最近の記事

1月24日の日記

太平洋はつや消しの紺だった。 強い風が吹いていたからきっと大きな波がたっていただろう。遠くの山頂からみえる海は絵に描いたように静止していた。紺色の水面に溶けたバニラアイスのような陽の光が注がれている。雲はゆっくりと移動しながら新しい島をつくっていく。鵠沼海岸は白い三日月みたいで江ノ島と七里ヶ浜とあわせるとかもめのようでもあった。毎日えんえんと繰り返す空と光と海のあわいに私たちは存在している。 このあいだ、15年ぶりに会った旧友から数年前に逗子へ移り住んだと聞いた。海は近いけ

    • ノキオンヘブン

      朝目覚めて、起き上がるのに力が入らずベッド柵を掴んでやっと身体を持ちあげる。ベッドから左足をおろすと末梢神経のしびれや感覚鈍麻により足元がふらふらする。立ちあがろうとしたらどうも血圧が下がったようで気を失いそうになる。どうしようもないのでまた身体をベッドへ寝かせてやり、数分後にここまでの動作を再び繰り返した。やはり立ち上がれないから仕方なしに床を這いずってトイレを目指す。腹の異物が邪魔だし気づかわなければならないからゆっくりと丁寧に這った。つるつるとした冷たい陶器につかまり便

      • 無題

        仕事の休憩時間は普通に1時間なのだけれど昼食はあまり摂りたくないので5分で済ます。おにぎり一つ、ヨーグルト一つ、あとは誰かが持ってきたお土産のクッキーを一枚とか、そういったものだ。少食ではないしむしろ大食漢、食べようと思えばいくらでも食べられるので昼の腹は夜へまわす、そうして夜にたくさん食べたい。アイスやポテチだって食べたい。欲深い自分にとってせめてもの対策を講じておるわけだ。夜に何を食べるのかといえばここ数日、いやもう一週間以上は鳥もも肉と茄子をホールトマトで煮たやつを食べ

        • 年末

          路面凍結のスリップにおびえながらも山のふもとへたどり着く。もう日が昇っているせいか道路は普段と変わりないようだった。駐車場の手前にあるセブンイレブンへ寄る。この時点で手先の感覚がないほど身体は冷え切っており顎ひもを外すのにも手間取る。水、ポカリ、プロテインバー、チョコレート、サンドウィッチ、いま身体を暖めるためのコーンスープを買う。低山とはいえこのあたりの気温は都心よりも低く肌を刺すような空気のためにじっとしていられない。コーンスープの粒に見切りをつけて駐車塲へ向かう。ジャリ

        1月24日の日記

          アイムウェイティングフォーザマン

          ぼくは待ち人 3万円の現金とクレジットカードだけの小さな財布 白い大きなヘルメットとそいつがすっぽり収まる大きな青いバッグ 川の向こう側からバスに揺られて30分 本を読むには揺れ過ぎだしヴェルヴェットアンダーグランド&ニコのアルバムを聴き終えることもできない ぼくは待ち人 ◯◯さん◯◯ ◯◯さーん はい行ってらしゃい ◯◯さん今日は××なので座ってお待ちください ここは方々から連れてこられた人々がいる みんな名前を呼ばれるのを待っている ぼくは待ち人 1つ事が済むと次の用

          アイムウェイティングフォーザマン

          喪があけて外で飲む酒異常なし

          緊急事態宣言があけてからはじめて行きつけの飲み屋で酒を飲んだ。 おれは入口すぐの席へ座った。扉は開けっ放しにしてくれということなので眼前はすぐ外だ。キリンラガーの瓶ビール、串カツ、まぐろのぶつを頼む。時間が18時を過ぎたころ外はまだじゅうぶんに明るい。店に入ってすぐは少し暑さを感じたのだがそうして座っていると心地よい風が入ってくる。位置的にほぼ外で涼んでいるような状態なのだ。ビールが運ばれてきてすぐに一杯目をぐいっと飲み干す。うまい。店で酒を飲めなくなってどれくらい経つのか

          喪があけて外で飲む酒異常なし

          九州ないつ

          AJICOのライブを観た。 東京は即完売だったのでやむなく佐賀へ。 佐賀…?遠くね…?と思ったけどLCCがかなり安かったので飛行機で。ひさびさの飛行機。いいな飛行機。雲へ突っ込んで抜けたあとに広がる真っ青がとてつもない。翼に打ってあるビスをじぃっと見ながらこれ吹っ飛んだらおもしろいなと思ってたらあっという間に着いた。むかし陸路で博多まで行ったときは5、6時間かかった気がする。 昼前には着いたからとりあえずご飯。やっぱラーメンってことでスマホ検索しつつ歩くといい感じの店があ

          九州ないつ

          平日

          頭に浮かぶのはなにを食べるかである。休日の始まりはほぼこんな目覚めで大抵の場合はスシローを選択するのだがいかんせん一昨日も行ったのでちょっと寿司休みしてやろうカラダにも寿司を与えすぎているからな、とやめた。 花粉症の診断を受けたわけじゃないけどまぁこれは間違いなくそうでしょうという目覚めてすぐに感じるものがある。黄砂がやばいとの情報もあったので抗ヒスタミン薬をパチっとして飲む。たぶん2時間程度で効く。自己免疫は最強の味方であるが絶対に倒せない最強の敵でもある。難儀な。 パ

          雨あがりのデニーズで

          めざめると7時半でもうすこし眠れると思いきやいや今日は休みだ。午前指定の荷物がくる予定だ。午前中の指定って幅がありすぎるからいつも後悔するんだけどそこしかないし。まぁ思っていたよりも早くにきたから出かけるためにさっさと洗濯する。昨日から気にしていた天気はずぅっと曇りという。傘のマークがあらわれないのでそれなら外干しでいいしおれも外でのんびりしたい。曇りでもいい。公園のベンチでパンを食べたいしコーヒーも飲みたい。読みかけの水の女を持っていく。電動自転車の充電はばっちりいつでも行

          雨あがりのデニーズで

          音楽

          おれはビルエバンスが好きだ。ピアノの旋律がどうとか恥美とかどうでもいい。ある時ただ聴きまくっていただけなのだ。ワルツフォーデビィに代表される彼のピアノトリオは絶品だ。ジャズかくありきといった批評家じみたことはどうでもいい。批評家は肩を並べて同じようなことを書く。どうでもいい。只者じゃねえなコイツというピアノさばきと合っているのか外れてるのかわからねえけど気づくと受け入れちゃうアップライトベースとツットンシャカシャカいわせるドラムが鳴らす音楽はとにかくいい。沁みるとかアガるとか

          嘘つきの人生を歩めばいいよ

          別れた女にそう吐き捨てたことがある。 思い出すと恥ずかしくなる。何言ってんだって。何一丁前に怒ってるのって。だって自分も嘘をつきまくっているわけです。誰かと一緒にいるときいつも楽しいわけじゃない、早く帰りたいし早く帰れとも思っている。十分楽しんだら無理して夜まで一緒にいたくない。この後は自由行動にして買い物したり1人で飲みに行きたい。なんなら一緒に行った美術館もふらっと1人でまわりたくなる。毎回そんなふうにどこか飽きっぽくて窮屈だから孤独な時間を探してしまう。正直な言葉に傷

          嘘つきの人生を歩めばいいよ

          乃木坂46を見つめて

          私は一時、乃木坂46のファンであった。 初めて乃木坂46を正確に認識しその存在を受け入れることができたのは『命は美しい』という曲だったと思う。それ以前に『制服を着たマネキン』『ガールズルール』『バレッタ』といった楽曲はなんとなく知っていたもののあまり興味も湧かず、私にとっては雨後の筍の如く湧いて出る数多のアイドルグループのひとつといったものだった。 『命は美しい』最初に見聞きしたのはPVだったと思う。それは女のみに宿る力強い美しさとそれゆえの儚さといったコントラストが感じ

          乃木坂46を見つめて

          月曜日は美術館がお休みです

          私は月曜の休みが多い。 美術館でも行こうかと思ったけどコロナどうこうではなくそもそも近くの美術館は月曜休館だった。調べてみたら博物館法なるものに基づきそうなっているらしい。ちくしょうためになった。企画そのものが延期・中止になっていることもあり今やっている他のイベントに心動かされることもなくなんや気づけばアフタヌーンティーである。西日が部屋に差し込みあぁ今日はもういいやと外出を諦めた。 美術館、で思い出した。むかし彼女と一緒に落書きをした。 キャンバスはマライア・キャリー

          月曜日は美術館がお休みです

          無題

          テレビゲームの類いをやらなくなって10年くらい経つのだけれど、昨今の転売品薄な状況を見ていたら久々にやりたくなって買ってしまった。PS4を。 本当はPS5が欲しかったけど抽選だし待ってられねぇとヨドバシカメラへ。代替わりするのもあってか値下げしていたし既発のソフトでも十分でしょうと。前に話題になっていたゴーストオブツシマを一緒に購入。 連休なので思う存分やってやんよとお菓子やコーヒーを買い巣篭もりした。 早速始めてみたがなんというか、やることは昔からあまり変わってないんだ

          高いコートを買うためにあーだこーだ理由をつけるんじゃねえ

          外出の機会が減ったからとカッコいい服や靴を見つけても「着る機会がなぁ……」つって買い控えるのはどうにもさみしくねえか。お前はただ安心安全に生きてりゃいいのかって。 そんな葛藤のなか、これまでセールはやらないと公言していたバリ硬派な店から対象商品30%OFFのメールが来た。おぉどしたん…と面食らいながらも前々から狙っていたとある激マブステンカラーコートに思いを馳せた。 「あれも対象になるのか……しかしだな……」 というのも今秋、同じブランドの同型で異素材異色のステンカラー

          高いコートを買うためにあーだこーだ理由をつけるんじゃねえ

          扉の前で

          惚れた女がいた。 紆余曲折ありようやく付き合えるようになって数年は良い関係でいられた。ちょうどその頃は周囲の就職が決まっていくような状況で、私といえば中途半端な夢想に耽り夢を叶えようとも一歩を踏み出そうともせずにただ惰性な日々を送っていた。そういった私の生き方に飽々したのであろうその女は、ある日別れのメールをよこす。しかしそれをすんなりと享受するほどの思慮深さもなく、器の大きい男などでもなく、かねてより器量の無さに自身でほとほと呆れ返っていたこともあり、子どもが玩具をねだる

          扉の前で