介護の学び#7【自らの正義を疑う】
介護業界での20年近くの経験をもとに、学んだことについて投稿していきたいと思います。
今回のテーマは【自らの正義を疑う】です。
介護の仕事をしているとあらゆる場面で考えさせられることがあります。
その中の一つが”これで本当にいいのか”という自分自身の正義を疑うことです。
自分たちは何のためになぜそれを行うのか…
そのことを考えずにいると、誰にとっての何を目的(ゴール)とした、誰にとっての正義なのかがわからなくなってしまうことがあります。
正義って【正しい道理や人間行為の正しさ】でしょ?そんなの常識の範囲内で考えたらわかるんじゃないの…と思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、介護の仕事は自分の正義がわからなくなったり、迷いや困難が生じる状況が起こりやすい環境なんです。
中には「本当はこうしたいのに…」と、正しいとはわかっていてもそれが素直に実行できずに苦しんでいる、葛藤を抱える介護職もたくさんいます。
その理由は…
介護の仕事は幾つもの業務とケアを同時に行わなければならない場面の連続であり、それが断続的ではなく連続的なものです。
また、人の生活や生きることを対象とした仕事であるため、柔軟性や順応力が必要とされ、画一的な考えでは対処できません。
更には「大切な命」をお預かりするため、ミスなどの油断を許さない状況もあります。
毎日がそのような状態であり、様々な変化や対応に追われる多忙さに加えて、「命」という責任を負う仕事であるため、無意識的に正しいと思っていたことが実行出来なくなってしまったり、元々考えていた自分が持つ【正義】を見失うことが出てくるというわけです。
ではどうすれば良いのか…
それが今回のテーマとなった【自分の正義を疑う】ということです。
自分の正義を敢えて疑うことにより「本当にこれが正しいのか…」と、今実践していることが本当に正しいのかどうか、本当に相手(利用者様・家族・自分たちの職務)にとって良いのかを問いただすきっかけを作ってくれます。
介護の仕事を通して学んだ【自分の正義を疑う】こと
介護の仕事をしていると”安全”という言葉について考えさせられることが多くあります。
この安全というのは非常に難しいものです。
安全を優先すれば自由を失いかねないためです。
私が以前担当した利用者様に、高い確率で歩くと転倒(こけてしまう)する方がおられました。
家族からの要望は「転んで怪我をしたり、骨折になったりすると今以上に自宅での介護が大変になるから、絶対に歩かせないでほしい。どうせ本人はわかっていないんだから」というものでした。
その利用者様は認知症があり、理解や危険認識などの認識が大変難しい方です。
しかし、認知症があったとしてもその方には意思があり、その意思ある行動から発せられるサインを汲み取ってより良い暮らしに繋げていくのが、私たち介護職の役割の一つです。
そこにはリスクが絶対に存在し完全に歩けないようにするなど、専門職が行う介護とは到底言えないものです。
また、介護職だからといって、一瞬で思いや行動から発せられるサインを汲み取ることもできません。
そこには時間と回数が絶対に必要であり、しっかりと情報収集・分析、計画の立案、実行と評価というサイクルがなければ行えないものです。
どんなに時間をかけても、何度アプローチしても汲み取れないことだってざらにあります。
そして何より、利用者様は人でありその方の尊厳があります。
だからこそ拘束となってしまうような「絶対に歩かせない」なんてことは出来ないし、したくもないという強い思いがありたした。
私は即座にそれを伝えようとしましたが、一瞬ふと考え、やはりそのことをすぐに伝えるということはしませんでした。
かなり極端な要望ではありますが、私は家族の現在に至るまでの苦労や現状の厳しさも知っていたためです。
泣く思いでここに来たことも、そして家族様はリハビリを行って利用者様の身体を元気にして、また一緒に家で暮らしたいと思っていることも知っていました。
家族様も、家族様としての思いをもって利用者様を大切にしていきたいと考えていたんです。
だからこそ「この段階ですぐに自分の正義を言ったとて…自分は何がしたいのか?」という思いにいたったんです。
その後、時間をかけて家族様のお話を聴きました。
拘束などはしないこと、絶対に転倒を防ぐということは難しいということを渋々ご理解いただき、その日はご帰宅いただきました。
その後、複数回に分けて利用者様のご様子を伝えながら、何度も話し合い、利用者様にとってより良い生活とは何かといことを中心に、家族様の思いと自分たち介護職にできることをすり合わせていきました。
背景や見方が変われば【正義】は変わるものです。
だからこそ、時には立ち止まって自分の正義を見つめなおしたり考えること、この大切さを介護の仕事を通して学びました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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