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【百人一首】(よもすがら/八五・俊恵法師)

よもすがら物思ふ(比)ころは明(あけ)やらぬ閨(ねや)のひまさへつれなかりけり
(八五・俊恵法師)

【解釈】

夜通し恋しい人を思っていて眠れない。早く朝になればいいのに、さっぱり夜が明けてくれない。恋しい人ばかりか、少しも明るくならない寝室の隙間ですら、私にはつれなくするのだ。

出典は千載集 恋二 七六五。
「恋の歌とてよめる」というわりとそのままな詞書がついていますが、作者の実体験ではなく、女性の立場に立って詠まれた歌のようです。

作者は俊恵(しゅんえ)法師。「しゅんけい」でも「としえ」でもなく、重箱読みで「しゅんえ」です。不思議な語感が美しいですね。

生きた時代は平安末期、方丈記の作者として知られる鴨長明の師匠に当たる人です。歌の才にたけていて、歌詠みが集まるサロンを持っていたようです。東大寺の僧侶だったとも。

さて、歌の中身。
江戸時代などの比較的新しい時代では3句を「明けやらで」とする本もあるようですが、個人的には「明けやらぬ」の方が好みかな。より雅な感じがします。

ぜんぜん会いに来てくれない、つれない相手を思って夜を明かす女。
暇をつぶす動画サービスもないし、本を読もうにもずっと明かりをつけておくのも大変だったかもしれない時代です。

連絡しようにも、LINEでもできれば良いけれど、せいぜい文を送るくらいのもの。既読かどうかも分からない。
恋しい人と一緒に過ごせない夜は本当にどうしようもないほど長かったことでしょう。

今は好きな人がどんなにつれなくても、何かしらで気を紛らわすことができるから幸せなのかな。何をもっても代えられないさびしさを感じる相手こそ、本当に恋しい人なのかもしれません。


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