マガジンのカバー画像

連載 閉ざされた国 サウジアラビアをわかりやすく

15
2017年夏、サウジ政府において、政策コンサルタントとして勤務。現在、アメリカの公共政策大学院に在学。サウジを中心とした中東情勢について、初学者向けにわかりやすく説明。問合せ先→… もっと読む
運営しているクリエイター

2017年12月の記事一覧

1-4. サウジがイスラム教を徹底する理由

1-4. サウジがイスラム教を徹底する理由

【3行まとめ】
・サウジは、武力でアラビア半島を制圧した国家であり、統治の正当性が必要。統治の正当性をイスラム教に求め、権力の源になっている。また、サウジはイスラム教の聖地を擁しており、その神聖さを守る必要がある。

(写真は、ジェッダ市内の大きなサウジの国旗。)

・なぜサウジはイスラム教に厳格なのか
 さて、ここまでサウジのイスラム教の厳格さについて具体例をあげながら紹介してきましたが、なぜこ

もっとみる
1-5. 仏教は仏陀 では「イスラム」とは?

1-5. 仏教は仏陀 では「イスラム」とは?

【3行まとめ】
・「イスラム」とは、唯一神アッラーへの絶対的な信仰をすること
・イスラム教を信仰する人を、民族や地理を問わず「ムスリム」という
・イスラム教は実践する宗教。内心の信仰だけでなく礼拝など行動が必要

(写真はイスラム教のお祈りの様子。PhotoACより。)

・イスラム教とは
 本章では、厳格なイスラム教義がもたらす日常生活への影響について言及した後、サウジがなぜイスラム教に厳格なの

もっとみる
2-1. サウジの王族と政治のドロドロした仕組み

2-1. サウジの王族と政治のドロドロした仕組み

【3行まとめ】
・王位継承は、単純な年功序列ではなく、個人の実力で選出される
・能力が不十分な国王の場合、暗殺されることもある実力社会
・次期国王の皇太子は31歳と若く、実績作りのため急進的な政策を行う

2.内政
(1)政治:サウード家による絶対王制国家
・王室の歴史と王位継承プロセス
 第1章でサウジアラビアは絶対王制であることに言及いたしました。憲法において、「司法、行政、立法の三権は、国

もっとみる
2-2. サウジの政策決定のウラ事情

2-2. サウジの政策決定のウラ事情

【3行まとめ】
・サウジ政府が、最優先することは、サウード家の絶対王制支配の存続
・石油収入を分配して不満を抑え、情報を検閲してクーデターを防ぐ
・絶対王制を存続させるために、民意を吸収し政策に反映させる

(写真は、リヤド市内のショッピングモール。次期国王と目される、若き皇太子のムハンマド・ビン・サルマン氏が大きく飾られています。)

・サウジアラビアの行動原理:サウード家による絶対王制の死守

もっとみる
2-3. 石油が湧くサウジの苦悩 高い失業率

2-3. 石油が湧くサウジの苦悩 高い失業率

【3行まとめ】
・サウジは世界最大級の石油埋蔵量を誇り、国家権力の源となっている
・石油収入によって、国民の勤労意欲が低下し、失業率が高くなっている
・労働者は、教育水準が低く、かつ職を選り好みしている

(写真は、砂漠の中に突如現れる石油関連とみられるプラント。)

2.内政
(2)経済:石油依存経済のいまとこれから

・国家権力の源 世界最大の石油埋蔵量
 サウジアラビアを論じる上で、最も重要

もっとみる
2-4. 外国人労働者がサウジを嫌う理由

2-4. 外国人労働者がサウジを嫌う理由

【3行まとめ】
・サウジ経済は外国人労働者によって支えられている
・外国人労働者の労働環境は過酷を極めており、人権侵害が課題
・サウジは政策立案から軍事まで欧米コンサルに依存しており脆弱な構造

(写真は、首都リヤドのインド・パキスタン系の外国人労働者が居住する地区。きらびやかな建物とは正反対。トラックに山積みの靴を路上で売っている。サウジに着いてしばらくは、この地区に住んでいました。)

・出稼

もっとみる
2-5. サウジの王族がリッツ・カールトンに拘束された本当の理由

2-5. サウジの王族がリッツ・カールトンに拘束された本当の理由

【3行まとめ】
シェール革命によって石油価格が下落し、サウジの経済が悪化。政府のバラマキの額が減り、庶民の不満が高まっている。庶民の不満を解消するため、政府は王族を拘束。さらに、政府は王族の保釈金で財政赤字を補う。

・米国シェール革命による原油価格低迷の衝撃
 日用品から軍事まで、何でも海外に依存するサウジ経済は、石油資源による安定した収入があって初めて成り立っています。

 石油資源による安定

もっとみる
2-6. サウジが雇用対策としてやるべきこと

2-6. サウジが雇用対策としてやるべきこと

【3行まとめ】
・石油価格が下落し、サウジ経済が悪化している。政府が取り組むべきことは、国民へのバラマキや、海外企業へのサウジ人採用の義務付けではない。教育の立て直しや、女性の活躍のための環境整備が不可欠である。

 石油価格が下落し、サウジ経済が悪化しつつあります。経済が悪化し、失業が増えれば、人々の不満が溜まり、反政府的な運動への萌芽となりかねません。

 サウジ政府の最重点目標は、サウード家

もっとみる
2-7. サウジの石油はなぜ安いのか

2-7. サウジの石油はなぜ安いのか

【3行まとめ】
・サウジの石油産業は、採掘コストの低い油田に恵まれ、引き続き有望産業。石油相場が下落する中、失業対策には新たな産業が必要。石油以外の産業を育成するため、インフラ・建設などの分野が有望視されている。

 これまで、サウジの失業対策として、労働者側のアプローチ(労働供給側)に注目をしてきました。本稿では、企業側のアプローチ(労働需要側)について見てみましょう。

 さらなる雇用を創出す

もっとみる
2-8. サウジの経済改革 ビジョン2030とは?

2-8. サウジの経済改革 ビジョン2030とは?

【3行まとめ】
・サウジは、市場規模と成長性から有望視されているが、政府の不透明性が高く、企業は投資をためらっている。次期皇太子は、ビジョン2030の旗のもと、経済・社会改革を急速に進めているが、課題は山積み。

・産業育成を阻む壁:政府の不透明な規制 
 前項で業種別に述べたように、サウジの市場の魅力は、その市場規模と成長性にあります。JETRO発行のレポート、「リヤドスタイル」によると、サウジ

もっとみる
2-9. サウジと日本文化の意外な共通点とは?

2-9. サウジと日本文化の意外な共通点とは?

【3行まとめ】
最近のニュースを騒がせるサウジは、日本とは全く違う国だと思ってしまいますが、地縁・血縁が強い階層社会であることや、おもてなし精神がおおらかなところは、日本と似ていて、不思議な親近感を覚えます。

 サウジの政治・経済に続いて、次のトピックは社会・文化です。男女の不平等や失業問題など、現下の社会問題については、すでに紹介いたしましたので、本項では、もう少し長期的なスパンで見たサウジ社

もっとみる