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#自由詩

35ミリ

きっと誰でもいいのだろう
嘔吐しきれなかった憂鬱を
一緒に噛みしめてくれるのなら
きっと誰でもいいのだろう
優しく溢れる陰鬱を
一緒に舐めあってくれるのなら

苦し紛れで歩みを続けて
鋭く虚栄をまき散らす
さすような冷雨に似た黒髪
永久凍土のなれの果て
君と僕は同じだね
なんて言ったら怒るかな

どこ吹く風で歩みを続けて
漂う虚構に身を任せる
酔ったまなこで見つめる街は
いつか観た35ミリの淡い夢

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夕立日記

子供のころに戻ったみたいなんだ
いい思い出なんてないはずなのに
花火の煙とシロップと
柔軟剤とシャンプーと
汗にぬれた後れ毛と
子供のころに戻ったみたいなんだ
いい思い出なんてないはずなのに

君が子供のうちに殺しておくべきだったかな
殺して食べちゃえばよかったかな
私の手を引く後ろ姿は変わらないはずなのにね
おいてかないでって泣くのはみっともないから
せめて後ろで束ねたその髪に
触れてるくらいは

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機械人形の贖罪

錯雑としたおもちゃ箱をひっくり返したような町並みを抜け、砂浜に出た。乳白色の月明かりが照らすのっぺりとした海面。緩やかな波が慎ましく白浜を濡らす。高密度のかき氷みたいな砂の上を歩くたび、ぎゅっ、ぎゅっと音がした。侘しさすら感じなくなった僕は、海と浜の境界をおぼつかない足取りで進む。遠くにぼんやりとうかぶ小さな漁港は心許ない灯りのもと、ぽっかりとあけた口を静かな海に向けていた。随分まえに通り過ぎた居

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三千世界の私を殺して

海辺を逍遥している時だった。久しぶりに匂いを感じた。日焼け止めと、乾いた塩の香り。それが嬉しくて、十一個目のピアスを外して飲み下した。月のない星空。真っ暗な砂浜。数メートル先にぼんやりと佇む影を見た。K君の幽霊だと思った。月世界に行ってしまったK君を想い、もう少しでコンバースに触れる距離にうち寄せる波に一歩足を踏み入れた。海は海であることを強要されていた。私であろうとしたゆえに味わった苦しみを思い

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質量

その張りつめた君の魅力が
どこから来たのか知ってるよ
たらふく飲みすぎた泥水は
飽和点なんかとっくにこえて
君のバランスを崩すわけだけど
ぷっつり糸が切れる前の
最期の痙攣が伝わって
背筋を伝う憎悪の甘みと
奈落の吐息で身罷る快感
舌でころがし脳汁すすって
同族嫌悪でしめつける
裏腹の優しさと
滑らかな憎しみを
今日も非生産的に抱きしめようか

かじりとった憐れみの
果汁がしたたり鎖骨を濡らす

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マシュマロの町

ここに来て得たのは退屈だった
認めたくはないけれど
きっと張り合いがなくなったんだ
今の僕は死んでいる
殺される直前ほど
生きたいって思うのは
やっぱり当たり前のことみたいで
甘い香りが一面漂う
マシュマロみたいなこの町は
僕の気力を奪うだけ

排水溝に飛び込めばいい
淵めがけて飛び込めばいい

でも今の僕には
願うだけで何もできやしない
最低限の興味すらも
最低限の気力すらも
マシュマロみたいな

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羅刹

羅刹になりきり不幸を喰らう
どうせ有限その他大勢
はき違えの個性で優劣つけようと
無我夢中で貪り尽くし
嚥下し消化し血肉にし
覚悟もないのに踏み入れた

ぬかるみ冷たく腐臭を放ち
気づいた時には空まで覆った
汚泥の天井光は届かず
目隠しされた百鬼夜行が
本能のままに踊り狂う
求め続けた退廃と
広げられた空洞で
羅刹になりきり不幸を喰らう

見知らぬ苦悩は羨望し
馴染んだ苦悩は忌み嫌う
羅刹になりき

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ペンシル少女

散り散りにはじけた私を集めて
君の体を作ってみたよ
足の長さがずれちゃったけど
意外とうまく笑えたよ

お腹の中が空っぽで困ってるんだ
臓器はさすがに腐っちゃって
お腹に戻す気になれなくて
君の可愛がってたみーちゃんを
代わりに入れてみたんだけど
爪とぎしないと気がすまないみたいで
そのたびお腹のつなぎ目が
ほつれて破れて困ってます

右の手首に大きな瞳
左の手首はまっさらで
やっぱりかわいそうに

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いつかの夜

傷口から溢れる優しさを
必死で舐めとろうとした君と
傷口から溢れる優しさに
必死で夢を見出そうとした僕は
世界の隅っこの湿気だらけの部屋の中
お互いの憂愁を天秤にかけ
危うい綱渡りに身をやつした

背負った重みの優劣を
比べる必要はなかったけれど
脆くて頼りない砂の城を
なんとか守りぬけたのは
比べて蔑み同情し
絡んでもつれてこじらせて
憤怒と慈愛と嫌悪なんかをないまぜにした
強固な城壁を築くこと

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深く、深く

壊れるあなたを見てみたい
パンケーキみたいな甘い香りに包まれて
小さな幸せを謙虚に永続させて
パンケーキの油みたいにじわじわと
あなたの脳に侵蝕するそれは
脳のシワをいつのまにか溶かしちゃって
あなたは惰性の幸福を
それとしらずに食み続けるんだ
だからあなたに壊れてほしい
何十年もどんよりと輝き続けるよりも
一日だけ目も眩むほどの輝きを
蛍の光が綺麗なのって
きっとそういうことなんじゃないかな

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天国

天国

霧の中にあの子が立ってた
ヘッドライトが頼りなくて見えなかったんだってさ
薬をやったのは私じゃないって!
頭が割れるほど痛いのに
どう誤魔化せってんだちくしょう

これが最後のチャンスだよ
はっぱかけてるわけじゃいよ
26なんて、ただのクソジジイじゃない
肺が腐って脳が爛れる
あの子はどこかへ行っちまいましたの
ね、どうか?

あの子の顔が思い出せない
指先が匂うね

ねえママ、クソと間違えて僕を

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消化不良のもどきちゃん

名前くらいしか知らない君の
後ろ姿が可愛くて
話しかけてみようかと
口を開いてみるけれど
開いたそこから漏れるのは
いつまでたってもため息ばかり

おしゃべりなあの子の舌を食べたら
君と上手にお話できるかな
自信満々なあの子の瞳を食べたら
君と上手に目が合わせられるかな
おしゃれなあの子の足を食べたら
君の目をひくことができるかな
小説好きのあの子の脳みそ食べたなら
君と気の利いた会話の一つでもで

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日陰生まれすみっこ育ち

すでに来世に期待しちゃってる
コールド確定消化試合
見込みがないなら見られてもない
そんならさっさと踊ろうか
開き直ってとんたたた

子宮の中からこんにちは
すでに10点ビハインド
どうしてこんなになっちゃったかな
コウノトリさんの方向感覚
狂ってふらふら無差別爆撃
そうだそうに違いない
自意識過剰で被害者意識
棚に上げすぎフェードアウト
どうせ人間八十年
科学者さんたちちょっと待ってね
日々精進

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命儚き笑えや乙女

恋に恋する十四歳
臓器に恋する殺人狂
二人はプリキラ正義のヒロイン
今日も俗世にふれまわる
人生やっぱり諸行無常
狂喜乱舞の一夜の悪夢
どうせ悪夢だすべからく
歌えや踊れや細胞諸君
さあさあお席にお座りなさい
間もなく上映始まります
マナー違反はさらし首
良い子のみんなはおめめをひん剥け
大人たちはご退出
まもなくまもなく本編へ
あかりが消えたら逃げられない

私は恋を、したいのです
純粋潔癖神経

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