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本の背をただ眺めている人が愛おしくて


ひさびさに大きな本屋に立ち寄った。

特に目的もなく行く本屋ほど、贅沢な場所はないなと思う。

目当ての本があるわけでもないので、私は店内の隅から隅まで、たんぽぽの綿毛みたいに気まぐれにふよふよ歩いては、気になった書棚の前でぴたりと足を止める。

どんどん本を手に取って開くわけでもなく、ただただ本の背を眺める。この時間が好き。

本とは選ぶものではなく、出会うものだと思っていて。
キザな言い方かもしれないけれど、本当にそうなのです。

本の背を眺めていると、ときどき、本当にときどき、竹藪で光る竹を発見するみたいに、輝いている本が目に飛び込んでくる。

勢いのまま手に入れて読んでみると、これがどんぴしゃ、いま自分がまさに欲していた本だということが、まれにある。

それは紛うことなき、運命的な「出会い」なのだ。


本屋で本の背を眺めている人たちは、この出会いを待っているのだと、私は確信している。


彼らはあきらかな目的を持って本屋に来たのではなく、かぐや姫との電撃的な出会いを求めている。私にはそれが一目でわかるのです。



なぜなら彼らの足取りは、起業を考えてビジネス書の棚に齧り付いている人とも、マンガを全巻まとめ買いする人のそれとも違う。

足元に意識が及ばないゆえ、浮遊するかのようにふよふよと書棚の間の狭い通路をただよっている。

そしてどこかに運命が眠っていないかと、目をキョロキョロさせて本の背をくまなく見ているのです。

そんな彼らの姿を見ると、私は思わずマスクの下でフフと微笑んでしまう。
私も同じです、と声をかけたくなってしまう。
願わくば、あなたにぴったりの一冊が見つかりますように、と。

電子書籍にはない、運命のその瞬間を待つ時間こそ、本屋のいちばんの魅力だという実感を、いま深く噛みしめている。


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