マガジンのカバー画像

枕草子

15
清少納言の「枕草子」。 岩波文庫版をベースにしています。
運営しているクリエイター

記事一覧

【枕草子】頃は正月(第二段)

【枕草子】頃は正月(第二段)

【解釈】「春はあけぼの」で始まる第一段が超絶有名な枕草子ですが、次の段に何が書かれているのかはそれほど知られていないように思います。
(ちなみにこの後の第三段以降には、1月、3月、4月について詳しい描写があります。)

いつがいいかな、と書き出しておきながら、まあ1年中全部いいよね、とざっくりまとめる思いきりの良さがすごいです。
2月と6月、そして10月がさらっとスルーされていて、ちょっとかわいそ

もっとみる
【枕草子】七月ばかりに(第四十一段)

【枕草子】七月ばかりに(第四十一段)

【解釈】難解な単語はなく、ざっくり読んでも充分に意味が取れる段です。

7月頃とふんわり書かれているけれど、旧暦だし、時期には幅がありそうです。今で言う9月の半ば頃だったりするのかな。

暑い暑い京都の夏でも、9月の下旬ともなればすっかり涼しくなっていたような気がします。四半世紀前の記憶だけれど、10月の秋学期が始まる頃には長袖必須だったような。

そして札幌に住むようになって、旧暦でなく新暦の7

もっとみる
【枕草子】あてなるもの(第四十二段)

【枕草子】あてなるもの(第四十二段)

【解釈】あてなるもの、の段。
「あてなり」は漢字を当てるなら「貴なり」。高貴なもの、というような意味です。

清少納言はどのようなものに高貴さを感じるのか。

何となく透明感があってエレガントなものが並んでいます。
色合いもやさしげなものが多いかな。

とはいえ、繊細でありつつも決して弱々しいわけではないようです。
どこか身が引きしまるような、クリアな雰囲気のあるものが良いのかしら。

美形でかわ

もっとみる
【枕草子】雪のいと高う降りたるを(第二八〇段)

【枕草子】雪のいと高う降りたるを(第二八〇段)

【解釈】今年はずいぶん雪の多い冬だと言われていますね。

枕草子、「香炉峰の雪」と呼ばれている段です。
元ネタは白楽天の七言律詩「香炉峰下新卜山居」で

香 炉 峰 雪 撥 簾 看(香炉峰の雪は、簾をかかげて見る)

というフレーズです。
雪が見たかった中宮定子、寒さのためか女房たちは雨戸ごと閉めきっている。開けてみてと言わず、清少納言に向かって「香炉峰の雪は?」とネタ振りをしてみせた。利発で気品

もっとみる
【枕草子】降るものは雪(二五〇段)

【枕草子】降るものは雪(二五〇段)

【解釈】

降るものは雪。美しい言い回しです。
現代語に訳す必要ゼロの完成度、そして普遍性であると思います。

枕草子には、冬の景色も時おり出てきます。
中宮定子とのやりとりで知られる「香炉峰の雪」(二八〇段)も真冬の話ですね。

第一段から、冬は朝早くにめっちゃ寒くて雪とか降ってると風情があっていいと言っているくらいだし、清少納言は寒さに強い人だったのでしょうか。

雪とあられはいいけれど、みぞ

もっとみる
【枕草子】おほきにてよきもの

【枕草子】おほきにてよきもの

おほきにてよきもの。家。餌袋。法師。くだもの。牛。
松の木。硯の墨。男の目のほそきは女びたり。
また、金椀(かなまり)のやうならんもおそろし。
火桶。酸漿(ほほづき)。山吹の花。櫻の花びら。

【解釈】

大きい方がいいもの。家。お弁当袋。お坊さん。果物。牛。
松の木。すずりの墨。男の人の目が細いのは女っぽくてあんまり好きじゃない。でも金椀みたいに巨大でビカビカしてまん丸なのも風情がないしちょっと

もっとみる
【枕草子】胸つぶるるもの

【枕草子】胸つぶるるもの

胸つぶるるもの。競馬見る。元結よる。
親などの心地あしとて、例ならぬけしきなる。
まして、世の中などさわがしと聞ゆるころは、よろづのことおぼえず。
また、ものいはぬちごの泣き入りて、乳も飲まず、乳母のいだくにもやまでひさしき。
例の所ならぬ所にて、ことにまだいちじるからぬ人の聲聞きつけたるはことわり、こと人などのそのうへなどいふにも、まづこそつぶるれ。
いみじうにくき人の来たるにも。またつぶる。

もっとみる
【枕草子】過ぎにし方恋しきもの

【枕草子】過ぎにし方恋しきもの

【現代語訳】

過ぎてしまったことが恋しく思い出されるもの。
枯れた葵の葉。雛人形の道具。二藍や葡萄染めなどの布切れが、本の間などに挟まっているのを見つけた時。
また、もらった時に心を動かされた人の手紙を、雨が降ってすることがない日などに探し出したもの。去年の扇子。

【意訳】

過ぎ去った昔のことを、恋しく思い起こさせるもの。
葵祭の飾りつけに使った、枯れた葵の葉。子供の頃に遊んだ雛人形の道具。

もっとみる
【枕草子】遠くて近きもの

【枕草子】遠くて近きもの

【現代語訳】

遠くて近いもの。極楽。船旅。男女の仲。

【意訳】

遠くもあり、近くもあるもの。そして遠いようでいて、意外なほど近いもの。極楽浄土。船で行く旅路。男と女の仲。

【雑感】

はるかかなたにあるという極楽浄土だけれど、死は近くにある。心細く、ずいぶん遠く感じられた船の旅も、意外なほどあっという間。男女の仲は、ふとしたはずみに急激に近づく。離れたかと思えば、ふたたび重なることもある。

もっとみる
【枕草子】はしたなきもの

【枕草子】はしたなきもの

【現代語訳】

きまりの悪いもの。
別の人を呼んだのに、自分かと思って出てしまった時。ものなどを渡そうとした場合は特に。
なにげなく誰かのことを噂して悪く言っていたら、幼い子供が聞いていて、その人がいる時に言い出した時。
悲しいことを人が話しはじめて泣き出したりして、本当に悲しいことだと聞きながら涙が出てこない時。とても体裁が悪い。泣き顔を作って悲しげにしてみても、まったく意味がない。
すばらしい

もっとみる
【枕草子】こころときめきするもの

【枕草子】こころときめきするもの

【現代語訳】

胸がどきどきするもの。
スズメの子を飼う。赤ちゃんを遊ばせているところの前を通る。
良いお香を焚いて一人で寝ている時。唐の鏡で、少し暗いのを見た時。
貴公子が牛車を止めて、何かを尋ねている。
髪を洗い化粧をして、良い香りを染み込ませた着物を着る。
特に見る人がいなくても、とても良い気持ち。人を待っている夜。雨の音や風が吹き荒ぶのも、驚いてしまう。

【意訳】

胸がどぎまぎするもの

もっとみる
【枕草子】にくきもの(冒頭より一部のみ)

【枕草子】にくきもの(冒頭より一部のみ)

【現代語訳】

にくたらしいもの。急用がある時に来て長居する客。気を遣わなくて良い相手ならば「また後で」と言えるけれど、目上の人であるとそうもいかず、とても癪にさわる。

硯に髪の毛が入ってすられたもの。墨の中に石があって、キシキシと音を立てるもの。

急に具合が悪くなった人がいて、修験者を呼んだのにいつもの所にはいない。他の場所などを尋ね歩いて、長い間とても待ち遠しい気持ちでいたところ、ようやく

もっとみる
【枕草子】月のいとあかきに

【枕草子】月のいとあかきに

【現代語訳】

月がたいそう明るい夜に川を渡ると、牛が歩くのにつれて水晶などが砕けたように水が飛び散るのは趣がある。

【意訳】

月がとっても明るい夜に、牛車で川を渡る。牛が水の中を歩く。月の光を受けて、水晶のかけらでも飛び散るようにきらきらと水しぶきが上がる。素敵だなあ、と思う。

【雑感】

枕草子の中に時おり現れる、たった1行の段。

そんな短い一文の中に、あざやかに切り取られた世界の美し

もっとみる
【枕草子】うつくしきもの

【枕草子】うつくしきもの

【現代語訳】

かわいらしいもの。

瓜に描いた子供の顔。雀の子に向かって鳴き真似をすると跳ねて来る様子。2歳か3歳くらいの幼な子が急いでハイハイして来る道に、とても小さな塵があるのを目ざとく見つけて、たいそう可愛らしい指にとって大人に見せる。とてもかわいらしい。髪型を尼そぎにしている子供が、目に前髪がかかっているのにかきあげもせず、頭を斜めにしてものを見ている様子もかわいい。

そう大きくない殿

もっとみる