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嘘つきの人生を歩めばいいよ

別れた女にそう吐き捨てたことがある。

思い出すと恥ずかしくなる。何言ってんだって。何一丁前に怒ってるのって。だって自分も嘘をつきまくっているわけです。誰かと一緒にいるときいつも楽しいわけじゃない、早く帰りたいし早く帰れとも思っている。十分楽しんだら無理して夜まで一緒にいたくない。この後は自由行動にして買い物したり1人で飲みに行きたい。なんなら一緒に行った美術館もふらっと1人でまわりたくなる。毎回そんなふうにどこか飽きっぽくて窮屈だから孤独な時間を探してしまう。正直な言葉に傷つかないよう少しずつ嘘をついて嘘をついてあぁ今日も平穏に終わったなぁということをやり続けている。だって正直に言ったら女をキープできないから。

相手のための嘘というのは本当じゃない。相手を傷つけるからというのも本当じゃない。嫌われたり反撃されるのを避けたい。相手から得られる幸福や快楽を逃したくない。そんなことを自覚しながら嘘をついている。つまるところセックスする相手を切らさないようにしている。

でもわがままなことに相手の嘘はだめで裏切りは許せない。自分も嘘をつきながら相手の嘘は許さない。自分の身勝手な思考はいつもコントロールが難しい。自分の嘘や裏切りを批判し断罪することなんてできない。甘いから。とにかくいつも自分に甘い。そうしているうちに細かく散りばめられた嘘は相手へ伝わり確信に変わるのがわかる。何度も同じ嘘をついていると段々おざなりになってくるのかもしれない。丁寧な嘘を言えるうちはなんとなくうまくいくんだけどね。ただまぁ自分の嘘を正直に認めて謝るなんてことはせず濁して濁してやり過ごすのだけれど良い結果にはなりません。今までこれの繰り返し。多分ずっとこの繰り返し。

相手が裏切ったときは七転八倒し地団駄を踏む。泣いたり自暴自棄になったり。でもどこか冷静でそんなかわいそうな自分をアピールするように見せつける。悲しいのは本当なんだけど相手がいるときだけ爆発させる。演技に熱が入る。おれは名優だ。どうしてそんな酷いことをするんだおれは何もしてないよって何もしてないことは無いよなぁと思いながら言う。そんなふうに悲劇を演じると不思議と相手は同情して謝ってくる。ごめんなさいと。嘘ついて嘘ついてあげく相手の裏切りを逆手にとってやる。その先に別れがあろうが結末までのあいだにセックスできれば儲けたもんだ。そのあいだのセックスは癖に触れるような独特なものだ。謝って謝られて責めて責められてでも好きなんだと叫びあうものだ。こういった特殊なつかの間は必ずすぐに終わってしまう。これを何度も繰り返す。ずっと繰り返す。正しいとは思わない。悪いことしちゃったなぁと真剣に落ち込むことだってある。あれは100%おれが悪いよなぁとその時だけは反省する。でもおれは変わらないと思う。嘘つきの人生を歩めばいいよ。

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