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【ミステリーレビュー】捩れ屋敷の利鈍/森博嗣(2002)

捩れ屋敷の利鈍/森博嗣

S&MシリーズとVシリーズとが交わる、森博嗣の長編ミステリィ。



内容紹介


メビウスの帯構造の密室、現れる死体、消える秘宝

エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。
密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。
そして発見される第2の死体。
屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。
S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリィ。

講談社


解説/感想(ネタバレなし)


遂に、S&Mシリーズの西之園萌絵がVシリーズに殴り込み。
シリーズ間に繋がりがあることが示唆された。
発表から20年以上経過してから読んでいるので、作品間にリンクがあるのは前提事項として認識しているが、それでも読むのが待ち遠しかった本作。
リアルタイム勢にとっては、さぞかしたまらなかっただろうな、と。

S&Mシリーズでも、第8弾はスピンオフ的な作風だったが、そこはVシリーズでも踏襲するらしい。
主役であるはずの瀬在丸紅子すら本編には登場せず、阿漕荘からは語り部である保呂草のみが登場。
一方で、萌絵と同行しているのは、犀川ではなくまさかの国枝女史。
探偵役が不在、だが十分に資質がある天才2名という構図で、どう転ぶか予測がつかないミステリィが展開されていく。

S&Mシリーズにおけるスピンオフと大きく異なるのは、閑話休題的な位置づけだった「今はもうない」に対して、「捩れ屋敷の利鈍」は、むしろ物語の根幹に近づくものになっていることだろう。
これを読むことで、読者視点ではシリーズ間に横たわる"秘密"が気になって仕方なくなり、続きを読まずにはいられなくなる。
ここまでのシリーズ7作どころか、S&Mシリーズ全10作が伏線になっている可能性が見えてきた。
noteでは同じ作者の作品ばかりを続けて紹介しない、というポリシーの元に運営してきたのだが、そのマイルールを捻じ曲げてでも、次回作にあたる「朽ちる散る落ちる」を読みたいと思わせる力を持った1冊。
シリーズの中でも薄くて読みやすいのが、またズルい。



総評(ネタバレ注意)


そもそも、ミステリィとしては評価が難しい作品なのかもしれない。
館モノに近い、ヘンテコな建造物が舞台になっているのだけれど、特殊性が強すぎて脳内に地図が描けない。
そして、その奇怪な構造がトリックにも活かされていなかった気もする。
せめて、イメージ図がほしかったかな。
理系脳だったら理解できたのだろうか。

また、フーダニットについても、"見ていた"という身も蓋もない解決。
信用できない語り部も、ここまでくれば清々しい。
エンジェル・マヌーヴァが出てくる時点で、保呂草が何かしているのは予測できるものの、ロジックを放棄したという点で斬新だった。
更には仕事を終えた保呂草が退場してしまうため、犯人が最後にどうなったのかが描かれない。
密室トリックについては、"専門家"である萌絵がしっかりと解説してくれるので採算は合うのかもしれないが、とにもかくにも前衛的。
賛否両論ありそうな結末になったのでは。

もっとも、その不完全燃焼感を一気に吹き飛ばすのが、エピローグでの紅子と保呂草のやりとり。
本編に登場しないにも関わらず、大きなインパクトを残してしまうのがいかにも紅子なのだが、ラストシーンで新たに生じる謎が、とてつもない余韻を残していく。
保呂草が引き下がるレベルの彼女と萌絵の関係。
色々と考察が滾る部分で、考えれば考えるほど心拍数が高まっていく。

既に答えが出ているシリーズに対して考察も何もないのは理解しつつ、冒頭にある"私の古い友人"という言い回しや、エンジェル・マヌーヴァ絡みの案件であるのに各務が名前すら出てこないことを踏まえれば、これは時系列的に未来の話なのだろうな、と。
VシリーズはS&Mシリーズに比べて舞台設定がレトロな気がしていたし、それでしっくりくる部分はある。
そうすると、彼のフルネームが登場しないことに伏線の匂いがしてくるよな、と仮説は立てているが、残り2冊、ここからシリーズ完結への加速度が上がっていくことは確実。
ネタバレしてしまう前に読んでしまわないと。

#読書感想文







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