act:14-オレの夏やすみ 大多喜の愛と平和を守るため【定例パトロール編】
オレの夏やすみは忙しい。まずは毎朝5時に起床、昆虫スポットにてカブトムシやクワガタの確保を行う。これは大切な任務であり、そのための早起きなのだ仕方がない。そして大人から毎朝半強制的に参加を強いられるラジオ体操への出席を済ましてから一旦家路につく。
家に帰ってからはまず仏壇にお線香をあげ、朝ごはんを十分に平らげてエネルギー補給だ、その上で本日のノルマ分の夏やすみの宿題を片付けるのである。ここまで郷ひろみのような大スターでさえ怯みそうな過密スケジュールだが、多分誰より優秀なオレだからこなせているのだろう。さらに今日の午後は新聞記者の父さんの取材にくっついて養老渓谷に行けることになった、どうやら今日は、いつも以上に忙しい1日になりそうだな…。
そして午前9時になり、どうにかそれなりに宿題までやり遂げ(‥てはいないが)、オレは弟のクニオと、青龍神社にいつものように向かうことができた。
青龍神社には今日もいつもの先客が2名、毎日が暇人のヒロツンとユーイチが神社の境内に座り込み、あーだこーだとスーパーカーの話をしていた。しばらくすると歯医者のヤッチャンもやってきた。もちろんお面のケンちゃんは暑いので今日も欠席いつも通りだなOK!
こうしていつものみんなが揃ったところで、誰が言い出すともなく自然とメンコ大会がはじまった。ここまでがオレの夏やすみの朝の、毎度お約束のパターンだ。
まぁここまではプロローグでしかない、詳しくは前章 act:13【早朝編】を参照してほしい(※1)。
メンコといえば、何年か前までは丸いメンコが多かったけど、ここ最近では仮面ライダーやウルトラマン、スーパーカーの、2枚10円の四角いミニカードや、カード付スナックのおまけカードをメンコにするのが流行っている。このメンコ勝負で好きなカードを直接奪い合うのだ。
でも午前中は夏の日差しがガンガン当たる青龍神社の広場は、当然だが無性に暑い。みんなのメンコを叩く音もだんだんと弱々しくなり、やがて一人抜け二人抜け・・、最後は誰もやらなくなってしまった。まぁ夏やすみの間ほぼこうして毎日やっているので、いい加減みんなも飽き飽きしているというのもあるだろう。
そこで気分を一新!オレたちは日課であるこの町の定例パトロールに出ることにした。なによりオレたち大多喜無敵探検隊は、実はこの大多喜の愛と平和を影ながら守る秘密組織、町の定例パトロールは最も重要な任務のひとつなのだ。故に暑かろうが寒かろうが、例えガミラス星から遊星爆弾が降ってこようとも我々は行かねばならない、メンコなんかより遥かに優先度の高いミッションなのである!
9時30分ごろ、いよいよ定例パトロールのスタートだ。まずは大多喜駅まん前の『ポピンズ』に何か変わったことがないか、ようは面白いものがないか調査確認に向うことにした。しかしポピンズまではちょっと距離があり、さらに今は真夏である、なるべく日陰を通りたいのが人情ってもんだ。そこで直射日光を出来るだけ避け、且つ迅速に目的地に到達できるルートを本日は選択。オレたちは青龍神社から下に広がる町営駐車場の、その防空壕が残る崖沿いにまずは移動し、続いてその先の田んぼのあぜ道を伝って進んだ。そして喫茶店『緑の館』の脇に出る。よし!左手の坂の上にポピンズが見えてきたぞ、ここまで完璧じゃないか。
ディスカウントスーパー『ポピンズ』、ここではオモチャやお菓子をはじめ、電化製品や生活用品など様々なものが安く売られている。日々のオレたちのミッションに欠かせないマッチやライターなどの小道具類も何気に安く手に入るので重宝している。そういやこの前、オレは意を決し、大枚はたいてポピンズで一人乗り用ゴムボートを購入したっけ。お陰で念願だった夷隅川の川下りを達成できたんだ(※2)。今日もそんな次の冒険や作戦活動に使えるものがないかと皆で物色する。
しかしつくづくポピンズは素晴らしい、何が素晴らしいって、この季節はクーラーがガンガンに効いていて、店内にいるとさっきまでの真夏の暑さを忘れてしまうほどなのだ。この異常なほどの爽やかさ、これは房総丘陵に囲まれた盆地の大多喜では一生味わうことのない高原の空気というやつなのだろう。お陰で店内を物色しているうちに汗もひき、体も十分に冷えた。これでオレたちは真夏の過酷な炎天下でも更なる行軍(※3)が可能になったわけだ!
‥なによりこれ以上冷えると風邪をひくかもしれないな、実はオレは風邪をひきやすいんだ。
『みんなそろそろ引き上げないか?』
オレたちは商品を見るだけ見て触るだけ触り、あげく本日も何も買わなかったが、そんなちっぽけなことは問題じゃない。ポピンズを好きかどうかが大事なことだとオレたちは考えている。もっというと町の住民にそれだけ愛されているという事実が、ポピンズにとってなにより一番大切なことなんだろうとオレたちなりに理解している。そしてオレたちは間違いなくポピンズを愛してる、きっとこの町内で誰よりも熱烈に愛してるぞ!英語でいったら『I LOVE POPPINS』だ、どうだ何だかスゴイだろう!だからこそオレたちはこうしてほぼ毎日、特に買うものがなくともポピンズに行くのである。これを誰が阻もうというのか!
そして念のために言っておくが、決して涼みに来たわけではないぞ!これはあくまで定例パトロール、つまり我らの任務だ!いつものパトロールで訪れるお店のなかで、たまたまポピンズはクーラーが効いており、さらにたまたまポピンズ店内には我々がしっかり確認しなければならないものが多いために、毎回どうしても時間がかかる。その副産物としてたまたまタップリ涼めてしまうというだけなのだ、そこはどうか誤解しないで欲しい。
・・しかしポピンズは今日も最高に涼しかったけどな(ニヤリ)
『サンキューポピンズ!明日も来るぜ!』
オレたち一同は店を後にした。
お次の定例パトロール先は、オレたちの間では『オバケ旅館』と呼ばれる大屋旅館の並びにある『スーパーデンベー』だ。最近都会で増えていると聞くスーパーストアーが、実はホンの2~3年前にこの大多喜にも誕生したんだ。これは都会人にも十分誇れることなので、都会の千葉市に住む従弟のコージが今度遊びに来たら、大いに自慢してやろうと思っている。
スーパーデンベーには、ポピンズ方面からだと、まずは駅前通りを小高病院に向けて一直線に進み、途中、藤平商店の手前で左に曲がって行くのが王道だが、何せこの暑さだ。オレたちは定例パトロールを無事に完遂するためにも、まずは人命第一で日なたを極力避けることにした。ひとまずは日陰を伝い小高病院の手前まで到達、そこから夷隅神社の日陰が多い細い脇道に入ってお化け旅館の角に出て、そしてスーパーデンベーに向うことにした。この間オレたちは出来うる限り直射日光に当たらないよう、壁に張り付くヤモリのように民家の壁や店先の日陰伝いに慎重に移動をする。日陰が途切れているところから次の日陰までは無論ダッシュだ!
まさに仮面の忍者 赤影や忍者部隊 月光(※4)さながらのオレたちなのである、どうだちょっと驚いただろうフフフフフ。
そうしてたどり着いたスーパーデンベー。ここでオレはテレビCMで今話題のオマケつきガム、ジョイントロボやスポロガム(※5)の新入荷がないか強行偵察だ。他にも話題のお菓子やアイスも漏れ逃すことがないよう、オレたちは棚の隅々まで指差し確認を行う。もちろん怪しいブツがあれば即その手に取り、大多喜無敵探検隊の優秀な各メンバー達にてその場でじっくりと協議及び検閲を行う。このアリ一匹すら逃さぬ容赦ない我々の臨検の様子は、傍目にはさながら戦中の、つまり30年ほど前までお隣の茂原市に駐屯していた帝国陸軍の憲兵隊・茂原憲兵分隊の、その徹底した捜査を現代に髣髴とさせるものであり、後ろ暗い者にはどこまでも冷酷で無慈悲に映ったに違いない。もちろん善良なデンベーの店員たちにとっても、さぞや恐ろしいものにみえたのではないだろうか。
だが安心してほしい、我々はスーパーデンベーの味方なのだ!
しかしそれだけの労苦を割いても本日のデンベーの商品は昨日と大きく変わりがなく少し残念だったのだった。‥まぁこういう日もある、デンベーだってきっと頑張ってくれているのだ、悔しいのはデンベーも一緒だろう。オレはそう理解すると気を取り直し、今度は千葉県が誇るマックスコーヒー(※6)を購入することにした。実はこの炎天下の過酷な行軍で、オレは喉が渇ききっていたのだった。こんな時は甘さ抜群のマックスコーヒーが最高なのだ!この過剰なほどの甘さは、喉の渇きだけでなく真夏の熱波で疲弊した気力と体力を一気に補ってくれるのだ。もちろんスーパーマーケットだから通常より格安でお得だ。みんなもそれぞれアイスやら飲み物やらを買い込み、そしてお店の自動ドアをくぐって、店先の日陰で『秘密会議』という名の立ち話をしながらいただいた。なによりこのスーパーデンベーとポピンズは大多喜町の宝、そして20世紀日本の科学と文化の最先端だな。テレビで評判の新商品が度々置かれ、そして店内ではクーラーがガンガン寒いぐらいに利いている。眺めているだけで楽しいだけではなく、夏場は特に最高なご機嫌スポットなんだ、ついつい意味もなく長居してしまう。
『10時半か・・。』マックスコーヒーを飲み終え、空き缶をゴミ箱に捨てに行きながらデンベー店内の壁時計を覗くと、もうこんな時間になっていた。そろそろ最後の定例パトロール地点に向わねばならない。呑気にしてるとお昼ごはんまでに帰れないぞ!ここからは時間が惜しいので、日なたも気にせず直行だ!次はいよいよ大多喜の子供たちの聖地、2軒並んだ駄菓子屋スポット『バクダン屋』と『加賀屋』なのだ、こうしちゃおれない!
オレたちはデンベーを出ると、今日も海水浴客の車で渋滞する(※7)桜台地区の国道に沿って移動、まずは魚屋と造り酒屋『豊乃鶴』のクランクを右に曲がり、そして千葉銀行のT字路から外廻橋方面に向かった。
こうして迅速に目的地に到着したオレたちは、まずはバクダン屋から入ることにした。さっそくオレは大好きなカレーせんべいのクジを引く。いつもハズレで滅多なことでは3等や2等は出てこない、ましてや1等なんて誰に聞いても出た者がいないそうだ。バクダン屋のクジは、どれもこのピリッと辛いカレーせんより、遥かに辛口のクジなのだった。
オレはいつものようにそのハズレのカレーせんを、つまりバクダン屋の爺さんがカレーせんの詰まった大きな角瓶から、プッチンプリンの空き容器で一杯だけ掬って白い紙袋に入れてくれたものをボリボリとかじりながら、薄暗い店内に並ぶ大好きなバクチクやNAクラッカーをはじめ、カンシャク玉(※8)や煙幕花火に目を通す。本日はカンシャク玉と銀玉鉄砲の弾を補充だな、いつ敵が攻めてくるかもしれないので、装備は常に万全にしておかねばならないのだ、防衛のための装備は、いつの時代も揺るぎない平和の維持に重要なのである。
バクダン屋は、その名の通りこのような火薬類をはじめとする様々な花火、そして銀玉鉄砲や火薬鉄砲などの火器類が非常に豊富だ、それがきっとこのお店の名の由来だろう。なによりオレにとっては、この火薬・火器類のためのバクダン屋であり、空クジばかりのクジ引きや駄菓子などは所詮オマケでしかないのである。
ちなみにバクダン屋では、先のカレーせん以外にも餡子玉やスモモなど様々な駄菓子をはじめ、それは不気味なゴム製のヘビや毒グモ、チープなプラモデルなどのクジ引きがやたら多い。別にクジにしなくてもいいと思うんだけど、・・まぁこの方が儲かるのだろう。そしてまさに先ほどからユーイチが何度も何度も餡子玉のクジにハマっていた、ユーイチはどうもあの通常より3倍ぐらいデカい大当たりの餡子玉が欲しいようだが、そもそもオマエはそんなに餡子玉が好きだったっけか?まーこれぞギャンブル依存症の良い見本だな、大していらないモノなのに、ついつい熱くなってしまっているようだ。・・ユーイチよ、バクダン屋の術中に見事にハマってしまっているぞ目をさますんだ!
しまいにユーイチはとうとうブチキレて
『ハズレしか出ねーじゃねーか!空くじだけかよインチキめ!』‥と店の中で大声を出す始末。
それを聞いたバクダン屋の爺さんがカチンときたようで怒り出した
『なんてこと言いやがるんだこのガキゃー!』・・爺さん図星だったな。
爺さんの怒りに狼狽えたユーイチは咄嗟に店を飛び出した!・・かと思うと店先で徐に向き直し、店内に向って何やら腰をクネクネ振りながら手をユラユラとフラダンスのように泳がせて歌い出した。
『・・バクダン屋~♪ バクダン屋~♪・・』
こ、これは、バクダン屋の歌じゃないか!おいやめるんだユーイチ!
『バクダン屋~♪ バクダン屋~♪ カッパばばぁにハゲじじぃ~♪ いーつもマンネリ同じ服~♪ い~つも空くじボロ儲け~♪‥』
たった今ユーイチが歌っているこの『バクダン屋のテーマソング』は、何を隠そうオレたちみんなで考え出したバクダン屋を皮肉った歌ではあるが・・、それを当人たちの前で歌いきるとはな、さすが神をも恐れぬ特攻野郎のユーイチだ度胸がある!オレには怖くて到底真似は出来ないぞ。
このユーイチの必要以上に心をこめた熱唱に、バクダン屋の爺さんと婆さんが揃って声をあげる『コラァーーーーー!!』
その老夫婦の怒りの声を聞いてユーイチはどっかに飛ぶように逃げていってしまった。残されたオレたちも何となく居心地が悪くなり、しばらくして退散、ユーイチが忘れていったミズノの金属バットを拾って、ぞろぞろと隣の加賀屋に流れる。
『なんだみんな、遅いじゃないか!』なんとユーイチは隣の加賀屋にちゃっかり居て、チェリオを飲みながら、店の脇に並べられた新幹線ゲームというパチンコのような10円ゲームをしていたのだった!
加賀屋は、バクダン屋とはちょっと趣が異なり、そもそも駄菓子のグレードが一段高く、仮面ライダーやウルトラマンなどのお菓子が充実している。バクダン屋のパチものキャラに溢れかえった駄菓子とは、ひと味もふた味も違うのだ。そうそう、オレたちがメンコに使うミニカードも、ここのお菓子のオマケをよく使っている。お菓子自体はそれほど旨くないけど、あのパチモノではない本物の仮面ライダーやウルトラマンのカードが手に入るのでありがたい。そしてチェリオやガラナアップなど、ナウでヤングな飲み物も充実しているお店なんだ。ようはバクダン屋が昔ながらのハナタレ小僧向けの駄菓子屋だとすると、加賀屋は少し大人向きな、つまりオレたちのような違いの分かる高貴な生まれのジェントルメンな子供のための駄菓子屋と言えよう。だがしかし加賀屋にはオレの求める火器火薬類が充実していないところが唯一の難点、それ故にインチキ臭さが漂うバクダン屋にもオレは度々顔を出すのだ。
『キーンコ~ン、カーンコ~ン~♪・・』
いかん!12時のチャイムが鳴りだした!役場のションベンタワー(※9)、またの名を防災行政無線塔(広報塔)から、泰平の眠りをさます上喜撰のごとく、突如として正午を知らせる大音響のチャイムが大多喜の町ナカに響き渡ったのだった!バクダン屋でひと悶着あった後、皆がようやくこの加賀屋で穏やかな時を過ごせていたというのに、あっけなくタイムオーバーだ、何と残念なことだろう。
オレはみんなと家路に急ぎながら、午後は父さんの取材にくっついて、クニオと共に養老渓谷に行くことを話した。ユーイチが非常に行きたそうな顔をしていたが・・、まー軽く無視だ。オレは見なかったことにした。
まぁこうして本日の定例パトロールはお開きになったわけだが、ここまで色々ありながらも、今日もオレたちの活躍により、大多喜町の愛と平和はきっと護られたに違いない。うん、皆よくがんばってくれた!隊長のオレは嬉しいぞ!
さぁ、お昼にそうめん食って、午後は養老渓谷にドライブさ!
それにしても夏やすみって、なんでこんなに素敵なんだろう。朝から晩までフリーダム!風のむくまま気の向くまま、まさに勝手気まま君だ素晴らしい!このままずっと夏やすみが終わらないでほしいよなぁ
『‥大多喜小学校、おねがいだから爆発してくれないかなぁ』
夏やすみ延長のためとはいえ平気でそんな不穏なことさえ望んでしまう、少しバッドボーイなオレであった。
1977年(昭和52年)の小学5年生の夏やすみ、
オレたちが大多喜町で毎日のように繰り広げた、こんな他愛もなくも充実したあの日々の想い出である。
さぁー午後はいよいよ養老渓谷だ!
オレの華麗な夏やすみは、まだまだゆる~く続く。
次回、物語は act:20【川遊び編】へ ↓
【注意】登場人物名及び組織・団体名称などは全てフィクションであり画像は全てイメージです…というご理解でお願いします。
大多喜町MAP 昭和50年代(1970年代)
【大多喜無敵探検隊-since197X オレの夏やすみ 夏の一日編 Link 】
今回ダラダラと話が長くなり、年を越して結局3部作になってしまいました。大変見づらくて申し訳ありません ↓
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