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本のこと

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#本

『悲しみよ こんにちは』

『悲しみよ こんにちは』

短くも長い人生を歩んでいると、人との関わりの中で他者にこんな気持ちを抱くことがあります。

自分とは全然ちがうタイプだけれど妙に惹かれる

8割くらいは好きだけど、残りの2割はどうも受け入れられない

嫌いじゃないけど、一緒にいてなぜかもやもやする

そんな相手とは思いのほか仲良くなったり、対立したり、絶交してしまったりといろいろですが、こうした感情というのは、言い表すことが難しく、心にわだかまり

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とるにたらない、生活を愛する

とるにたらない、生活を愛する

いろんな幸福を知ってるひとだ。

石鹸、砂糖、カクテルの名前、りぼん、小さな鞄、お風呂、箒と塵取り、日がながくなること……。
ありふれていてささやかだけど愛おしく、なぜか気になってしまうものやことについて書いたエッセイ集。

この本で挙げられているものものは、ほんとうにとるにたらないのだけど、彼女の生活、知性、思い出、ユーモアが滲んだやさしい文章を通してそれらをみると、とたんに愛すべきものに感じら

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その本は読まれるのを待っているけれど

その本は読まれるのを待っているけれど

本棚は思考の網目そのものである。

本は開かずとも、そこにあるだけで人に影響を与えるものだ。だからこそ本棚は、全ての本の背が見えるように使わなければならない。

本の背の前に本を積んだり、物を置いたりしてはいけない。今の自分の思考を作るもの、これから考えようとしていることを、つねに一覧で見られるようにしておくべきだ。

そんな主張をどこかで読んだことがあった。
その主張に、私はおおむね同意している

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本の背をただ眺めている人が愛おしくて

本の背をただ眺めている人が愛おしくて

ひさびさに大きな本屋に立ち寄った。

特に目的もなく行く本屋ほど、贅沢な場所はないなと思う。

目当ての本があるわけでもないので、私は店内の隅から隅まで、たんぽぽの綿毛みたいに気まぐれにふよふよ歩いては、気になった書棚の前でぴたりと足を止める。

どんどん本を手に取って開くわけでもなく、ただただ本の背を眺める。この時間が好き。

本とは選ぶものではなく、出会うものだと思っていて。
キザな言い方かも

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生きる意味と無意味をめぐって◆三島由紀夫『命売ります』

生きる意味と無意味をめぐって◆三島由紀夫『命売ります』

三島由紀夫『命売ります』(1968年)

いくつも読んできた三島由紀夫の作品の中でも、圧倒的な読みやすさとユーモアがつまったこの小説は、私の大好きな作品の一つ。

なぜか暑くなると読みたくなり、毎夏のように再読しています。

今回はこちらの作品のご紹介と、すこしばかり考察をしてみます。

※ネタバレありますのでご注意ください。

あらすじ広告会社でコピーライターとして働く27歳の山田羽仁男。

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