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【百人一首】(世の中よ/八三・皇太后宮大夫俊成)

世の中よみちこそなけれおもひ入る山のおくにも鹿ぞなくなる
(八三・皇太后宮大夫俊成)

【解釈】

この世の悲しみ、苦しみから逃れる道などないのだろう。ひたすらに思いつめて分け入った山奥でも、ものさびしく鹿が鳴くのをひとりで聞いている。

出典は千載集 雑中 一一四八。

作者の皇太后宮大夫俊成とは、平安末期から鎌倉初期を生き、当代きっての歌人とされた藤原俊成(ふじわらの・としなり)のこと。
平家物語では、歌の弟子であった薩摩守・平忠度との涙の別れで知られます。小倉百人一首の撰者、藤原定家の父でもあります。

この歌は27歳の時に鹿をテーマに詠まれたもの。
友人である西行と同じように、自分も出家しようかと悩んで山に入りながら、ふっきれた瞬間を詠んだとも言われています。

叙情的だけど静かな山奥の風景が目に浮かぶような、そして遠くで鳴く鹿の声が聞こえてくるような、しっとりと美しい歌です。

猿丸太夫の「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ秋はかなしき」を思い起こさせる表現ですね。

平安時代も後期、不穏な世の中を生きる貴族の心情ってどんなものだったのかしら、と思います。

とはいえ俊成は1114年生まれで1204年没とされているので、90歳没。20代でこんなにくよくよした重めの歌を詠んだ割には、めちゃめちゃ長生きしています。

案外この世を生きるのも、悪くなかったのかな。
この歌を自ら「千載集」に納めていることからも、お気に入りの一首だったのかもしれません。

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