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【ミステリーレビュー】朽ちる散る落ちる/森博嗣(2002)

朽ちる散る落ちる/森博嗣

「六人の超音波科学者」の直接的な続編となる、Vシリーズの第9弾。



内容紹介


土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。
絶対に出入り不可能な地下密室で奇妙な状態の死体が発見された。
一方、数学者・小田原の示唆により紅子は周防教授に会う。
彼は、地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。
空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作。

講談社



解説/感想(ネタバレなし)


「六人の超音波科学者」の続編となり、事件の調査をするために再度研究所に訪れた主要メンバーが、新たな死体を発見するところから物語はスタートする。
前作「捩れ屋敷の利鈍」を挟んだことで、良い感じに脳はリセットされた状態。
そういえば、あれだけ含みを持たせて記述されていた地下室について調査しないまま、あの事件は終わってしまっていたのだった。
語らない美学も増えてきたVシリーズにおいて、自然に受け入れてしまっていたが、続編に繋がっていたとは気が効いている。
やはり、「捩れ屋敷の利鈍」の時系列はどこであったか、は後々鍵になってきそうだな。

端的に言うと、本来であれば「六人の超音波科学者」に期待したS&Mシリーズばりの理系ミステリィがここにあった。
大掛かりな仕掛けがありそうな実験施設。
完全なる密室で死んでいた不自然な死体。
そして、事件に関係があるのかないのか判断が難しい、宇宙空間での密室殺人まで飛び出してくる。
阿漕層のアットホームな空気に飼い慣らされていたが、そうそう、この常人は理解できない空気感こそ、森ミステリィの醍醐味だったじゃないか。

「朽ちる散る落ちる」というタイトルの語感の良さは相変わらずだが、各章のタイトルが、すべて"かける"で統一されているのもお洒落。
欠ける、架ける、掛ける、賭ける、駆ける、懸ける、翔る。
実際に、その章で巻き起こる展開を暗示しているのもニクい演出。
一体どこから物語を生み出しているのだろう、と溜息が漏れる様式美である。



総評(ネタバレ注意)


久しぶりに理系ミステリィ全開だったな、と。
今回は保呂草が早々に紅子に取り込まれ、暗躍を断念していることから、正統派な謎解きミステリィに帰結したとは言えるのかもしれないが、そのトリックがトリックなのだもの。
久しぶりに味わった、この正攻法で真上からねじ伏せられる感覚がたまらない。

作中ではアクション担当になりがちな練無にも、そういえば医学生だったよな、と賢さを覗かせる場面があるのも、なんだか良い。
彼の深掘りについては、短編集を読んだほうが良いということなので、そこは後ほど履修しておくとしよう。
読んでいなくても、特段支障はなかったとだけ。

おそらく、構造としてはもっとシンプルにも出来たのだろう。
宇宙密室のくだりはなくても物語は進行できたはずだし、へっ君の行方不明事件も結局は勘違い。
ただし、前者があることによって暗躍している組織の存在の大きさが想像できるし、後者によって紅子や林の家族に対する感情がほぼはじめて描かれる。
シリーズものとして完結が近いという背景を踏まえれば、これらが最終巻に結びついていくはずだ。

ちなみに、へっ君については、イニシャルがS.Sであることも判明。
さすがにこれは決まったかな、と思いたいのだけれど、それがミスリードだったらどうしよう。

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