羽田さえ

ライター。 日本の古典文学のゆるめな解釈、旅先で自作した短歌。そのほか街や家について。…

羽田さえ

ライター。 日本の古典文学のゆるめな解釈、旅先で自作した短歌。そのほか街や家について。 研究者ではなくただの学部卒(国文学専攻)、好き勝手に書いております。だいたい毎週金曜日に更新します。

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  • 百人一首

  • 旅の短歌

    旅先で詠んだ自作の短歌です。

  • 街と家と人

    住んだことのある街、旅先で出会った街、何だか好きな街について。あるいは以前働いていた不動産デベロッパーでの仕事のことなど。

  • 万葉集

  • 枕草子

    清少納言の「枕草子」。 岩波文庫版をベースにしています。

最近の記事

【百人一首】(思ひわび/八二・道因法師)

【解釈】出典は「千載集」恋三 八一七。 作者の道因法師とは、藤原敦頼(ふじわらのあつより)のこと。十一世紀終わりから十二世紀にかけての人です。 当代きっての歌人で、千載集にはこの歌だけでなく全部で20首もおさめられています。 また平安朝の人としては相当な長生きで、90歳頃まで歌合せに出向いていたとされています。出家も80歳を過ぎてからなので、貴族として過ごした時間が長かったようです。 長く叶わぬ恋を詠んだ歌。若い頃からずっと思い続けた相手がいたのでしょうか。 制御できな

    • 【百人一首】(ほととぎす/八一・後徳大寺左大臣)

      【解釈】 雅な歌ですね。この雰囲気、何だかとても好きです。 出典は「千載集」夏 一六一。 作者の後徳大寺左大臣とは、藤原実定(ふじわらのさねただ)のこと。藤原定家のいとこにあたる人物なのだそうです。 ホトトギスは夏の訪れを告げる鳥で、平安貴族たちはその第一声を聴くことにとても熱心だったようです。 作者もそうしてホトトギスが鳴くのを心待ちにしていたのかな。 春の終わりのある日、明け方にふとホトトギスの声を聞いて振り向いた。それなのに、見えたのはただ有明の月のみ。 有明

      • 【百人一首】(長からむ/八〇・待賢門院堀河)

        【解釈】大人の恋の歌やなあ、とローティーンの頃から心惹かれる歌でした。 お泊まりして別れた後の恋人へ贈る、いわゆる後朝(きぬぎぬ)の歌です。 出典は「千載集」恋三 八〇一。 作者は待賢門院堀河(たいけんもんいんほりかわ)。 平安後期の人ですが生没年は未詳です。中古三十六歌仙、女房三十六歌仙のひとりで、西行とも親交があったようです。 恋しい人と過ごした翌朝、ひとりでまだ寝床にいる女。ほんの少し気だるくて、淋しくてちょっと不安で、そんな気持ちがよく現れています。官能的なのだ

        • 【百人一首】(秋風に/七九・左京大夫顕輔)

          【解釈】 月のチラリズムを詠んだ歌です。難解な表現はないので、わりとそのまま理解できます。 出典は「新古今集」秋上 四一三。 作者は左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)。藤原顕輔です。 六条藤家の歌道家であり「詞花集」の選者になるなど、和歌に長けた人だったようです。 まん丸な名月が夜空にぽっかりと浮かんでいる姿ではなく、雲の隙間からふと顔をのぞかせた月の光の、一瞬の美しさを愛でる。 いかにも平安貴族らしい描写、という気もします。またすぐに隠れてしまうからこその光の

        【百人一首】(思ひわび/八二・道因法師)

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        【街と家と人】北海道神宮例祭(札幌まつり)のこと

        【万葉集】天の川(巻八・一五一八 山上憶良)

        【旅の短歌】奥武島・観音堂の猫(沖縄)

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          【旅の短歌】木次線・奥出雲おろち号(島根県)

          ものすごく久しぶりに島根県に行ってきました。 目的のひとつがJR木次(きすき)線を走るトロッコ列車「奥出雲おろち号」に乗ること。木次線は島根県の宍道駅から広島県の備後落合までを結ぶ81.9キロの路線で、途中かなりの山あいを走ります。 あまりの急勾配のためまっすぐ進めず、途中で二度も走る向きを変えながらジグザグに山を登る「三段式スイッチバック」も、この路線の名物です。 渓谷と棚田の間を縫うように進んでいく列車。 ヤマタノオロチ神話の生まれた地を走るから「おろち号」という

          【旅の短歌】木次線・奥出雲おろち号(島根県)

          【街と家と人】石川県七尾市・大呑(おおのみ)

          取材のために出かけた場所はいくつもあるけれど、何とも言葉で説明しがたい土地、というのにたまに出くわす。ライター業なのに言葉が追いつかないだなんて本来とってもダメなことなのだけれど、そういう場所は確実に存在する。 今日のテーマはそのひとつ、石川県七尾市の大呑(おおのみ)地区。 私は海のない岐阜県で育った。 それでいて両親は温泉とカニが大好きだったから、子供の頃の家族旅行は福井や石川などの北陸地方へ出かけることが多かった。 冬の日本海はいつも荒々しくて灰色で、冷たい北風と雪

          【街と家と人】石川県七尾市・大呑(おおのみ)

          【百人一首】(淡路島/七八・源兼昌)

          【解釈】 出典は「金葉集」冬・二八八。 詞書には「関路千鳥(せきじのちどり)といへることを詠める」とあります。 作者は源兼昌(みなもとのかねまさ)。12世紀初頭ごろの人です。 江戸時代には契沖が「ほどほどの歌人でしかない」とバッサリ切り捨てていたりもしますが、藤原定家は少なくともこの歌についてはとても高く評価していたようです。 個人的にはけっこう好きな歌です。 冬の海のうらさびしい、冷たい空気が閉じ込められているような気がするし、千鳥の鳴き声というのも郷愁をそそりま

          【百人一首】(淡路島/七八・源兼昌)

          【百人一首】(瀬をはやみ/七七・崇徳院)

          【解釈】出典は「詞花集」恋上・二二九 。 作者は崇徳院(すとくいん)。12世紀半ばを生き、45歳で世を去りました。 題知らず、とされていますが、状況説明がなくても充分に分かる歌です。 崇徳院は鳥羽上皇から強引に譲位させられ、保元の乱では後白河天皇に敗れて讃岐に流された不遇の人。怨霊伝説もあり、無念さや強い恨みつらみを抱えていたというイメージもあります。 そのためこれは恋の歌ではなく、いつか返り咲きたいという強い思いを詠んだものと見る向きもあるようですね。 個人的には

          【百人一首】(瀬をはやみ/七七・崇徳院)

          【万葉集】玉かきる(巻八・一五二六 山上憶良)

          【解釈】 今日は7月7日、七夕です。万葉集にたくさんある七夕の歌を取り上げてみましょう。 なかなかに万葉の人たちの心を捉えるテーマだったようです。万葉集の中には130首以上もの七夕の歌がおさめられています。多い。 この歌の作者は山上憶良。 左注によれば、天平2(729)年の7月8日、大伴旅人の家で開かれた宴会の席で詠まれた歌なのだそうです。 七夕の歌ではありますが、織女と牽牛のどちらの立場から詠んだものかと考えると難しいところです。あえてどちら側でも解釈できるような表現

          【万葉集】玉かきる(巻八・一五二六 山上憶良)

          【百人一首】(わたの原/七六 ・法性寺入道前関白太政大臣)

          【解釈】 青い海の美しさが三十一文字いっぱいにあふれた、陽キャな歌です。 「太陽の季節」系の世界観。ちょっと例えが古いかな。 出典は「詞花集」雑下 三八〇。 詞書によると、崇徳院の前で行われた歌合せで「海上遠望」というお題のもとに詠まれた歌です。 作者は法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)と何やら長い名前ですが、藤原忠通(ふじわらの・ただみち)のこと。12世紀前半を生きた人です。 ダイナミックで明るくて迷いがない。スケール感

          【百人一首】(わたの原/七六 ・法性寺入道前関白太政大臣)

          【街と家と人】北海道神宮例祭(札幌まつり)のこと

          札幌で、6月14日から16日まで北海道神宮例祭(札幌まつり)が開催された。100年以上前に始まったもので、札幌ではとてつもなく歴史ある神事であり、大切な祭なのだという。 祭の初日、ローカルニュースで札幌まつりの開幕を報じていた。なぜか北海道神宮から地下鉄を乗り継いで5駅も離れた中島公園にたくさんの屋台が出て、ものすごくにぎわっている。不思議な光景だった。 札幌観光協会のサイトでは、北海道神宮例祭について という記述がある。 なぜ神宮から離れた中島公園に屋台が出てにぎわ

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          【百人一首】(ちぎりおきし/七五 ・藤原基俊)

          【解釈】大切な約束をあっさりスルーされて恨みごとが止まらない。そんな歌です。 出典は「千載集」雑上 一〇二三。 作者は藤原基俊(ふじわらの・もととし)。11世紀後半ごろの人で、七四の歌を詠んだ源俊頼と並ぶ歌の名手でした。 何となくはかない恋の歌かと思っていたのですが、違うようです。 一定の知識がないとさっぱり分からないタイプの作品ですね。 藤原基俊の息子は、奈良の興福寺の僧侶でした。 興福寺で毎年10月に行われる維摩(ゆいま)講に、講師として息子を取り立ててもらおうと思

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          【街と家と人】2023年の札幌という街

          札幌駅に直結するJRタワーにはT38という展望室があって、高層ビルの38階から360度、ぐるりと街を眺めることができる。 新しいオフィスビルが立ち並ぶ駅前から、北海道大学の緑、大倉山ジャンプ台、札幌ドーム。ゆるやかなカーブを描くJ R北海道の線路。一戸建てが連なる住宅街の向こうには、石狩湾や手稲山までよく見わたせる。まっすぐに伸びる道路沿いに、アクセントのようにタワーマンションが建っていることもある。  観光客に混ざって、ここから見る風景が好きだ。ずっと眺めていても全然飽

          【街と家と人】2023年の札幌という街

          【百人一首】(うかりける/七四 ・源俊頼朝臣)

          【解釈】片思いを嘆いた歌です。 出典は「千載集」恋二・七〇七。 歌合せの席で「いのれどもあはぬ恋」というお題に沿って詠まれたものとされています。 作者は源俊頼(みなもとのとしより)。音楽の才に秀でる一方で当代きっての歌人でもあり、百人一首の選者である藤原定家の父・俊成にも大きな影響を与えたとされる人物です。 「はつせ」は「初瀬」と思いを「果つ」の掛け言葉と見る向きもありますが、それほど難解な技巧や単語はありません。 初瀬は現在の奈良県桜井市にある長谷寺のこと。古くから

          【百人一首】(うかりける/七四 ・源俊頼朝臣)

          【百人一首】(高砂の/七三・前権中納言匡房)

          【解釈】 出典は「後拾遺集」春 一二〇。 宴会の席で、遙望山桜という題で詠まれたものです。 作者である前権中納言匡房とは大江匡房(おおえのまさふさ)のこと。 大江家は学者の家系で、匡房は2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13 人」に登場した大江広元の曾祖父にあたります。 ちなみに日本史に疎いので、大江広元という人を知ったのはこのドラマでした。源頼朝についで大江広元とは、北条政子は京都育ちのインテリが好みだったのかしらとほほえましく見ておりました。気持ちちょっと分かります。

          【百人一首】(高砂の/七三・前権中納言匡房)

          【百人一首】(音に聞く/七二 ・祐子内親王家紀伊)

          【解釈】さらりと軽い恋の歌です。 「たかしの浜」というのは現在でいう堺市から高石市あたりだとされています。南海電鉄の「高石浜」という駅もありますね。 作者の祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)。女房三十六歌仙の1人です。 出典は「金葉集」恋下 469。 恋の歌ですが、ガチの恋愛関係の中で詠まれたものではありません。 「堀河院艶書合」という宮中の歌合せの席での作です。 先に当世きってのモテる男、藤原俊忠(ふじわらのとしただ)が紀伊へ歌を贈ります。 心に秘めた

          【百人一首】(音に聞く/七二 ・祐子内親王家紀伊)