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雑文ラジオポトフ

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#舞台

猛獣の怪我を治して死んだふり

猛獣の怪我を治して死んだふり

シリーズ・現代川柳と短文 033
(写真でラジオポトフ川柳121)

 かつて行った舞台公演にキャラクターのひとりが凶刃に倒れるシーンがあった。まぶたを閉じ、仰向けになる俳優。静まり返る劇場。そのとき客席からこどもの声がした。「死んだふりだ〜」うん、そうだよ。死んだふりだよ。続いて舞台上ではそのキャラクターの親友が涙を流しはじめた。こどもは一緒に来ていた親に注意されたのか、こんどはなにも言わなかっ

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はちのみつうまくいかないこともある

はちのみつうまくいかないこともある

 現代川柳と400字雑文 その80

 俗に、はちみつはのどにいいとされる。わたしが脚本と演出を務めた舞台公演の楽屋に、大きなボトルのはちみつが置かれていたことがあった。絶叫に近い発声が多くあった作品で、のどのケアが必要と考えた誰かが用意したのだろう。やがて、ボトルを掲げて口を開け、のどにはちみつを直接流しこむ者たちが現れた。Uさんもそのひとりだった。Uさんは演出の指示に全力で応えようとしてくれる

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ゴミの日に生まれてゴミの日に眠る

ゴミの日に生まれてゴミの日に眠る

 現代川柳と400字雑文 その71

 何年か前の引っ越しの際、舞台で使った小道具や衣装をまとめて廃棄した。その中に血まみれの白いシャツがあった。もちろん偽物の血、血糊というやつだ。たぶん腹を刺されたか撃たれたかしたという設定だったんだと思う。半透明のゴミ袋にシャツを入れると一気に不穏になった。うっすら透けて見える真っ赤な血の色、がすこし酸化した、茶色がかったリアルな赤色。事件だ。すくなくとも事件

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動物が月の明かりで菓子パンに

動物が月の明かりで菓子パンに

 現代川柳と400字雑文 その68

 満月は人の心を狂わせる。なるほど魅力的な考えだ。おそらく、あの妖しげな光につい魅了されてしまうのだ、的な意味合いもあるだろう。漱石の名を引き合いに出すまでもなく、月はロマンの源泉である。大学の後輩に、月を見ながらワインをひとびん空けるのを趣味としていた者がいた。ワインを飲みながら小説を書くこともあったらしいが読んだことはない。かつて同じ劇団で演劇を作っていた

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人体のはて当店のあるところ

人体のはて当店のあるところ

 現代川柳と400字雑文 その45

 こうして毎日どうでもいい現代川柳を作ることができているのは、そこに「お題」があるからだ。お題。画像の部分がそれにあたる。言い換えれば、わたしがここで作っている現代川柳は、すべて画像に対する「リアクション」となる。すべての表現、いや、すべての行為は、なにか別の要因に対するリアクションとしてある、と言ってみたい。無意識でやっている呼吸すらも、「酸素がほしい」とい

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声が隅ずみまで届く東京だ

声が隅ずみまで届く東京だ

 2016年、東京体育館で行われたいとうせいこうさんのフェスに、親しいコントユニット・テニスコートが出演した。とんでもない大舞台だ。わたしも出演したかったが叶わず、その代わりこっそり入手したスタッフパスを駆使して客席や楽屋にもぐりこみ、ここぞとばかりにスチャダラパーだの岡村靖幸だの全アーティストをリハーサルから凝視、楽屋のケータリング全種類を食べた。とてもいいフェスだった。

 しかし、あまりにス

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