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ショートステイ

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クリエイター・リンク集「バスを待つ間に触れられるものを探しています」
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#散文

彼女は夢の本編

夢の中のあの人はいつも怒っている。

それは私があの人の夢を見ることに負い目を感じているからなのか、あの人を好きでいることに罪悪感を抱いているからなのか、それとも本当に怒っているからなのか、よくわからないけれど、とにかく夢の中のあの人はいつも怒っていて、私は目が覚めるたびに誰もいないさびれた浜辺に打ち上げられたような気分になる。不思議な時空の空白に放り出される。

夢の中で私はあの人とゆるやかな長

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坂道

話が長いのが苦手だ。というか多分、つまらないから早く話を終わらせたいのだと思う。間延びしている会話はじれったくて仕方がない。良かれ、と思って話を広げられるのも嫌だ。リズムよく必要なことを話して、次のステップを踏みたい。長い時間を共に過ごせば、みたいなことで生まれる一体感みたいなものは幻想だと思っている。余白は必要だけれど、それは誰かと共有しなくても良い。やりたいことは沢山あるのだ。人が集ったという

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コップの水

人は距離感を間違える生き物だ。満員電車は当たり前で、その空間の苦痛は我慢すべきものとして理解されている。孤独な人の痛みを知らないで土足で踏み荒らしていく人はとても多い。一人一人の身体の距離感や心の距離感はなかなか尊重されない。自分だけの場所をゆっくりゆっくり耕していきたいのに、それさえ許されないことばかりだ。果たして人は、群れることで失うものの行方を目で追っているだろうか。手放してきたことたちの重

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ちくりしない

かすかななにか。これといっていいたいこともない。しょうたいふめいのものとはらはらとおちるもの。ほうっておいてあふれるもの。しろいしろいぴんく。まろやかなさむらい。ささいなやさしさ。ひとりもいいよ。あなたのふともも。ねこのおなか。いぬのおしり。ゆれるいなほ。

折り畳み傘

自分勝手は周りのものもいっさいがっさい消費されていく気がしています。ひとりよがりで良かったことってあんまりない、っていうか、ほぼない。自分の時間軸に人を巻き込んで得られる心地よさってあるんですかね。後味の悪さが変な色に馴染んでいくような気がします。大変なときこそ、じゃないですか。嘆いたら、その分ちゃんと声が渇いていく。変化していく。何をしていなくても変化していくから、何かしなきゃ。そうやっていつの

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万能細胞

万能細胞

大きなシャボン玉に
園児たちが映り
弾けると
合成洗剤のオレンジの香りが
すぅと胸の中へ沁み渡った

知らない他人の子どもたちの
ふわふわした笑顔で
愛に似た情愛みたいな感情が
沸き
また湧いて
小さな哀しみは霞んだ

毎日毎日の
わたしの心の運動は
どこへ行くんだろうか

今日の想いが
万能細胞になればいい
そうして
いつか
誰かの傷を癒しますように

夏野菜

自動的でありながらそれは大きな流れの中にあって、その流れは絶えず止まることなく流れ続ける。なんのことか分かりゃーせんですが、そういうことが分かるだけで楽になることもあります。日々つきまとう自分が嫌になったとしてもすでにその自分は更新されているわけで、感情だけが必死に追いかけてくるだけなんすね。曖昧なことばかりで、それが心地よい余韻になるのか、先の見えない不安になるのか、そしてそれすら大きな流れの中

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