見出し画像

なんて愛しきこの人生


たまに思っていたんだ

ある日、神さまが降りてきて
はい、全部嘘でしたって
ケロッとした顔でいうんじゃないかって

今までの全ては嘘でしたって
意地悪してゴメンネって

そういう日が来るんじゃないかって
ずっとそう思っていた

なーんだ、ウソだったのかと、
私は全身の力が抜けて原っぱに倒れ込む

私は起き上がれなくなって
透き通った青空を、
ただぼーっと、
頬を切ってく風と供に眺めている

もう、頑張らなくてもいいんだ
そう思うと
今までの全てがどうでも良くなって

やけに空が青くて
頬をきる風が心地よくて
涙が溢れてくる

そういうときが来るんじゃないかって
ずっとそう思っていた

意味もないのに、
ただ楽しいからって

花を摘んで
蜜を吸って
ボールを追いかけて

友達と一緒に、
あてもなく隣町まで自転車で旅をする

そんな瞬間が
戻って来るんじゃないかって
ずっとそう思っていた

特に意味もないのに
人を好きになって
一日中その子のことを考えているような
そんな瞬間が
戻って来るんじゃないかって

でも、そんな日は来なかった
神はいないんだ

あるのは、
今、此処に、
自分が存在していること

これまでに積み上げてきたものがあって
これからのことは
自分が選べるということ

大人になってしまったな
いつからこうなってしまったのだろう

過ぎ行く時に流され零れ落ちていったものを
いつかきっと、取り返さなくてはならない

変わりゆく街並みの中に
かつての自分の影をまとった
小さな子供達が駆けてゆく

時は流れてゆくけれど
何もかもが変わってゆくけれど

僕の中で泣いていた君だけは
変わらず輝いているよ

疲れたことなんて一度もなかった
かつての自分を想っている

この胸の中で
この温かい命が

消えずに灯っているように

私は強く生きていく

何度だって、会いに来るよ
きっと、寂しくなんてないから

あの子はきっと
今も原っぱを走っているだろう

みんなに愛され
万遍の笑みで花咲くあぜ道を駆けてゆく

いつの日か
もう一度出会えると良いな



私はこの激しい群像劇を生き抜いてゆくと誓った

愛の泉になりたければ
冷たい夜露も飲み込まなくてはならない

この世界は病んでいる
人に優しくすることすらできない人達が増えている

人は愛の裏返し
憎悪に満ちて生きている

きっと、逆なのに

愛し、愛され
守り、守られるために人は生きてきたのに

それが、この苦しい世界で
人が命を紡いでいく理由であるのに

誰もが傷ついて
立ち直れなくなって
心にバリアを張って生きている

みんな、病んでいる

人を包み込むような慈しみの雨が
この世界を包み込めばいい
温かな慈雨が、全てを溶かして包み込んでゆく

そういう人に、私はなりたい



子供が出来るということは
かつての自分達に会いに行くことなのかもしれない

守りたいものがあることが
大人が生きてく生命線

命に代えても守りたいものが無ければ
とうの昔に、大人は死んでいるだろう

酒、煙草がなければやってらんないなんて

そんな寂しいことがあるかって
そんな虚しいことがあるかって

ずっと、そう思っていたのに

また一つ、失いたくないものができた

全部、嘘でしたって
もう頑張らなくても良いよって
そう言って欲しい



かつて過ごした街並みも
思い出も、友情も、何もかも
全ては変化していく

ただ、一切は過ぎてゆく

それでも、君は駆けてゆく
振り返ってはいけない

君は琥珀を胸に宿し
進んでゆかねばならない

遠くから見なくたって
きっと喜劇にしてみせる

この冷たく乾いた群像劇を



何か温かなものが
少しでも、周りに広がっていけばいい

本当はもっと甘えていたい

自分が助けて欲しい
誰かに守って欲しい

でも、もういいんだ
私は大人になってしまったから

いつかきっと、
報われる日が来る

今までよく頑張ったねって
誰かが撫でてくれるだろう

私はきっと、万遍の笑みで
自慢するだろう

ねえ、凄いでしょって
僕、頑張ったでしょって

嘘でもいいから
大きな笑みと共に
僕を抱きしめて欲しい

そうしたらきっと
泣いてしまうだろう

これが欲しかったんだって
気付いたから



いつかきっと
もう会えなくなった人達にも会えるときがくる

彼らのために
彼女らのために

私は今を生きていこう

温かな思い出が
私の背中を押してくれるから

素敵な思い出が
今も私を包み込んでいるから

たまに涙するときがある
私は愛されてきたから

でも、しばらくすれば
私はまた、生きてゆかねばならない

でも、今日くらいは、
昔みたいに、雨が降っても、
傘を差さずに帰ってみようかな

たまには、子供になっても
昔の自分に会いに行っても
ちょっとくらいいいじゃない

帰ろう
前みたいに

雨燦々と降る街を
笑顔で駆け抜けてゆこう

私を待っている人がいるから
何て愛おしい、この人生










【必見一覧】noteで読める、おすすめの作品




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?