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自転車で京都から名古屋まで行く⑥(Finish!)愛知到着、旅の終わり。

愛知県に入った。

関ヶ原からは、岐阜(田舎ぽい)→岐阜(都会ぽい)→岐阜(田舎ぽい)という感じで、愛知県も例によらずはじめは田舎ぽい風景から始まる。まるでグラデーションのようだ。

 心も身体も、ついでに言うとスマホも限界を迎えていた。

 思えば米原のカフェで食べて以降何も口にしていなかった。

 だけど、すでに一日遅れだし、汗を吸いに吸って乾いてを繰り返した衣服の匂いはお風呂に入っていないホームレスのよう。お店にゆっくり座って食事なんてできようがない。

 スマホを冷やすためのクーリッシュを買うためにコンビニに寄るのは続いていたが、それもコンビニに入ってアイスコーナーに行き、見つけた瞬間に取ってすぐにレジに向かう。早く出たいから並ばないでいてくれという思いと、涼しくて心地いいここになるべく長くいたいという思いがせめぎ合っている。

 が、臭いによって前者に全て振り切り、ごめんなさいをたくさん込めたありがとうございますを店員に言って、そそくさと店を出る。

 後悔を胸に自転車にまたがる。あまり長居しすぎると心と身体が動かなくなりそうだから、すぐさま走り出す。

 目的地はとても近いのに、あと数時間が最も苦痛だ。距離がまだまだある方が気楽でいい。景色を楽しんだり、少しの休憩に申し訳なさも感じない。きっと汗の臭いだって許容範囲内だろう。

 この自転車旅をする前も後にも、体力あるなーと褒めていただくことが多かったが、実際やってみると体力はほとんど関係なかった。

ほとんどが気力である。

 目的地まで意地でも着く。その先に待っているものは自分の足で(自転車だけども)やり切ったという成功体験だけ、その達成感は微々たるものであることが愛知まで来て、分かりきっていた。

 やる前は旅への高揚感と、挑戦への期待で胸がいっぱいで錯覚していたが、実際に意地との勝負になると、そんなものはどこへやらである。

 景色を楽しむ余裕もなく、そのせいで写真を撮るのをほとんど忘れてしまった。後でこの旅のことを書こうと思いたったのは同日、米原のカフェからなのにも関わらず、これまでたくさん写真を撮ってきたのに、なぜか目的地直前にしてそれを忘れてしまう。それくらいには切羽詰まっている。体力や精神が限界を迎え、気力との勝負になっているのだと思って欲しい。

 愛知の風景が都会な感じになってくると、何度かパートナーとのデートで来た場所や、それに近い雰囲気のある街並みになってきて、余裕も生まれた。

 が、

ここでハプニング。


 人がめっちゃ多い。これまで滋賀と岐阜の中心部を走ってきたが、その比にならないくらいの人、人、人。流石シティー。

 人が多いせいでモラルは無法地帯と化していて、自転車道を4列で歩くオバサマ、平気で逆走する学生の自転車、赤信号での通過や横断が当たり前の高齢者。名古屋は交通事故が多いと聞くが、そのときの僕からすれば、危ないのは間違いなく車以外だ。

 そのせいでめちゃくちゃ時間をロスした。
 お腹は減り、水分を喉が欲している。足やふくらはぎは悲鳴をあげ、お尻に至っては座ると痛いのでずっと浮かせている。肌はヒリヒリと痛み、頭は動けばズキリとする。そんな状況で直面する無自覚な人々による妨害。

 僕がグラセフ的な暴走行為に陥らなかったのもやはり気力である。

 ここまできたのだ、後少しだと言い聞かせる自分に自ら罵詈雑言を浴びせ、それにまた自ら言い聞かせる。そうすることで他人に向く負の感情を抑えていた。

 その甲斐あって、ロスした割には早めに目的地に到着した。

 パートナーの家の中に入り、エアコンと扇風機をガンガンにし、お風呂を借りる。お風呂では出る際に冷水で清めたが、それでも全身の熱は冷めやらない。

 汗臭いTシャツはもう臭いが香るというよりは、塊となって鼻に飛び込んでくるほどの強烈なものになっていた。それを洗濯機に放り込んで回す。パートナーには申し訳ないが、自分の旅で使った衣服ワンセットに対してジェルボール二個も使った。

 服も着ないままにソファに座る。横になったら死にそうだ。頼まれていた洗い物を済ませ、服を着てゴミ出しもする。家に戻ってきて室内から外の太陽を目にした。

 あんなに憎らしかった太陽が、陽光が、もうすでに遠いもののように思えた。

 随分前に折れたはずの心は
「次はどこに自転車で行こうかな」という思いに変わっていた。

 早速翌日から自転車で名古屋市を駆け回っているのだから世話ない。

 好奇心は止められない。それを忘れずにいたいなと、旅を終えた今心から思っている。

結果発表


出発 6/24 6:00
到着 6/25 16:30
走行距離 170km以上
走行時間 12時間半
かかった費用
・飲み物代 3000円くらい
・食べ物代 3000円くらい
・自転車修理費 3000円
・宿泊費 3000円
計 12000円以上

結果、車借りてチャリも荷物も運んだ方が安くついた。だが、いろんな経験が出来たし、思ったよりやり切ったという成功体験は心に大きな自信を与えてくれた。それにこうやって記事を書くこともできた。最後に書いた通りまたどこかに自転車で旅をしたいなと思う。その際はまた書くので、是非また読んでいただけると幸いです。

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