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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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2023年4月の記事一覧

トラックを作って乗って抱き合って

トラックを作って乗って抱き合って

シリーズ・現代川柳と短文 101
(写真でラジオポトフ川柳189)

 トラックを作るパーツを積んだトラックを運転してトラック工場に行く。工場にはまだトラックになる前のパーツが数多くあり、いま自分が運転しているトラックもトラックになる前はただのパーツだったのだと思えてきて、不思議な気分になる。帰りはなにも積んでいないトラックを運転して帰った。

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かろうじてうさぎの服を着てうさぎ

かろうじてうさぎの服を着てうさぎ

シリーズ・現代川柳と短文 100
(写真でラジオポトフ川柳188) 

 ファッションという鎧をまとうことで外の環境と戦えるのだとしたら、それを脱ぐ行為は自分の内面と向き合うことを意味する。それと同時に「脱ぐために着る」という価値観が生まれるだろう。つまり「脱ぐためのファッション」である。

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届かないうそをかさねてまあ届く

届かないうそをかさねてまあ届く

シリーズ・現代川柳と短文 099
(写真でラジオポトフ川柳187) 

 ひと口食べる。辛い。めちゃくちゃ辛い。どういうことだ。辛くないと言ったじゃないか。完全に嘘じゃないか。たしかに辛さの感じかたは人によってちがうが、これはひどい。こんなことならどのくらいの辛さなのか数値で教えてほしかった。スコヴィル辛味単位で教えてほしかった。

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色のない街がこんなに待っている

色のない街がこんなに待っている

シリーズ・現代川柳と短文 098
(写真でラジオポトフ川柳186) 

 甘い味付けが苦手で、すき焼きや肉じゃがをほとんど食べない。牛丼も食べない。ひさしぶりに牛丼屋に行ったとき、よし、ふだんあまり来ることがないからな、せっかくだし、と、トッピングを楽しむべく生玉子を注文した。牛丼の上から溶いた生玉子をかける。ひとくち食べる。そこでやっと気づいた。これ、すき焼きの味じゃん。ふだんすき焼きを食べない

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モナコには圧力的なものがない

モナコには圧力的なものがない

シリーズ・現代川柳と短文 096
(写真でラジオポトフ川柳184) 

 モナコのカフェでフィアンセとアールグレイを飲んでいると、まだ田無にいたころの記憶が蘇ってきた。フィアンセはそのころのぼくを知らないし、これからも言うつもりはない。ただ、なんとなく、ティーカップの裏側の底とか、道行く御婦人が連れているマルチーズの足の裏とか、そのへんがすこしずつ田無に置き換わっていく感覚をおぼえた。

▼これま

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犬たちにやることがなくなっていく

犬たちにやることがなくなっていく

シリーズ・現代川柳と短文 089
(写真でラジオポトフ川柳177) 

 我が家の犬はしゃべることができたが、それが珍しいことだとは思っていなかった。おそらくわたし自身が犬に興味を持っていなかったのだろう。犬がしゃべる内容は、たとえばネットで読んだ記事の受け売りだったり、若いうちにあれをやっておけ、とかいう説教じみたものだったりした。あと、テレビのリモコンを取ってくれとか。

▼これまでの「現代川

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歯がこわい、人に生えてる歯がこわい

歯がこわい、人に生えてる歯がこわい

シリーズ・現代川柳と短文 097
(写真でラジオポトフ川柳185) 

 素朴な疑問だが、歯医者の看板に描かれている歯は誰の歯なのだろう。治療する歯は患者の口の中にあるから、看板に描かれているはずがない。歯科医やスタッフの歯だとしたら、それを看板に載せる意味がわからない。わからない。誰の歯なんだ。考えているうちに虫歯は進行する。

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みなさんに命令することをやりたい

みなさんに命令することをやりたい

シリーズ・現代川柳と短文 095
(写真でラジオポトフ川柳183) 

 命令されるのが嫌で、しかし命令するのにも慣れず、結局Kさんは会社を去ることにした。命令されることもすることもなくなった安寧の日々。が、とある昼下がり、Kさんはある思いに駆られた。誰かに命令したい。あるいは誰かに命令されたい。どちらも急には実現できなかった。

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わたしたちフォームのように恋をする

わたしたちフォームのように恋をする

シリーズ・現代川柳と短文 094
(写真でラジオポトフ川柳182) 

 Aはそれまで恋をしたことがなく、Bはそれまでドーナツを食べたことがなかった。ふたりは会ったその日に恋に落ちた。恋ってこんなにすてきなものだったのか、とAが言い、Bはそれを微笑みながら見ている。隣の部屋では油に熱が入る。ドーナツを揚げる油である。もうしばらくすると揚げたてのドーナツがふたりの前に運ばれてくるが、それを食べるのは

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毎日がふんわりですと言ってくる

毎日がふんわりですと言ってくる

シリーズ・現代川柳と短文 093
(写真でラジオポトフ川柳181) 

 うっとおしい、などと思ってはいない。明るい気持ちになるので、むしろありがたく思っている。ふんわりだよ、以前はそう言っていたはずだ。いつからか、ふんわりです、になっていた。「だよ」から「です」に。ささいなことである。だからこそ気になる。なんせ隣の住人のことなのだ。ああ、ゆっくり眠れる日はいつになるのだろう。

▼これまでの「現

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誰にでも優しい博士こっちだよ

誰にでも優しい博士こっちだよ

シリーズ・現代川柳と短文 092
(写真でラジオポトフ川柳180) 

 アニメ『名探偵コナン』の主人公は江戸川コナンという少年だが、その正体は高校生探偵の工藤新一である。そのコナンをサポートする天才科学者が阿笠博士という人で、この阿笠博士役の声優が緒方賢一である。映画の名探偵コナン第2作『14番目の標的(ターゲット)』は、この工藤新《一》と緒方賢《一》というわずかな共通点を活かした展開にすれば傑

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ぼくの席から見えそうなきみの席

ぼくの席から見えそうなきみの席

シリーズ・現代川柳と短文 091
(写真でラジオポトフ川柳179) 

 中学生のとき、あみだくじを使って席替えをしたことがある。担任が紙に1クラス全員分の本数のタテ線を引き、上端と下端だけが見えるように折り曲げ、わたしたちに見せた。はい選んで、と言う担任がやたらとニヤニヤしていたので、あ、こいつたぶん、ヨコ線引いてねえな、と思った。それのどこがおもしろいのかわからないが、果たして、折り曲げられた

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駐車場 犬になりたい人びとは

駐車場 犬になりたい人びとは

シリーズ・現代川柳と短文 090
(写真でラジオポトフ川柳178) 

 ヘリコプターから駐車場を見下ろしている。車を停める場所だ。でも犬がいた。そこにひとりの人物がやってきた。グレーのキャップをかぶって、きょろきょろとあたりを見回している。車を探しているのだろう。しかしそこには犬しかいないのだ。その駐車場はたぶん自分がこどものころの祖父母の家の駐車場で、人物はまだ生きていたころの祖父だ。しかしそ

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ここからはそれぞれ車上ねらいだね

ここからはそれぞれ車上ねらいだね

シリーズ・現代川柳と短文 088
(写真でラジオポトフ川柳176) 

 あたりを見回し、秘密の方法で鍵を開け、後部座席の100万円を盗み出すと、ぼくたち4人はばらばらの方向に逃げた。もう会うこともない。そう思っていたのに、ぼくたち4人は同じ日に刑務所に入った。初日はわくわくして眠れなかった。ばらばらに逃げたあの日のあの瞬間、それぞれが浮かべていた必死の形相がおもしろすぎたよね、と4人で笑いあった

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