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知らない街の誰かの物語

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2駅でさっと読み終えて、7駅分引き摺ってしまう。 夜眠りにつく前に読んで、朝まで眠れなくなるような物語を集めました。 これは、あなたの知らない誰かの物語。 *こちらは全て僕では…
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#小説

人生で一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

人生で一番最低な夜を、人生で一番好きだった人と過ごした。

21歳。冬。恋愛経験、それなり。

今からちょうど3年前、私にとっての初めてを、
どうでもよかったアイツにあげた。

処女のまま生き続けていくくらいなら、
とっとと捨ててしまった方がいっそ楽だと思ってた。

初めては、別に普通だった。
痛くもないし、気持ち良くもない、こんなことを私は、21年も気にして生きてきたのかと少しだけ馬鹿らしくなった。



大学2年の夏。大好きだった彼に振られた。
『ず

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最愛の友人が明日、結婚する

最愛の友人が明日、結婚する

なにか1つ法律が追加できるのなら
「〇〇歳になっても、1人だったら結婚しよう」
なんて気軽に口にする男を裁ける法がほしい。

そう言って、残していたコーヒーを啜った彼女は明日、結婚する。

飽き性の彼女と夢半ばのアーティスト

大阪駅の中央南口を出てすぐのところには路上アーティストの集まる場所があった。毎日のごとく夢みるアーティストの卵がその場所を訪れては数ヶ月もしないうちに消えていった。
あの夜

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お父さん。俺、男の人も好きになるんだよ。

お父さん。俺、男の人も好きになるんだよ。

人生で一番、愛した人がいた。

17歳年上。片想いだった。
中学の時の先生だった彼は、温厚な表情と、笑うとクシャッとなる目尻が印象的だった。彼は結婚していて、子供もいたけれど、そんなことで諦められる恋ならきっと、想い出にすらならなかったんだと思う。



小さい頃から「男らしく生きなさい」と言われて育ってきた。
小学校のランドセルの色がどうしても「赤がいい」と泣きじゃくった時は「男なんだから」と

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今夜は1人で踊ろう

今夜は1人で踊ろう

役職でしか知らなかった女が目の前に座っている。こちらをみて「ねぇ」と呼ぶ彼女も、きっと僕の名前をフルネームで覚えてるわけじゃない。

これまで出会うことのなかった人種を見るような眼差しで、彼女は僕のこれまでをこれでもかと聞いてきた。自分のことを話すことが苦手な僕にとっては酷く億劫に感じる時間で、普段の何倍にも延ばされた1時間は無限にも思えた。

店内のBGMは徹底してクラシック調で整えられていて、

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