Mitsuki

京都の芸大で文章を学んでいました。 書店員、 文芸創作研究チーム『文芸みぃはぁ』リーダ…

Mitsuki

京都の芸大で文章を学んでいました。 書店員、 文芸創作研究チーム『文芸みぃはぁ』リーダー、 キモ良い短歌を作る人、 小説を書く人 ブックレビューを書く人。 エッセイもはじめました。 お題や感想のコメントお待ちしてます!

マガジン

  • ショートショート

    企画で書いたもの、自作のショートショートを載せています。

  • その他作品たち(企画など)

    いろんな企画で書いた文章作品です。

  • 短編小説『印』

    ずっと書きたかった物語の一つ。 『印』がないと村の人だと認識されず、村八分にされる村で、印師をする男のお話。

  • 読んだ本のレビュー

  • 小説『緑のマフラーのあの子』

最近の記事

僕にとって音楽は『言葉を届ける手段』

 僕の将来の夢はミュージシャンです。  実際にはなかったけれど、将来の夢の宿題が小中学生の頃にあったら、そんなふうな書き出しだっただろう。  僕がミュージシャンになりたかったのは中学二年生までの話である。  なりたかった理由は二つ。一つは音楽に救われてきたから。そしてもう一つは父親に認められたかったから。  一つ目についてはよくある話だ。おおむねこの言葉で想像するようなことがあった。なので割愛する。  小さい頃から、少し父親が怖かった。それはあまり笑わなかったから。小さい頃の

    • ショートショート 36 タイムループもタイミングを考えてほしい

       タイムループが使えたら、若い頃、そんな話をしていたことを思い出す。そのとき誰といて、どんな顔をしていたか、その細部までは思い出せないが、話した内容は想像に難くない。  いついつにいって後悔を晴らす、宝くじを当てる、そんな夢物語に違いはないだろう。そのとき誰かがそんなにうまくいくのか? たいてい映画や小説なんかじゃ……と冷める発言をしたやつがいたような気がする。  私は今、そのときのことをちゃんと聞いておけばよかったと強く後悔している。 「何してんの! すぐに立って!」

      • ショートショート35 おじいちゃんは町の変わり者

         僕のおじいちゃんは町の変わり者と呼ばれている。でも、僕はおじいちゃんのことが嫌いじゃなかった。おじいちゃんの家は町のハズレにある洋館で、僕はそこでおじいちゃんと二人で暮らしている。両親が海外赴任の間預かってもらっていた。  初めは数ヶ月と言っていたのが、季節が変わる頃になり、次には年が変わるころになり、今では僕が大人になった頃に戻ってくることになっている。  僕は別に嫌じゃなかった。今の時代、別にネットさえあればいつだって顔を見られるし、声も聴ける。小さい頃は本当は両親は死

        • ショートショート 34 世間の流行はメゾピアノ

          「若い子の気持ちがわからない」  俺は居酒屋の個室で友人である入江に相談していた。しかし入江は持っていたビールを持ったまましばらく固まった後で大笑いした。 「おい、笑うなよ」 「だって、いつも安い飲み屋でいいとかいうお前がわざわざ個室まで用意して、何を相談するかと思えば、そんなことかよ」 「そんなことってなんだよ」  俺は真剣に悩んでるっだっつうのと、ビールを勢いよく飲み干す。昔はそうするだけで悩みなんてどうでもよくなったというのに、今はむしろ不安が増すばかりだ。こうやって酒

        僕にとって音楽は『言葉を届ける手段』

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        • 小説『緑のマフラーのあの子』
          0本
        • 人の〇〇で小説を書く
          3本

        記事

          2024/2/12 我が聖地巡礼②もう一つの故郷、愛媛。

           僕の地元は高知県四万十市西土佐というど田舎だということは昨日の日記に書いた。  でも実は僕の生まれについては少し違う。僕の生まれは愛媛県宇和島で、いろいろあって西土佐の祖母の家で暮らすようになった。  と言ってもそんなに遠い場所ではなく、むしろ遊びに行くなら宇和島に行くことが多かったし、なんなら高知なのに愛媛放送が入っていたくらいだ。  だから聖地巡礼をするなら、愛媛県も外せない。  まずは奥野川という山道を車で走る。曲がりくねった対向車とギリギリすれ違うような山道を進み、

          2024/2/12 我が聖地巡礼②もう一つの故郷、愛媛。

          2024/2/11 我が聖地巡礼①小中高とそのあたり

           今日は僕の生まれ育った故郷、四万十市西土佐に恋人を連れて帰ってきた。  名古屋から香川まで六時間夜行バスに揺られ、そこから一時間バスを待って、香川から高知まで二時間、そして高知市から四万十市までまた二時間の計十時間以上かかってようやくついた。  そんな僕らを激励してくれたのは、我が家の犬。塀の上によじ登って、忙しなく動いている。  思わず恋人もかわいい! と大はしゃぎ。荷物も置かないままに犬と戯れ始める。  恋人はほとんど犬に触ったことがなく、うれしそうで、犬も見知らぬ人

          2024/2/11 我が聖地巡礼①小中高とそのあたり

          ショートショート 33 人間失業

          『名作を一文字変えて書く』 という企画で書いた作品です。  仕事を失業した、そう話したときの人の反応は大抵喜怒哀楽に別れる。あんな仕事辞めてよかったよ! なんで辞めたんだ! それはつらかったですね。ほっとしました。  俺もそのどれかだろうなと思った。あとは呆れられるか、無視されるかくらいだろう。  だからまさかハロワで職員から「まだ人間は失業してらっしゃらないですよね?」と言われて、心底驚いた。え? って声に出た。割と大きな声で出た。 「聞き間違いでしたらすみません。人間を

          ショートショート 33 人間失業

          【2023年読んだ本リスト】

          タイトル/作者名/訳者やイラスト 夏休みに、ぼくが図書館で見つけたもの/濱野京子/森川泉 気楽に殺ろうよ/藤子・F・ 不二雄 御社のチャラ男/絲山秋子 10代のうちに考えておきたい 「なぜ?」「どうして?」/近藤雄生 CF/吉村萬壱 3歳語辞典/101 死にたくなったら電話して/李龍徳 N/A /年森瑛 会話を哲学する/三木那由他 くるまの娘/宇佐美りん チェレンコフの眠り/一條次郎 爆弾犯と殺人犯の物語/久保りこ 大林くんへの手紙/せいのあつこ 掬えば手には/瀬尾まいこ

          【2023年読んだ本リスト】

          ショートショート 32 結婚式にやってきた怪盗

           白い服と温かみのある光。これからの未来の不安なんて微塵も感じさせない笑顔の二人。唯一場違いにも見えるレッドカーペットすら、二人を祝福することに専念している。二人のうちの一人、男女のうちの女性がこちらを見ていっそう微笑む。  私も薄く返した。ここでくしゃっと笑おうものなら、二人に失礼だ。  女性は私の友人だった。小中を一緒に過ごし、高校は別だったが、まさかの大学が一緒だった。それまで互いの家に遊びにいくほど仲がいいというわけではなかったが、偶然が重なり、いまでは互いに親友

          ショートショート 32 結婚式にやってきた怪盗

          ショートショート 31 ちいさなさかさま

          「そこ、停めていいから」  松本が指差したのは車庫の真ん前だった。さすがに悪いよと断ったが、彼は「大丈夫、ほら」と気にせずシャッターを開ける。そこには蔦が絡まった軽トラックあった。 「うちの、こないだ施設に入ったじいちゃんの車。まぁボケてから七年かな? 運転してないどころか車庫からも出してない。シャッター開けたのも2年ぶりかも」  松本が笑う。歯茎が見えるくらいに笑って、でも破裂するみたいなのは一発目だけで、すぐにひきわらいになる。松本のじいちゃんもこんなふうに笑っとん

          ショートショート 31 ちいさなさかさま

          京都エッセイ(17)就職でも失敗続き

           小中高大と失敗続きだった私が大人になり就職しただけで上手くいくか。  答えは当然NO。今回は大学を卒業してしたいくつかの仕事のお話。  まず就活の時点で私は間違えた。面倒くさくてそういう系の授業は全くとっておらず、やり方を知らないまま就活していた。大学では真面目に勉強していたために話せることがない。大学での学びが楽しかったのもあって、その先の未来なんて考えたくはなかった。最悪バイトすればいいかとぼんやり思いながらした夏の就活で嫌な目にあい、就活恐怖症になってしまったのも

          京都エッセイ(17)就職でも失敗続き

          人の〇〇で小説を書く(3)犬の祖先×猫の祖先のキメラ『ペプロキオルス』

          @kuma_709 さんのツイートから ヘスペロキオン×プロアイルルス (犬の祖先×猫の祖先) のキメラをリクエストしたら、とても好みな感じな感じの出来上がりだったので、ちょっとした小説を書いてみました 『ペプロキオルス』エピローグ 「ダメ」  お母さんの言葉は強く、これ以上何を言っても無駄だということが子どもの僕にでもわかった。 「どうして」と聞かなくてもわかったけど、それが僕が唯一続けることのできる言葉だった。 「あのね、ポケモントレーナーはなろうと思ってな

          人の〇〇で小説を書く(3)犬の祖先×猫の祖先のキメラ『ペプロキオルス』

          ショートショート 30 TRUE CONVENIENCE

           これは、ぼくが中学生の頃のお語です。  ぼくはいじめを受けていました。と言っても、そんなにつらいというほどの印象はありませんでした。つまるところ学校に行きたくないと思うほどではなかったのです。きっかけはなんだったでしょうか。ぼくが勉強ができるのが気に食わないとか、好きな子に告白したけれど振られたのがウワサになったとか、勉強のわりに運動ができなくて、マラソン大会で太っているクラスメイトとビリ争いをしたことか。  そのどれもが複合的にからまりあって、いじめ、というかいじりに発展

          ショートショート 30 TRUE CONVENIENCE

          人の〇〇で小説を書く(2)CryCry /////////田村 悠一郎さんのツイートから

          CryCry /////////田村 悠一郎 @crycry_photo  修学旅行。それは、普段の学校から合法的に抜け出し、非日常を味わえるステキな時間。恋愛や友情が育まれ、楽しくて時にちょっと涙することもあるまさに青春を代表するイベントのひとつ。  そんなイベントでここまで汗をかくことがあっただろうか。いや体育祭とかならわかる。それに汗を全くかかない青春イベントはないだろう。ではここまでつらいと感じるイベントがあっただろうか。  石の階段を踏んで次の段に足を持ってい

          人の〇〇で小説を書く(2)CryCry /////////田村 悠一郎さんのツイートから

          ショートショート 29 図書館のお姉さん

           無意識にあげたかかとをゆっくりとおろす。机の上にある用紙は、もう隅々まで何度も読んだというのに、まだ時間がこない。  たった一枚のカードを作るためだけにどんだけ時間かかってんだよ、という言葉は頭の中に置いておく。  もしかしたらめちゃくちゃすごいカードなのかもしれない、あのお父さんが一度だけ見せてくれたエジプトの剣士みたいな男が横を向いている、カードというにはずしりと重い銀色のやつみたいなのかもしれない。  なんとなく、ほんとうになんとなく、未来さんを見やる。未来さん

          ショートショート 29 図書館のお姉さん

          人の〇〇で小説を書く(1)イチゴミルクパンケーキカメウシ

          @kuma_709さんのツイート https://twitter.com/kuma_709/status/1702080041990181335 より 『イチゴミルクパンケーキカメウシ』  イチゴミルクパンケーキカメウシの頭の中はいっつも悩みばかり。だからいつもお口から出るのはため息と悩み。 「ボクだって普通に遊ぶ友達が欲しいよ」  彼の仕事はスイーツ屋さん。その大きな体躯から、厨房では働けないけれど、いつもお店の前でマスコットとして立っている。たまの出張販売のとき

          人の〇〇で小説を書く(1)イチゴミルクパンケーキカメウシ