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ねえ、忘れないでよ。

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ベーシストの想真と引きこもりの瑠衣。 ふたりは 思いもよらない出逢いを知って 思いもよらない別れを知る。 運命って信じますか? ねぇ、忘れないでよ。
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#恋愛小説

ねぇ、忘れないでよ。#31

どういうこと?
なんで?
そればかりが繰り返す。
幼子のように。

三人で彼の遺影を前にしていた。

シンラさんは我慢することも
できないようで声をあげて泣いていた。

トキオさんは静かに肩を震わせていた。

私は涙も出なかった。
怒りと哀しみが綯い交ぜになっていた。

なんで一言も言ってくれなかったの。
言ってくれたにしてもその意見に
賛同できなかったと思う。
想真くんが考えていたことは最後の最

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生きて、生きて、奏でた#30

「もしもし、母さん?うん、想真。げんきにやってるよ。母さんはどう?」

「元気そうな声ね。活躍をメディアとかで聞いているもの、そうよね。母さんも元気よ。父さんに会ったんでしょう?色々と驚かせてごめんね。話すタイミング探してるうちに想真どんどん大きくなっていくから、隠すつもりはなかったんだけど、結果的にそうなっちゃったね。」

「そんなこといいよ。母さんはずっと僕の母さんだよ。これはなにがあっても変

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アセロラとグレープフルーツは恋の味#29

時折、揺れる車内。心も揺れていた。

私は大人しく座っている。
助手はしてないけれど、助手席に。

ソウマくんの脳内のマップを頼りに
風の通り道を駆け抜ける。

助手席って元々はエンジンをかけてあげたり
する人をそう呼ぶようになった人のための席
だった気がする。免許とかそういう概念その頃
あったのかな?
なんてどうでもいいようなことが浮かぶ。

「たまにはさ、気晴らしでもいかない?」

そんな

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アンサー#28

メインボーカル不在のバンド。
定石通りなら活動休止すべきなのかもしれない。ただメンバーの誰一人それを考えもしなかった。一緒に鳴らしてきたくらいだ。
そんなことしてたらシンラに誰一人として
合わせる顔がない。
いつかのとおり、僕がメインで曲作りを
担当した。どんどん知らないメロディが
溢れてくる。オンもオフも関係なく一日中、曲を描き続けたりしていた。
海外の良質なレコーディングスタジオは
一流の物が

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みえないチカラ#27

「ソウマ、話がある。」

あの日のように
レコーディングを一通り終えたところで
携帯が鳴った。

「俺たちの家の代々の先祖、そして俺もソウマも
同じような状況で苦しんできた。
調べに調べ尽くした。
それには見たことも聞いたこともない
病名がつきそうだ。」

「病気?これは病気だったの?一体どんな?」

「他者記憶介入病だ。名づけるならそんなところだ。」

「サイコメトリーみたいな感じ?

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馬鹿な私を赦して#24

走り出したら止まらなかった。
某SNSにファンがアップしてくれた動画で火がつき
世界各地からラジオ、ライブ、雑誌の撮影、インタビュー、
といったオファーの嵐。

スケジュールに空白がなくなった。

だけど三人とも浮かれている様子はどこにもなかった。むしろまだまだ足りない。まだまだ未来を見ていた。
眠る時間はほぼなく、移動中に
ほんの少し仮眠。それを断続的に繰り返していて、なんとか体をキープしていた

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想真くんに贈る言葉#23

「ソウマからメールが。」

トキオさんの
その声で休憩を
とっていた私達は
胸を弾ませた。

なんで俺にじゃなく、いつもトキオなんだー!
と嬉々として
大声をだすシンラさん。

そんなの私だって
思うよ。
なんで私じゃないの?って。

でもトキオさんに
宛てるってことは
結局3人に
向けて送られて
きているということ。

誰に届いたじゃなくて
ここに届いたことが
すごく重要で。

内容

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瑠衣の為になんて笑われるかな#22

ここに来た理由はもうひとつあった。
音楽療法について学ぶことだ。

だけどそんなことどうでもよくなった。
待ってる人がいる。こんな僕を待ってる皆がいる。

それに僕は僕たちはもうきっと誰かを癒していたと思うから。
Moon Raver の理念というか訓辞のようなものがある。

‘‘心の叫びに寄り添って‘‘ 
これの言葉に添うような音楽をどんな風になってもやっていこう。
三人でそう決めた。誰か

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音よ届け#21

そんな簡単に
思い通りには
行かなかった。

プロと素人。
その壁は思ってたよりも大きくて、
何度も、もっかいアタマからいこうか?

私には音楽の才能が
ないんだと自責していた。

「そんな不安げな顔すんなよ。大丈夫。なんでも積み重ねが大切で、才能なんて1%くらいだよ?俺たちだって。」

「ルイさん、Cメロに
はいった時の聴かせる感じとかすごいですよ。ドラミング忘れそうになるほどで

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独りでは何もできない#20

ひとりで出来ること。考えられること。
それにはやっぱり限界があった。
雨の中を傘も差さずにそのまま海に潜っていくような日々。

ここにいたら、もしかしたらひょっこり戻ってきて
またあの笑顔で私の名前を呼んでくれる気がして。

彼のバンドメンバーに声をかけた。
もう考え尽くしてその策の中に溺れていた。
助けてほしかった。

「もしもし、瑠衣ちゃん?珍しいね、いや掛けてくるの
初めてか。なんかあった?

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病の理由と涙の理由#19

身長、体重に始まり、レントゲン、CT、脳波測定、
あれやこれやと検査は進んでいった。
合間をみてはピアノレッスンも進めていた。
高校の時の音楽教諭にお願いしていた。
声を聞くのも数年ぶりで少し抜けているような
所がある、なんだか憎めない教師だったのを覚えている。
義務的に教わるのも性に合わないので、
手元に楽譜があった、とあるゲームの音楽から
抜粋して教わることにした。
先生も音大卒なこともあり、

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紺色のダッフルコート#18

「ソウマか、おおきくなったな。」

「大きくもなるよ。もう20の齢になるんだから。」

「それもそうか。あれから20年か。」

「ここじゃ迷惑がかかるよ。父さんこそ、いくつなんだよ。」

「父さんか。良い響きだ。生まれて初めてってこんな歳になっても
あるもんなんだな。」

僕等はそんな話をしながら、カフェへと足を運ばせた。
約20年という歳月を取り戻すかのように。

「海外まで来て、日本展開されて

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確かな理由#17

雲を越えた先、そのはるか先に待っている。
誰かじゃない僕を待っている。

会えなくてもよかった。
でも僕はなんの偶然かそのチケットを手にした。

このままだと、もう残された時間が少ない。
誰にでもそれはそうだ。時間は限られている。
永遠なんてない。
見えているか、見えていないか、それだけだ。

残してきた彼女や、メンバーには申し訳ない。
まだその気持ちがある。まだなんとか生きている。
僕はまだ生き

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雨#16

止まらない。
止まらない。
降りだした雨が急に止むことはないように。
涙が止まらない。

失ってから気付いても遅いんだろう。
想いを伝えるチャンスはきっとあった。

子供の頃、大切にしていたぬいぐるみを
どこかで無くしてしまったとき。

「また、同じもの買ってあげるから泣かないの。」

わがままかもしれない。でもそうじゃない。
同じものならいいわけじゃなくて、あの子がいい。
あの子じゃなきゃ意味が

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