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掌編小説

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2021年2月の記事一覧

お酒のアルバム【掌編小説】

お酒のアルバム【掌編小説】

互いの家に、あけましておめでとうとあいさつに行き、甘酒を飲んだ子供時代。

お父さん秘蔵のウィスキーをなめて倒れ、こってりと母親たちに怒られた中学時代。

久しぶり元気? とビールで再会を祝った大学時代。

ワインボトルを真ん中に、別れ話をした社会人3年目。

緊張しながら並んで三三九度を交わした結婚式。

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タイムマシンに乗って【短編】

タイムマシンに乗って【短編】

──タイムマシンがあったら何をしますか?

突然話しかけてきた男がいた。戦後の闇市で芋を買う金もなくさまよっていた時。
懐のにぎりめしを半分に割って、俺にくれた。
路肩にしゃがんでむさぼり食った。3日ぶりの飯が腹にしみた。

──私は、先祖達のプロポーズをぜんぶ見たい。お見合いや、結婚式でもいい。
通りすがりの人として、おめでとうと言いたい。

男がなにを言ってるのか分からなかった。
家族はみんな

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気後れ【掌編小説】

気後れ【掌編小説】

母のタンスに、ウールのロングコートがある。真っ白で、ギャザーとリボンがついてる可愛いものだ。
でも着たのを見たことがない。着ればいいのにとうながすと、綺麗すぎてもったいないと逃げる。
それが数年続いた。

今年、季節の衣替えでタンスの中身の入れ替えをする時、あのコートがないなと思ってたずねると、母は「処分した」と答えた。
「どうして? 気に入ってたんでしょう」
「……」

実は一度着たという。それ

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対価の減少【掌編小説】

対価の減少【掌編小説】

欲しい神棚がある。でも高い。
メルカリで検索したが、無い。仕事の無理がたたったのか病気にもなった。ますます欲しい。

すると見つかった。購入して神に感謝した。

病気は一進一退。有名な占い師に相談した。
「神棚を買い叩きましたね」
「でも病気はその後に」
占い師は首を振った。
「思った時からご加護が目減りしたのです」

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「行くぞ」【掌編小説】

「行くぞ」【掌編小説】

お見合いの時からせっかちな主人。どんどん先に歩いて、私はいつも後から小走り。
結婚式では神主さんに叱られてました。お宮参りも初詣も、階段の上で腕組みして「遅い」と怒る。

それが、いつからか数歩先くらいに。
今日は息切れしてたら、「ほら」と声。
目をあげると、手。それと、視線をそらし気味にした主人の顔が。

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マスコット【掌編小説】

マスコット【掌編小説】

君のことをずっと見ていたのは私なのに。なぜ急に、カバンにうさぎのマスコットなんて付け始めたの。縫い目がバラバラなのは、誰かの手作りプレゼントかな。
「貸して」
奪うと、君は「返せよ」と。怒った声は初めてだね。
「おっと」
窓から落とすフリをして、止めた。君に本当に嫌われてしまいそうだから。

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書類の向こう側で【掌編小説】

書類の向こう側で【掌編小説】

会社の上司が、定年退職をする。仕事は早く人望も厚いが、ロボットのあだ名をもつ人だった。何があっても感情的にならず、淡々と対処していた。

私がミスをして謝るときも、
「そうか。じゃあこうしよう」
と指示を出す。怒られない分、よけいに恐かった。書類の向こうの表情が読めないから。

「皆さんと共に仕事をした日々は充実し…」
手には下書きの紙。口調は一本調子。最後まで書類の向こう側にいたいらしい。でも彼

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