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夏風邪と2日目のミートソース

夏風邪をひいてもう一週間になる。こんなに長引いたのは久しぶりで、そもそも風邪をひくのも久しぶりだ。熱もなく喉の痛みもない。鼻水と咳、鬱陶しい頭痛がだらだらと続いている。

外は毎日30℃を超える暑さが続いているようだった。もう何日も家の中から太陽が高くのぼっては沈んでいくのを眺めている。何もやることがない。というかやりたくない。スマホも本もろくに見れない。人と話をしたくもない。薬の副作用のせいで毎食後眠くなる身体。気を失うように眠っては起きてを繰り返していたら、退屈で飽きるほど長いはずの一日はあっという間に終わっていく。人生ってこんなに速く進んでいたのか。

薬を飲むために、食事だけはしっかり摂った。というより、食欲には影響がない夏風邪らしく、寝て起きればおなかがすいた。弱った身体を免罪符に、アイスクリームや桃、メロン、プラムなどの冷たくて甘いものをよく食べた。風邪の時だけに許された贅沢。私はこれが昔からけっこう好きだった。

買っておいた豚ひき肉の期限が切れそう。茄子やズッキーニを細かくして夏野菜のキーマカレーにしようと思っていたけど、あいにくどっちも切れてしまったから、シンプルな具材だけでミートソースにしよう。

フライパンに火をつけたら、ひき肉をパックごと豪快にひっくり返す。すこし潰し広げてそのまま焼く。油はひかず、じっくり。待っている間に洗い物でもしてしまおう。お肉の脂がしだいにじゅわじゅわと溶けて、こんがりと焼き目が付いてくる。頃合いでひっくり返して、もう片面も焼き付ける。これだけでごろっと肉肉しいソースになるっていうんだから、天才。

刻んだにんにくと玉ねぎを加えて軽く炒め、トマト缶を投入。水分を飛ばすように煮詰めて、ソース、コンソメ、塩、ブラックペッパーで味つければ完成。簡単ではあるけど、風邪の時にしてはじゅうぶん贅沢なメニューだ。

たくさん作ってしまったから、はじめはお皿に盛ったパスタの上にソースをかけて混ぜながら食べた。せっかく時間をかけて作ったのに、レトルトのパスタを食べているみたいでなんだか気分が良くなかった。

2日目に食べた時は、フライパンで温め直したソースにパスタを入れて絡ませた。湯気を上げながら深いオレンジ色に染まっていくパスタを見ながらすこし恍惚とした。ひき肉のかたまりを抱きこみながらくるくると麺をお皿におさめたら、さながら喫茶店のランチのよう。そうだ、こうでなくちゃ。これだから料理は楽しいの。うまくできたら世界一のシェフのような気分で、私というお客の満足が約束されるから。

夏風邪に食べる2日目のミートソースは、格別においしかった。何にもしたくないけど、栄養がほしい時のきちんとしたごはん。麺を食べ終えたときに残るひき肉のソースを最後に頬張ると、香ばしさとコクのある酸味が広がる。体は元気ではないけれど、ごはんを食べるって幸せだ。

食べ終わった後にソースが残っているようなパスタは、ソースの量が多すぎるんだと、どこかのシェフが言っていたのをふと思い出した。そういうエレガントな考え方は嫌いじゃないけど、私の作るミートソースだけはどうか例外にしてほしい。

そんなことを考えながら、クーラーの効いた部屋で、また布団に潜りこむ。栄養よ、夏風邪を食べ尽くしてくれ。

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