見出し画像

詩『ドッペルゲンガーの掟』

作:悠冴紀

互いの存在を知りながらも
近付きすぎてはならない間柄がある

一つの世界には 一人の自分
同時に二人は存在できない

おきてを軽んじてはならない

もう一人の発見に歓喜しても
会うことを望むのは禁忌に当たる
会っては互いに破滅する

何度かの失敗体験をもとに
私は距離の取り方を学習した

突き放したのは嫌悪ではない
君がもう一人の私だからだ

残念だが私たちは
最も慎重に距離を取らねばならない間柄

安易に差し伸べる手は
むしろ無責任なエゴでしかない

君が不調続きで心細いときでさえ
私は君には近付けない

君が真に求めているのは
他の誰でもなく君自身だ
寸分違わぬ一致率で
自分とピタリと合う相手

そんな人物しか許容できないというのなら
それは形を変えた自己愛だ
自分以外の何者をも愛せないと
君のその言動が物語っている

否、本当は
もう少し深いところまで見えているよ
君が分身を欲するのは
自分自身すら愛せないからだと

他者を通して
一心に自分だけを見つめる行為

心の飢餓きが
君にそう強いる

だがそれではもはや
君が加害者だ

君にとって
他者は単なる器でしかない
都合良く自分を受け止める腕が欲しいだけ

結局そこに映るのは
君自身ただ一人

相手は君といる間中
死人のような気分になるだろう

その果てにあるのは
泥沼と破滅のみ

私のように境遇の近い相手を選んでも
結果はやはり変わらない
むしろ最悪の末路に至るだろう

掟はのろいのごとくに絶対だ

破るとどうなるかを知っている
君よりも一足先に見てきたから

自分をもう一人求めてはならない
一人にすべてを求めてはならない

これが私の経験則

君が真に探し求めるべきは
君とは異なる文字通りの他人
自己という強固な殻の外側に
尊重しながらも連れ出してくれる別の誰かだ

君にとってのそれは
私ではない
私ではあまりに近すぎる

暗闇の中に見る一筋の光は
時に美化され 過大視される

見誤らないで

私は君が思うほど安全な相手ではない
私たちの間柄では そうなってしまう

私は君のドッペルゲンガー

遠くで見守ることは出来るけど
距離を詰めると身を滅ぼし合う

誰より傷付けたくない相手だからこそ
そのリスクを知ってもらいたかった
私よりも君の方が
本当はずっとマシな人間であることも

同じように見えて
同じではない存在

そのものなのに
もう一人いて
出会うことは
許されない

君にはないものを得たこんな私の今が
君にはさぞ羨ましく映るのだろう

大して何も成し遂げてはいないが
君が理想と見なすのなら
これはおそらく君の未来像

私にできて
君にできない理由などない
今の君はかつての私
あまりにそのものなのだから

かたくなによろいまとう気持ちも理解できる
当然のことだ

今の君には
もはや自分自身以外に何もない
だから全力で護ろうとする
手元に残された唯一の所有物である自我を

私もそうだった
闇が友で
自我の檻が唯一にして最後のとりで

だがそれすら粉々に粉砕され
ついには無に帰したとき
初めて道が見えるだろう
自分には無縁のものと思われていた
想定外にして未踏の道が

そこで初めて誤算を知る

自分自身のことさえも
実は知り尽くしていなかったと

君に余裕がないことはわかっている
見えもしない先々の希望論よりも
今この場で握り締める手が欲しいのだと

私がこんな人間でさえなければ
何の気兼ねもなく君を訪ねたと思う

できれば友になりたかった
君に害をなさない安心感のある友に

だが現実に私たちはコインの表裏
怖いほどに似すぎている

私は君に近付けない
今の距離感でしか付き合えない

ただ いつの日か
君は私の言葉の意味を悟るだろう
気持ちの上では受け入れがたくとも
やがて誰よりも深く理解する

私に対して抱く「何故?」にも
ちゃんと答えが出るはずだ

その頃には きっと
君は今の私のようになっている

それが吉か凶かは
君自身が決めること

君に拒まれでもしない限り
私はこれからも遠くで見守る

掟に縛られた者同士
これがせめてもの交流だから

私は君のドッペルゲンガー
鏡の向こう側の住人だ

**********

※2022年6月の作品

note以前にやっていたSNSで接点を得た、あまりにも生い立ちに共通点の多い人物のことを振り返って書いた一作。お一人様を好む私と違って、向こうは孤独を嫌い、人との繋がりに飢え、直接会いたがっているようでしたが、あえてリアルに会うことはなく、SNSのみの繋がりでした。

注)シェア・拡散は歓迎します。ただし、私の作品を一部でも引用・転載する場合は、「詩『ドッペルゲンガーの掟(悠冴紀作)』より」と明記するか、リンクを貼るなどして、著作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように配信・公開するのは、著作権の侵害に当たります!

※2022年刊行の詩集はこちら▼
(本作も収録されています)

📚電子書籍はこちら


※私こと悠冴紀のプロフィール代わりの記事はこちら▼

※ 私の他の詩作品をご覧いただけるマガジンはこちら▼ (私自身の変化・成長にともなって、作風も大きく変化してきているので、製作年代ごと三期に分けてまとめています。
📓 詩集A(主に十代の頃の作品群)
📓 詩集B(主に二十代の頃の作品群)
📓 詩集C(三十代~現在にかけての最新の作品群)

※ 小説家 悠冴紀の公式ホームページはこちら▼


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?