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「働く」の時間論

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「働く」の時間論①

「働く」の時間論①

DX化という言葉がここ数年のトレンドになっています。停滞した日本経済を活気づいたものにするためには、ビジネスモデルをデジタルで転換していかなくてはならない、というのがざっくりとした論調です。
DXのためには、まず今の仕事を変えていかなくてはいけない。例えば手書きをしているものをパソコンに入力するとか。どこでも仕事ができるようにパソコンを持ち運びできるようにするとか。DX、デジタルトランスフォーメー

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「働く」の時間論② ビジョンと時間

「働く」の時間論② ビジョンと時間

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「オードリーのオールナイトニッポン」で、毎年、恒例のように語られる話題がある。
「今年の目標はなんですか、てうるせーよな」
新年になると、若林と春日は番組で受けるこの質問を取り上げて、「今年の目標なんかないよ」といじっている。リトルトゥースの自分はこの会話を聞くと、あーまた1年が始まったんだなと感じる。

仕事をしていれば、「目標をもて」と言われる。仕事のうえで達成したいこと、キャ

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「働く」の時間論③ ビジョンは哲学由来の考え方

「働く」の時間論③ ビジョンは哲学由来の考え方

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組織やチームで事業をしていると、どんな社会を実現したいのか、ビジョンを描くことが求められる。ではビジョンを実現するために「働く」時間はどのようにとらえればいいのだろうか。

ここで立ち止まって「ビジョン」についてもう少し考えてみたい。
ビジョンとは前回書いたように目標を達成したときに見える景色のことである。なので未来という時間軸に置かれた理想の像ということになる。

現在にはない理

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「働く」の時間論④ ビジョンと資本主義

「働く」の時間論④ ビジョンと資本主義

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ビジネスのなかで未来の理想として描かれるビジョンという概念は、哲学からきた考え方ではないか、ということを前回書いた。

ビジョンは新しい事業を始めるとき、「社会をどう変えたいのか」と必ずといっていいほど説明が要求されるものである。
さらにビジョンは組織やチームで思い描くものだけでなく、個人単位でもキャリアビジョンというかたちで求められるものになっている。仕事を通してどんな人物になり

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「働く」の時間論⑤ DXとは何か

「働く」の時間論⑤ DXとは何か

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現代は果てしない成長を要求される社会である。次から次へと新しいビジョンを描きながら常に高い次元を追い求め続ける。
この問題は「脱成長」というキーワードで最近注目されているものである。資本主義そのものを見直そうという活動も、もう何年も前からある。社会の方向性そのものがおかしいので根っこから考え直し、次の新しい社会のモデルを見つけようとしている時期なのだ。

さて、「働く」の時間論①で

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「働く」の時間論⑥  誰のために働くのか

「働く」の時間論⑥ 誰のために働くのか

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大学時代、周りが就職活動をしている時期に「なんのために働くのだろう」と疑問に思っていた。今思えば、自分が就職活動をしないことへの言い訳のために考えていたのだろう。何人かの友達に「なんのために働くのか」と聞いた。そのうちの一人が「食べるためだよ」と言ったことを覚えている。

当時は「食べるために働くなんてよく言うなあ」と思っていた。新卒採用の就職活動では志望動機を書かなければならない

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「働く」の時間論⑦ 他者のために、自分のために

「働く」の時間論⑦ 他者のために、自分のために

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何のために働くのか。まず自分が生きるために、自分のために働く。それがまず前提である。では、何のために、自分のために働いているのだろうか。それはレヴィナスになぞらえて答えると、他者のために、自分のために働く、となる。

自分はまず食べるために働かなくてはならない。そのことを通して自分のために生きている。だが、同時に働くことを通して他者のために贈与できるものを生産している。自分のために

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「働く」の時間論⑧ 人生のエゴイズム

「働く」の時間論⑧ 人生のエゴイズム

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「働く」という時間には、「他者のため」、「自分のため」という二つの時間が流れている。

この二つのうち、前提にあるのは、まず自分が食べて生きていくため、「自分のため」である。また「働く」ことを享受して幸せに生きている。レヴィナスはこのことを恐れず「人生のエゴイズム」と呼んでいる。人間はまず自分自身が生きることをしなければならない。それが第一である。ここでいうエゴイズムというのは、他

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「働く」の時間論⑨ ビジネスの時間と人の生きる時間

「働く」の時間論⑨ ビジネスの時間と人の生きる時間

大学時代に、1ヶ月間インドへ旅行に行った。初日に泊まるホテルだけ予約をとって、あとは計画を組まずに北インドをあちこち周った。
ガンジス川にも、もちろん行った。もともとインドに行きたいと思ったのは、大学の入学直前に遠藤周作の『深い河』というガンジス川のほとりにあるバラナシが舞台の小説を読んで感動したからだった。バラナシは沐浴ができるガートと呼ばれる場所で有名で、テレビでインドが特集されたときは必ずと

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「働く」の時間論⑩ 目的を超越して楽しむということ

「働く」の時間論⑩ 目的を超越して楽しむということ

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仕事で流れる時間は、人が生きる本来の時間からかけ離れていっている。それでは仕事の時間を自分が生きる「自分のため」の時間に戻すためにはどうすればいいだろうか。

まず一つめに、新潮新書の『目的への抵抗』を参考にしながら、ビジネスの「目的」からはみ出て楽しむということの可能性について考えていきたい。

『目的への抵抗』は主に政治を中心として「目的」に支配される社会について疑問を呈してい

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「働く」の時間論11 動的平衡と社会

「働く」の時間論11 動的平衡と社会

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「働く」時間での「自分のための」時間を取り戻すためのキーワード、二つめは「動的平衡」である。

「動的平衡」とは生物学者の福岡伸一が提唱している生命観である。
こちらのホームページに動的平衡をイメージした動画があるのでぜひ見てほしい。

これは生命の定義というだけでなく、人間の生み出す社会についても同様のことが言えるのではないだろうか。

例えば、ほぼ日に掲載されている糸井重里とエ

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