28. 人は裏切るが、お菓子は裏切らない。

仕事が辛く、頭痛で夜も眠れなかったとき、私はよくお菓子を作った。

お菓子作りは子供のころから好きだった。最初は母が教えてくれたのだが、気づくと一人で勝手に作るようになっていた。
インドアな子供だったので、数少ない友達と遊ぶときもお菓子を作ることが多かった。

高校生くらいになると音楽にのめりこみ、そんなに作らなくなっていたのだが、大学生になって上京した最初の誕生日に母からボウルとハンドミキサーが贈られてきて、そこからまた作るようになった。

大学卒業後にボーカルとして参加したバンドでは、ライブの物販にお菓子を置いていた。大量に作ってしまうお菓子の行き場がなく、スタジオなどでメンバーに配る迷惑行為を見かねてか、メンバーが物販に置くことを提案してくれたのた。

最初はどんな反応がくるかとドキドキしたが、ライブハウスは食べ物を置いていないところも多かったので、とても喜ばれた。ライブ前になると大量にお菓子を作っても許される環境が整うので、本当にうれしかった。大好きなライブがさらに好きになった。

そして仕事で病んでしまったとき、私はまた大量にお菓子を作り始めた。

お菓子は、間違わずに作れば必ず膨らむ。オーブンの庫内灯を点けて、焼きあがるまでの40分間、じっと中を見ていた。

膨らんできた、ちゃんと、君は焼きあがっていく。

何も難しいことはない、私が作ったから、お菓子ができあがったのだ。

人は裏切っても、お菓子は裏切らない。
お菓子を焼くひととき、私は唯一安心して時間を過ごせていた。

そのころバンドは脱退し、弾き語りで活動していたが、相変わらずライブにお菓子を持って行ったりもしていた。

何度かカールモールに出演するようになったころ、マダムから一通のメールがきた。

「カールモールに蓮理さんのお菓子を置かない?」

自分のお菓子がお店に置いてもらえるなんて考えたことがなかった。しかも私が打診したのではない。マダムの方からそう誘ってくれたのだ。

ドキドキしながら返信をした。

「ぜひ、お願いします」


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