

「全然安定じゃないよ。

先月、『彼氏ができたから、ミカエルが日本に来ても会えない』ってメールで話したら、『君を許さない。もう日本に行かない。』って怒られてそれっきりだったんだから・・・。

もう二度と連絡はないと思ってた。」

美月ちゃんは眉をひそめた。

「そりゃあ怒るよね。

で、最近来たメールには何って書いてあったの?」

私は、ミカエルが、私を忘れられないこと、私の誕生日に来日するから会いたいと言っていたことを伝えた。

それから、ミカエルからの詩・第二弾をプリントアウトした紙も見せた。

「え、何それ!!

マジ、ミカエルの愛情すごすぎ・・・!!

玲子ちゃん、これはもうミカエルに絞るべきだよ。」

私は穏やかな口調で言った。

「うん・・・。

さすがにここまでされたら、他の男性に目は行かないよね。

今まで、好き勝手してきた分、3月2日はミカエルにとことん尽くそうと思ってる。

もちろん、それ以降もね・・・。」

美月ちゃんは私に抱きついた。

「玲子ちゃん!!

私、玲子ちゃんが今度こそ落ち着きそうで、本当に嬉しいよ。」

それについては私も同感だ。

「うん、私だって、今度こそ落ち着きたいよ。」

「どうか、今度会う時はもっといい報告ができますように」と心から願った・・・。

Le mot de Rui

3月1日、月曜日。

今日も不動産屋は平和だ。

カウンターの掃除をしていると、私は店長に呼ばれた。

「あ、橘さん。

オーナーの自宅に行って、契約書にサインもらってきてくれない?

ちょっとわかりにくいところだから、及川くんに送ってもらって。」

・・・あ、また類と二人きりか。

「よろしくお願いします。」

形式的な挨拶をすると、類からは熱い視線を感じた。


明日は、ついにミカエルと再会する日だ。

私の心は決まっているのに、未だ類はアプローチを続けようとするのだった・・・。


ーフランス恋物語127に続くー

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