よいのはる

ひとりの時間を愛しています。本/日常/思うこと/アートのことなどを、気ままにつらつら。

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    言葉について考えた記事のまとめ

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    クリエイターさんたちによる、お気に入りの記事

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『詩のこころを読む』

詩そのものよりも、その詩についてうれしそうに熱をこめて語る著者の文章に、ひどく感動してしまいました。 一編の詩が「すばらしい」ということを、なんて果てしない想像力とうるおいのある言葉で表現してしまうのかしら。 いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまた、生きとし生けるものへの、いとおしみの感情をやさしく誘いだしてもくれます。どこの国でも詩は、その国のことばの花々です。 茨木のり子『詩のこころを読む』(1979年)の書き出しです。 本書を開いて読み始

    • 悪夢だったらよかった。それでも/『オッペンハイマー』

      土曜日の夜、夢の中でわたしは映画のチケットを予約していた。何かにせつかれるように、とにかくあわてて席をおさえていた。寝苦しくて目が覚めた瞬間に思った。「オッペンハイマー観に行かないと」 劇場へ映画を観に行くとき、その日1日はすべて映画のための日だという気持ちでいる。チケットはオンラインで予約し、上映中にトイレに行きたくならないよう事前にたらふく炭水化物をとり、上映後はゆっくりと余韻に浸る。その一連の流れが、わたしにとっての「劇場で映画を観ること」だ。そう捉え始めてからは、映

      • これから書きたいnoteのこと

        3月に入ってから体調をくずし、やっと回復のきざしが見えてきました。とくに花粉症にはずっと悩まされていて、喉と副鼻腔をだめにしました。たかが花粉、と侮るべからず。 そんなこんなで、なかなか文章に向き合えずにここまで来てしまいました。書きたいことはあるものの、思考と集中力が及ばず…書くということは体力のいることだと痛感したのでした。少し元気になってきたので、これから書いてみたいことをメモのつもりで記しておこうと思います。 レモンのこと夏の気配が近づいてくると、レモンのお菓子や

        • 小さい頃の神様と出会いなおすこと

          「小さい頃は神様がいて 不思議に夢をかなえてくれた」 ユーミンの名曲、「やさしさに包まれたなら」の歌い出しです。すぐれた小説の書き出しにもありそうな、印象にのこる一節です。 わかるようで、よくわからない感覚です。神様とはいったい何のことでしょうか。大人の存在なしに生きていけない子どもの、自覚のない「守られている」感覚みたいなもの?親の無償の愛のことかしら。 歌詞にいちいち解釈を求めるのは野暮かもしれませんが、この歌い出しのことはなぜかずっと気になっており、自分なりにぴっ

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        『詩のこころを読む』

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          2月、菜の花、桃の花

          菜の花スーパーで菜の花を見かけるとうれしくなります。しっかりとした茎から若々しくやわらかい葉っぱとプチプチとしたつぼみがなっていて、ときどき黄色く咲いているとちょっとしたブーケのよう。春の訪れをかわいらしく知らせてくれるから、ついついカゴに入れてしまう。 菜の花は茹でると昆布のようないい香りのだしがとれます。茎を30秒茹でてから穂先を入れてもう30秒。水にさらしてぎゅっと絞る。茹で汁にお醤油を少し入れて浸すだけで、シンプルなおひたしのできあがり。みずからのだしで浸しておいし

          2月、菜の花、桃の花

          『悲しみよ こんにちは』

          短くも長い人生を歩んでいると、人との関わりの中で他者にこんな気持ちを抱くことがあります。 自分とは全然ちがうタイプだけれど妙に惹かれる 8割くらいは好きだけど、残りの2割はどうも受け入れられない 嫌いじゃないけど、一緒にいてなぜかもやもやする そんな相手とは思いのほか仲良くなったり、対立したり、絶交してしまったりといろいろですが、こうした感情というのは、言い表すことが難しく、心にわだかまりとなって溜まってしまうものです。 ときには「こんなに大切な人をこんなにも憎める

          『悲しみよ こんにちは』

          30代、いま考える友だちのこと

          30代になって、友だちについてよく考えるようになった。人生の新しいフェーズに入ったという感覚にともなって、友だちとのひそやかな別れや、新しい出会いや再会をすることが増えた。都会的な遊びや少しの贅沢、くだらなさも味わいも増した会話を通して築く関係性に心から幸せを感じる反面、気持ちが離れていく寂しさや距離の保ち方に困惑することもある。 学校や大学というコミュニティから離れて久しい。毎日顔を合わせるのは職場の人たちと家族くらいになったいま、学校で当たり前のように毎日会えていた友だ

          30代、いま考える友だちのこと

          世界とひきかえに愛した自分

          半額シールのついた大トロのパックを手に取りながら、著者はふと絶望する。 「人生って、これでぜんぶなのか」 自分を取り巻く世界がとても小さなものに思えたり、反対に、とてつもなく大きく感じられたりすることがある。 たとえば一日の大半をベッドの上で過ごした時。重い腰を上げてやっとの思いでコンビニに行き、「袋いらないです」がその日初めての発話だった時。その自分の声が、お世辞にも人の声とは言えないほど情けなく掠れている時に、私は落ち込む。今日という日の私の世界には、生命力にあふれた

          世界とひきかえに愛した自分

          とるにたらない、生活を愛する

          いろんな幸福を知ってるひとだ。 石鹸、砂糖、カクテルの名前、りぼん、小さな鞄、お風呂、箒と塵取り、日がながくなること……。 ありふれていてささやかだけど愛おしく、なぜか気になってしまうものやことについて書いたエッセイ集。 この本で挙げられているものものは、ほんとうにとるにたらないのだけど、彼女の生活、知性、思い出、ユーモアが滲んだやさしい文章を通してそれらをみると、とたんに愛すべきものに感じられてくる。 たとえば「フレンチトースト」では、彼女が夢中だった男性との思い出が

          とるにたらない、生活を愛する

          夏風邪と2日目のミートソース

          夏風邪をひいてもう一週間になる。こんなに長引いたのは久しぶりで、そもそも風邪をひくのも久しぶりだ。熱もなく喉の痛みもない。鼻水と咳、鬱陶しい頭痛がだらだらと続いている。 外は毎日30℃を超える暑さが続いているようだった。もう何日も家の中から太陽が高くのぼっては沈んでいくのを眺めている。何もやることがない。というかやりたくない。スマホも本もろくに見れない。人と話をしたくもない。薬の副作用のせいで毎食後眠くなる身体。気を失うように眠っては起きてを繰り返していたら、退屈で飽きるほ

          夏風邪と2日目のミートソース

          風流は陰の中に

          私は以前、noteでこんなことを書いていた。 大学の教授にいつの間にか変態扱いをされていて、ショックだった故に、長らく谷崎潤一郎を読めなかった、というくだらない話である。 この記事を書いたのは、もう1年以上前だ。その間、私は谷崎潤一郎の作品に一度も手を出していなかったが、自らの「呪い」を解き、ついに読んでみた。 新潮文庫の美しい装丁、魅惑的な漢字の連なり。 ずっと前から気になっていた。陰翳を讃えるとは、どういうことか。 随筆のため、いわゆる変態文学ではないものの、谷

          風流は陰の中に

          孤月のようなひと

          Iはいつだって気まぐれだった。 深夜に電話をかけてきては、ぽつぽつと自分のことを語り始める。 まるで猫があたたかい場所にその身を横たえるときの、落ち着きを求めるような、どこか眠たげな声。その声で語るのは、ほとんどが自己憐憫か、繊細な感情か、絶望だった。 反対に私がIとの時間を求めるとき、Iはなかなかつれなかったりする。 ふりまわされるのが好きでしょうと言わんばかりに、Iは私を都合よく、上手に扱うのだ。 極端、完璧主義、ナルシスト、気まぐれ、柔軟、繊細。 Iを形容する言葉

          孤月のようなひと

          よすがの椅子

          建築家が椅子をデザインしたがるのは、椅子が小さな建築だからだといいます。 梁や天井などの、水平方向にまたがる「荷量」。 支柱などの、垂直方向に荷量を支える「支持」。 この二つの連続が建築の本質で、椅子はその関係性の最小単位と言える。 そんなことを、芸術学の講義で習ったことを思い出しました。 椅子と建築、その役割としての共通点は、「場」を生み出すこと。椅子はそこにあるだけで誰かの場所を生み出している。 腰を落ち着ける。 心を落ち着ける。 長い時間そこで過ごせること。

          よすがの椅子

          その本は読まれるのを待っているけれど

          本棚は思考の網目そのものである。 本は開かずとも、そこにあるだけで人に影響を与えるものだ。だからこそ本棚は、全ての本の背が見えるように使わなければならない。 本の背の前に本を積んだり、物を置いたりしてはいけない。今の自分の思考を作るもの、これから考えようとしていることを、つねに一覧で見られるようにしておくべきだ。 そんな主張をどこかで読んだことがあった。 その主張に、私はおおむね同意している。 電子書籍はとても便利だけれど、実物の本には敵わないものがある。 部屋の中で

          その本は読まれるのを待っているけれど

          落ちて、こぼれる

          落ちこぼれずに旨げに成って   むざむざ食われてなるものか 落ちこぼれ   結果ではなく 落ちこぼれ    華々しい意志であれ 茨木のり子さんの詩に魅せられて、彼女の詩作と随筆を片っ端から読む日々を送っています。 背筋がぴんと伸びるような彼女の詩は、日々のなまけた態度をしゃんとさせ、失われた初々しさ、忘れかけていた本当に大切にすべきことを、思い出させてくれます。 冒頭の引用は『落ちこぼれ』という詩。 「落ちこぼれ」という言葉の美しさにはたと気づいた彼女がつづった、力強

          落ちて、こぼれる

          東京純喫茶慕情Ⅱ

          いい人生には喫茶店が必要だと思っている、と言い切ったのは、かれこれもう約3ヶ月前のこと。 その思いは変わってないけれど、むしろ喫茶店があるからこそいい人生が成り立つのではないか。そんなことすら考えるようになってしまいました。 昨今の混乱もあって、喫茶店に行くことが少なくなってしまい、いつのまにかお気に入りのお店がそっとシャッターを下ろしていたりと、悲しいこともありました。 喫茶店のない日々とは、それすなわち、ほどよい環境音の中で一人で物思いに耽ったり、誰かと長話をする機

          東京純喫茶慕情Ⅱ